11話 フードエリア
「は~良い匂い。こういう屋台が並んでる場所ってわくわくするよね!」
ここはフードエリアと呼ばれており、様々な料理がこの場所に集まっている。
屋台で購入して外で食べるパターンが大半だが、中には店を構えていて店内で食べる場所もある。
店内の場合は少しお高そうな感じだ。
「あ、何だろうあれ……焼きそばかな! シア行こう!」
私はソースの匂いに誘われ、その屋台へと直行した。
「へいらっしゃい!」
大きな鉄板で野菜や麺を焼いている。
ジュゥジュゥという音で食欲が沸く。
「うわー美味しそう!」
「お、嬉しいねえ! 注文してくれたらサービスするよ!」
おじさんはかなり気さくな感じで良い人そうだ。
「本当? 私は食べるの確定として……シア、これどう? 食べられそう?」
そう言って、私はシアを抱き上げ鉄板の上を見せた。
その瞬間……
「シア坊ちゃま!?」
突然、おじさんはシアを見て叫んだ。
「え……え? シア、このおじさん知ってる人?」
シアはおじさんをじっと睨みつけた。
「……知らないよ」
そして首を大きく横に振った。
「まぁそうでしょうな……シア坊ちゃまはまだ幼子だった……記憶など残っておらんでしょう」
おじさんは遠い目をしながら話した。
「そ、そうなのね」
私はそれに対して戸惑いを隠せない。
というか、現時点では怪しいおじさんだ……。
「サンロウ! ちょっとこの屋台任せた!」
「へい!」
おじさんは横に居た人に焼きそば屋台を任せ、こちらへとやってきた。
「お嬢ちゃん、よかったらそこで少し話さないかい? やきそばは吾輩のおごりじゃ!」
そういっておじさんは二箱の焼きそばを渡してきた。
「いいよ! お話だけなら!」
しまった……やきそばに釣られたけど、知らないおじさんと話すって……!
でもそこの席でだから危険は無い……かな?
「ほれ、熱いうちに食べるといい」
「わー! ありがとう!」
そうして私は、話をする前にまず。やきそばを頬張った。
私のよく知る味だ……ここまで前の世界と似た商品もあるんだな~。
そして焼きそばを頬張る私を、おじさんは笑顔で静かに見ていた。
「あ、ごめんなさい。美味しくて食べるのに夢中で……」
おじさんは笑顔で
「がっはっは。美味そうに食ってくれて作った甲斐があるわ!」
ともう一つ焼きそばを持ってきてくれた。
とりあえず水を飲んで一息つき、私はおじさんに自己紹介をした。
「すいません。私、みなもって言います。この子はシア=ジース。おじさんはもう知ってるみたいだけど……」
シアは硬い表情をし私にくっついている。かなり警戒しているようだ。
「みなもちゃんか。良い名だな! 吾輩はガウレス。元々は魔王の側近という肩書きだった……」
ガウレスは悲しそうな声で言った。
「へー……って魔王の側近?!」
あまりにも唐突な発言に驚いた。
その顔を見てガウレスは、笑いながら話を続けた。
「うむ。実は洗脳されとってな! 勇者がその洗脳を解いて救ってくれたんじゃ!」
「洗脳!? 大変だったんだね……」
洗脳を解いたってどうやったのかな……思いっきり叩いたとか?
「洗脳は解けているはずだが……魔王族を見ると面倒を見なければ! って気になるんじゃ。子供だと尚更な……」
ガウレスはシアに手を振りながら言った。だが、シアの警戒は緩まない。
「じゃぁ……まだ解けてないのかな?」
「わからんのう。まぁ別に良いんだがな!」
その会話中、シアはやきそばをつつく程度であんまり食べてない事に気が付いた。
「シア、あんまり好きじゃない?」
「うん……」
それを見てガウレスは立ち上がった。
「よし、ちょっと待っておれ!」
そういってガウレスは屋台へと戻りやきそばを作り始めた。
そして……
「ほれ! シア様専用の特製やきそばじゃ!」
見た目はやきそばとほとんど変わらないが、甘い香りが漂うやきそばがシアの目の前に運ばれた。
「シア様、食べて見てくだされ」
「う、うん……」
シアは恐る恐る特製やきそばを口に運んだ。
「――ッ!」
その瞬間、シアの顔が凄く明るくなった。
そして、一気にやきそばを食べ始めた。
「わあ! 凄い食べっぷりだね!」
目の前の焼きそばは瞬く間にシアの口に消えて行く。
「これ、凄く美味しい……!」
「小食だと思ってたけど……やっぱり単純に今までのご飯が舌に合わなかったのね……」
なんだか申し訳ない気持ちになった。今まで我慢して食べてたんだね……。
「お姉ちゃんも食べて見て!」
シアはそう言ってくるくる巻いたやきそばを私の口元へ持ってきた。
「え! いいの? ありがとうー!」
そういってシアのやきそばを口にしてみたが……
「――ッ!! けほっ! あ……甘いッ!!」
想像とあまりにも違う味……もはやデザートと呼べるほどの甘さに、私は思わずむせてしまった。
「がっはっは! 種族が違えば味覚も違うからな! 側近の時は魔物の種類によって飯の味付けを変えるのに苦労したわ!」
「ガウレスさん、料理も担当してたんだね……」
「その通り! そして、魔王族がこういった味付けをよく食べておったな!」
「ほえ~」
(魔王は甘党……ちょっとイメージと違うな……)
そう思いながらも、シアがモリモリ食べる姿を見て、安心したみなもであった。