6話 エルフの国
――エルフ国 城前
「ごめんよ、みなも……遅くなっちゃったね」
お父さんはお酒や果物を抱えながら申し訳なさそうに言った。
「ううん! 大丈夫だよ! お父さん人気者なんだね!」
私はこの時、エルフの国とは仲が良いんだな~程度しか思っていなかった。
「あはは。さぁ、入ろうか」
そうして私達は城へと入っていった。
「ようこそおいでました。勇者様」
城を入ってすぐに、執事の様な人が現れた。
私は執事というと、ダンディーなおじさまを想像する。
しかし、この執事はエルフだからか若々しくて凛とした顔つきだ。
「突然ごめんね。セバス、国王は居るかい?」
お父さんがそう言うと、セバスは一瞬暗い表情を見せたが、淡々と答えた。
「申し訳ありません……先週から遠征に出ておりまして……しばらく不在が続くかと」
「……そうだったんだね」
お父さんはその一瞬の表情を見逃さなかった。
「ですが、食事と寝床はご用意できますので本日はどうぞお泊り下さい」
「では、お言葉に甘えるよ」
私はその間、セバスをじっと見ていた。
振る舞いが本当に素晴らしい! 凄い執事さんだよこの人は……!
「ええ、是非そうしてください。ところでそちらの方は……?」
私はセバスさんと目が合った。
ずっと見ていたの、バレたかな……?
「ああ、私の娘だよ」
「おや、この方が良く言っていた自慢の娘さんですか」
セバスは私に優しく微笑んだ。
「あはは、本人がいるのに恥ずかしいな……みなも、この方は国王のお付きの方……セバスさんだ」
お父さんはその流れで私を紹介した。
「セバスさん……初めまして! 私はみなもっていいます!」
私は元気よくセバスさんに挨拶した。
第一印象は大事だからね!
「元気があって良いですね。可愛らしい方です」
「ええっ! いや……そのぉ……」
セバスは私に笑いかけた。
そしてきょどってしまう私……しっかりしないと……。
「ではこちらでお待ちください。食事の用意を致しますので」
そういってアニメとかでしか見た事の無い長ーい大理石のテーブルへと誘導された。
「すごい……リアルにこんなテーブル有るんだ。いや、リアルと言っていいのかな……?」
「あはは、みなもはお父さんの初めてと同じ反応だね。凄いよね。流石お城だよ」
「うんうん、てかお父さん?」
「どうしたんだい?」
「何で勇者って呼ばれてるの? 能力が勇者だから?」
私は聞きそびれていた質問をいま投げかけた。
「うーん……そうだね。気がつけばみんながそう呼んでくれてるんだ」
お父さんがそう答えた後、セバスが部屋へとやってきた。
「何を言っているのですか勇者様。貴方は魔王を倒したお方……勇者と言わず何と呼びましょう」
セバスはグラスにワインを注ぎ、そう話した。
そして、他のメイドさんが食事を運んできた。
「魔王を倒した?! え? お父さんが!?」
魔王って何? ゲームのラスボスとかの魔王? お父さんが倒した?! どういう事なの!
「おや、話してなかったのですか? 勇者様」
「あれ、話してなかったかな……?」
お父さんは注がれたワインを口にしながらとぼけた。
「だから町の人もあんなにお父さんの所に……!」
お父さんが人気者な理由がやっと理解できた。
魔王を倒して世界を救った……さらっと言ってたけどとんでも、なく凄い事では……?
「全然想像できない……でも、魔王を倒したとかお父さん完全に勇者じゃん! 凄いよ!」
「あはは、ありがとう、みなも」
横にいるお父さんが勇者……全然実感が沸かないけれど……。
でも、あんなに大きな家に住んでたり、国王と知り合いだったり……世界を救ったと言われて納得できたような気がする。
「ところで、北部の方に少し魔物の気配がするが……」
お父さんは窓の方を見ながら言った。
「やはり分かりますか、勇者様……そうですね。洞窟付近で繁殖してしまったようで……国王も遠征中なので少々て手間取っております」
セバスは頭を下げながら状況を説明した。
「そうか……では食事のお礼にそこは私が片付けておくよ」
お父さんは食事を中断し、セバスの方へと寄った。
「本当ですか! 感謝いたします……!」
「他に困りごとはないかい?」
「ええ……実は……」
そんな感じで、そのまま二人は打ち合わせの様な事をしていた。
私はご飯に集中している訳だが……。
「何これ美味しい!」
普通に美味しくてびっくりしている。今日食べている食事はまるで高級フレンチだし……。
中でも一番美味しいのは大きなエビの様な魚介類だ。
日本で食べたエビより遥かにぷりぷりで濃厚な味で感動だ……。
「こちらはここから北東の森で捕れる、[フォレストワーム]を蒸してエルフ国特製のソースをかけた物です」
一人のメイドさんが私の独り言に答えてくれた。
「フォレスト……ワーム……? へ、へえ……!」
ワーム……虫って事?! 森で捕れるって、魚介ですらないのか……。
それを聞いて、一瞬手が止まるも……
「美味しいから手が止まらないよう!」
その疑問は残したまま、私はそのフォレストワームを口に運んだ。
「ふふ、おかわりもありますからね」
そうして食事を楽しんでいると、いつの間にか武具を装備したお父さんが話しかけて来た。
「みなも、ちょっとセバスと出かけてくるよ。数時間もすれば帰れると思うから、先に休んでおきなさい」
「こんな夜に!? 気を付けてね……」
さっき話をしていた魔物の討伐に行くのだろうか。
少し心配だけど、お父さんは凄く強いっぽいし、大丈夫だよね……。
「じゃぁ行ってくるよ」
「うん。行ってらっしゃい!」
そうして二人は出かけて行った。
「では、みなも様こちらで御座います」
「あ、はい!」
そういって私は客室の方へと案内された。
「では、何かありましたら呼んでくださいませ」
「はい! 有難うございます!」
部屋を見渡してみると、ベッドの横に本棚があり、本がたくさん置いている事に気が付いた。
「綺麗な部屋だな~。あ、本がある」
みなもは何気なく1冊の本を手に取ってみた。
「何々……[勇者物語]……」
みなもは何気なくその本を手に取り読み始めた。
――
旧暦95年、神の加護を受けし勇者……彼は突然、中央神国に現れた。
ボロボロに疲弊していたドワーフ、エルフ、獣人の国を救い、各国で出会った3人の仲間と共に魔王討伐の旅を続けた。
(中略)
そして……たった5年で魔王討伐という伝説的な偉業を成し遂げたのだ。
その後、仲間たちは各国に戻り、王となり国の復興に尽力を注いだ。
旧暦100年……この年を節目とし、新たに新暦として呼ぶ事となった。(新暦0年)
(後略)
――
「あれ……そういえばこの文字全然読めるな……身体が変わった時に知識も備わったのかな……」
というより……この勇者ってお父さんの事だよね?
5年ってなってるけどお父さんが亡くなったのは2年前……時間が合わない……。
私は部屋を出て、一人のメイドさんに声を掛けた。
「あのすいません」
「はい? どうしましたか?」
「今って新暦? 何年ですか?」
「今は新暦5年ですよ」
私の質問に、メイドさんは笑顔で答えた。
「あ、有難うございます」
その質問だけをし、私は部屋に戻った。
つまり、お父さんはこの世界に来てから10年経ってるって事よね!?
地球と時間の進み方が違うのかな……?
大体1年で5年経ってる感じよね。
「にしても凄いな……お父さん本になっちゃってるじゃん」
ごろごろしながら本を眺めている内にみなもは眠りについていた。