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舞台装置は闇の中  作者: 彼方灯火
第4章
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第31話 どちらの言葉?

 色々なことをした気がするが、まだ朝には違いない。昔、「おはよう」という挨拶は、何時までならして良いのか、何時から「こんにちは」と挨拶すべきなのかといった話題を耳にしたことがあるが、月夜は未だに結論を出せていなかった。彼女の感覚でいえば、だいたい十時くらいになったら「こんにちは」にすべきではないかという感じだ。感覚なので、特に何の根拠もない。人によって違うというのが実体ではないだろうか。


「綾取りでもしない?」


 ソファに座った真昼が声をかけてきた。なお、月夜もソファに座っているので、二人の距離は今も近かった。ゼロ距離というほどではないが。


「どんな紐がいい?」月夜は尋ねる。


「うーん、何でもいいけど……。あんまり細すぎると、指が痛くなるからね。毛糸くらいの太さがあって、毛糸くらいの柔らかさならいいんじゃないかな」


「つまり、毛糸がいい、ということ?」


「うん」真昼は頷く。「そうなるね」


 月夜は立ち上がって、ソファの後ろにある戸をスライドさせ、荷物を収納してある和室に入った。荷物といっても、特別な何かがあるわけではない。部屋の押入れから裁縫セットを取り出して、中を覗いてみると毛糸の類が何本か見つかった。いつかの家庭科の授業で使ったものに違いない。


 真昼に毛糸を手渡すと、彼はすぐに形を作り始めた。最初は東京タワーで、その次に蝶になった。


 単純な紐にしか見えないということがないのは、不思議なことではないかと、月夜は真昼の芸を見ながら思った。たぶん、頭の中に東京タワーや蝶の形が先にあって、そういう目で紐を見ているからだろうが、紐を無視して、形を見られるというのは、なかなかに高度な能力のように思える。


 真昼が紐の一部を差し出してきたので、月夜は彼と一緒に二人で綾取りをした。紐は一本だけなので、互いにクロスさせるようにして繰っていく。


 所謂餅つきと呼ばれる形になって、二人で手を叩き合って遊んだ。何のコメントもない。いつまでも続くであろう動作を、その通りに二人でいつまでも続ける。単調だが、電車に揺られているような感覚で、月夜には比較的心地良く感じられた。


「餅つきというよりは、スプリングのような感じだね」


 真昼が口を開く。


「そういえば、今は、春だね」

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