表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
舞台装置は闇の中  作者: 彼方灯火
第3章
21/255

第21話 反対

 休日の朝、月夜が自室で本を読んでいると、階下でインターフォンのチャイムが鳴った。


 月夜は、基本的に休日も平日と同じようなサイクルで動く。サイクルというのは、生活を構成する最低限の枠組みについて適用できるもので、学校に行く平日と同じように、朝から夕方まで勉強したりはしない。ただし、まったく勉強しないということもなかった。その週の復習くらいはする。


 フィルがまだ眠っていたから、次のチャイムが鳴る前に、月夜は階段を下りて玄関に向かった。


 朝の冷たい階段。


 玄関の二段構えの鍵を解錠して、月夜はドアを開ける。


 最初、誰もいないと思ったが、暫くすると、ドアの陰から小柄な少年が姿を現した。彼は月夜の前に立って不敵な笑みを浮かべると、少しだけ首を傾げた姿勢で固まった。


「おはよう」


 月夜が挨拶をしても、彼は何も答えなかった。代わりに、月夜の方へそっと近寄ると、そのまま背後に手を回して、彼女を正面から抱き締めた。


「何?」


 抱き締められたまま、少しだけ顔を後ろを向けて、月夜は尋ねる。


 髪の接触。


 摩擦。


「いや、別に」少年は答えた。「久し振り」


「久し振り、の基準は?」


 月夜がそう尋ねると、少年はもとの姿勢に戻って、また正面から彼女を見据える。


「元気そうでよかったよ」


「元気、とは?」


 少年をリビングに招いて、月夜はキッチンでコーヒーを淹れた。手で淹れることはしない。メーカーのドリッパーに粉をセットして、自動で注がれるのを待つだけだ。


 なんとなく、リビングに戻らないで、コーヒーが入るのをその場で待つ。


 月夜の家に訪ねてきた少年は、真昼という名の知り合いだった。彼は、彼女の知り合いで、けれど、いつから知り合っているのか、月夜は覚えていない。それだけではなかった。月夜は真昼がどういった存在なのか、まったくといって良いほど把握していない。もちろん、自分との関係性については理解している。そうではなく、世間一般、社会一般の中での彼の位置づけというものを、月夜は知らなかった。


 真昼には不明なところが色々ある。もしかすると、それは月夜も同じかもしれないが、それ以上に分からないところが多い。でも、彼は月夜の数少ない知り合いで、そして、フィルと同様に親しい間柄だった。


 いや、それも違うか……。


 親しい間柄、ではない。


 その表現は間違えている。


 では、どのように正すべきか?


 数秒間考えてみたが、適切な表現は思いつかなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ