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舞台装置は闇の中  作者: 彼方灯火
第2章
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第19話 並行する二つ

 道をずっと進んで、トンネルを抜けて、工場の傍を通り、ガソリンスタンドの前を通って、山を右手に見ながら、自宅への道を歩いてきた。空気は清浄。そう思った瞬間に、肺の中の二酸化炭素が汚く思えてきて、今すぐに自分の身体を河川で洗い流したい衝動に駆られる。自分がそんな都合の良い人間なら、もう少し生きやすいかもしれないと思ったが、態度というのはいつでも変えられるものだから、そんな自分を縛っているものは何だろう、と月夜は多少疑問に思った。


 フィルがてくてく歩く。


 月夜もとことこ歩いた。


 自動車はほとんど走っていなかった。時間の影響だ。時間とは、どこにあるのだろう、と月夜は考える。空間は、こうして移動しているのだから、確かにあるように思えるが、時間の場合はそうではない。空間の中は積極的に移動することができるが、時間の場合は、こちらから積極的にはたらきかけるというよりも、むしろ向こうの方から勝手に動く感じだ。つまり、能動、受動の対立として取り出すことができる。不思議な思考だが、要素が二つ含まれているということは、幾分真理に近い考えだと評価することができるのではないだろうか。


「今日の月夜は安定している」


 まるで二人三脚をしているように、ぴったりと歩調を合わせていたフィルが、その歩くリズムに合わせるように言葉を発した。


「いつもは、安定していない?」


「安定しているようで、していない」フィルは話す。「ほかの奴らと比べたら、だが」


「どうして、比べるの?」月夜は不思議に思って尋ねた。


「そこに二つ以上存在するから」


「一つだったら、比べられない?」


「何を比べる?」


「今の自分と、一秒あとの自分」


「二つあるじゃないか」


「統合体として一つ」


「都合がよすぎないか?」


「都合よく考えるのが、人間の常套手段では?」


「では、まず、第一に、お前は人間なのか?」


「どうして、まず、第一に、と、同じ意味の単語を、二つ並べて使うの?」


「二つ使うことで、効果が増大するからだ」


「なるほど」月夜は頷く。「では、自己と、他者が存在するのは、それらが存在することによって、何らかの効果が増大するのが期待されているから、ということでいい?」


「思考が飛躍しているし、説明になっていない」


 坂道が現れる。


 それを上れば自宅に辿り着ける。


「桜、もう、散っちゃったかな?」


 月夜は質問したつもりだったが、フィルは答えなかった。

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