表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/62

5話 お出かけ

「折角だし旅行でもしようか!」


 朝食時に、お父さんは突然言い出した。

 現状が既に旅行気分ではあるけど……。


「突然だね……!」

「ここは色々な国があるんだよ」


 そういってお父さんは地図を出して説明をし始めた。

 住んでいるこの国はアラキファを敬う[中央神国]そしてドワーフ、エルフ、獣人が住む国がそれぞれあると聞いた。


「というのも……お父さんどちらにしろ今日行かないとならない場所があるんだ」


 そういうお父さんは確かに、出かけるような服装をしている。


 白基調のマントローブを羽織り、英国紳士を思わせる服装だ。腰には剣を携えている。

 こっちの出かける服装というのは、武具を身に着けた状態が殆どである。にしても似合い過ぎだよその格好……。


 そんな世界なのに、私はここに学生服で来てしまったわけだが……。

 入学したばかりで新品の学生服……着ないと勿体ないもんね!


「そうなんだね! じゃぁ私も一緒に行くよ」

「良かった!」


 お父さんはそういって抱きしめてきた。


「ちょっと! いちいち抱きつかないでって……! それより何処に行くの?」


 私は少し恥ずかしながらお父さんを軽く押し退けた。


「とりあえずエルフの国だね!」


 お父さんは地図を指差した。


「そこは遠いの?」

「そうだね……馬で行ったとすれば2週間はかかるけど……」

「馬……!」


 車とか無い世界なんだね……! 馬での移動も楽しそう!

 でも2週間も乗ってたらお尻が凄く痛くなりそう。


「ゲートを開けば2時間ほど歩いたら着くよ!」


 そんな心配をよそに、お父さんは神の間に行く前と同じように、空間を指で切り裂いた。


「そのゲートって魔法? 便利だね……みんなそれで移動するの?」


 そう質問すると、お父さんは少し頭をひねり、答えた。


「うーん……使えるのはこの世界ではお父さんと神様だけかな?」

「え……」


 ……何それめちゃくちゃ凄くない?


「さ、入って! 行くよ!」


・・・

・・


――エルフ領 郊外


「うわー綺麗な場所だね! 写真とっとこ……ってスマホ無いんだった」


 出てきた場所は森の中だった。

 広葉樹の形をした木々は淡く青色に発光しており、幻想的な雰囲気を出している。

 地球では見た事がない風景だ。


「そうだろう? この森の香りと景色はいつ来ても素晴らしいよ」

「だね~青色のせいか気持ちが落ち着いて、お昼寝とかできそうだよ~」


 私は深呼吸をしながら言った。

 この森はハーブの様な、少しだけスーッとするような香りがする。良い匂いだぁ。


「でも、魔物は出るから一人で何処かへ行かないでね?」

「魔物!? そっか、存在するんだったね。この世界は……」


 いまだに魔物の姿は見ていないが、どんな奴がいるんだろう?

 この際、魔物でも良いからイケメンにモテたいってものだよ……。


 そんな事を思いながら、二人で道を進んでいく。


「そういえば、直接国には飛べないの? ゲートって」

「普通の人が近くにいると飛ぶことが出来なくてね……だからお父さんたちの家も周囲には誰も住んでいない郊外なんだ。それでもたまに近くに人がいるみたいで直接飛べなかったりもするね」

「へ~。超万能って訳でもないのね」

「とはいえ、結構近くまで飛べるから……ほら、見えて来たよ」


 お父さんは目の前を指差した。


「うわあ……幻想的な所だね……」

「あれがエルフの国だよ」


 森を抜けたかと思うと、少し先には国を囲う様に規則的に樹木が立ち並び、それが門の役割も果たしているようだ。

 人工的な光は無く、蛍の様な優しい光が道を照らしている。


「さぁ入るよ。王にも挨拶しないとね」

「あ、うん」


 ぼーっと眺めてしまう程、心が安らぐ空間だなぁ。


 そのまま真っ直ぐと進むと、門のような場所が見え、兵士が前に立っていた。


「あ! 勇者様! ようこそおいでました!」


 少しゆったりとしていた兵士は、お父さんを見かけるや否やびしっとした姿勢になった。


「あはは。有難う。平和そうで何よりだね」

「ええ! おかげさまで! 我ら守備兵は暇なほどですよ」


 兵士は少し緊張気味のようだ。そんな兵士の肩をお父さんは優しく叩きながら言った。


「そういった役割の人は暇な方が良いんだ。だけど、鍛錬を怠っては行けないよ?」

「ええ! もちろんです! さ、門が開きました。どうぞお入りください」


 会話中にもう一人の兵士がせっせと門を上げていた。

 そのまま二人で門をくぐり、入国した。


「お父さん、あの兵士さんとは知り合いなの?」


 私は素朴な質問を投げかけた。来たことがあるのなら、知り合いの一人や二人居て当たり前か。


「え? いや、初めて見る顔だったね」


 お父さんからは少し予想外の回答が来た。


「あれ、でもお父さんの事は知ってたよね……?」


 でも、そういえば勇者様って言ってたよね?

 そこも質問しようとした瞬間、酒場らしき所から一人のエルフが出てきた。


(うわぁ、すっごいカッコいい人だ……というか、よく見たらここに居る人達みんなイケメンじゃない!!)


 そして、そのエルフはお父さんにさっと近づき、酒瓶のような物と木のコップを出した。


「勇者様! どうですか一杯! 良質な樹液糖酒が出来たんですよ!」


 そう言いながらエルフはコップに酒を注いで差し出した。


「いいね! でも今はダメだ。国王に会う前だからね」


 お父さんがやんわりと断ると、エルフはもう一本新しい酒瓶を目の前に出した。


「そうかい! なら一本持ってってくれ!」


 出した酒瓶をお父さんに無理やり持たせながら言った。


「ええ、いいのかい……?」


 お父さんは突然のプレゼントに少し困惑したが、エルフは笑顔で

「国王と一緒に飲んだらいい! それに勇者様も絶賛の酒って宣伝ができるしな!」

 と答えた。


「あはは。ちゃっかりしてるね。ありがとう! 頂くよ」

「ああ! 気が向いたら感想を言いに来てくれ!」


 エルフはコップに注いだ酒を、グイっと飲みながらお父さんを見送った。


 その後も……。


「勇者様、今日も凛々しいお姿で……」

「ゆうしゃだー! ねぇサイン頂戴ー!」


 そんな声が道中絶えないのだ。

 お父さんはその声に全て優しく対応しながら進んでいた。


 そして、エルフ国の城に着いたころには辺りは薄暗くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ