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0話 それは突然に

「んー、良く寝た!」


 今日は日曜日、既にお昼前だけど、休みの日はこれが許されて幸せだ。

 私はいつもの様に仏壇の前に座り、お父さんに話しかけた。


「お父さん、今日はショッピングモールにお買い物に行くよ。お父さんを失った場所だけど……それ以上に色んな思い出がある場所だから……」


 2年前……たった一人の家族だった私の父は亡くなった。

 母親は私が物心ついた時には居なかった。父さんは理由を言わないから、何故かは結局知らないままだ。

 私は当時中学二年生……正直お父さんは好きじゃなかった。そういった年頃だった事もあるのだろうけど……。

 とにかく、洗濯だって一緒に洗いたくなかったし、同じ空間に居るのが何となくうっとおしかった。

 そんな私だったのに、父はずっと私を気にかけてくれてて、男手一人で育ててくれた。毎週日曜日にはショッピングモールに連れて行ってくれた。

 私はいつも何かを買ってくれるので、それだけはいつも二人で一緒に行っていた。


 その日も、いつも通りショッピングモールに行った時だった。


・・・

・・


「大人しくしろ。さもなければこいつのように死ぬ!」

「お父さん……!」

「みなも!!」


 近くで銀行強盗があり、犯人はこのショッピングモールへ逃げてきたようだ。

 前に捕まっていた人質の女性は、逃げようとした時に撃たれ、私の目の前で死んだ。

 そして、その時に私が次の人質として捕まってしまったのだ。


「やめて……お願い……」


 犯人はそのまま別の人から車のキーを奪い、私を連れて別の場所へと連れて行こうとした。

 その時……


――ガンッ!!


「みなも! 逃げろ!」


 一瞬の隙を見て、父は私を引っ張り強盗の間に割って入った。


「お父さん!」


――バンッ!!


 その時、私を庇った父は腹部を撃たれた。


「くそ! 離せ!! こうなったらもう全員殺す!」

「ごふ……離さない。お前はもうここで居なくなれ……みなもの今後の為にも……」

「なんだこいつ……!」


 父は男から銃を奪い取り、そのまま躊躇なく顎に銃口を突きつけ引き金を引いた。


――ドン……ドサッ……


 強盗は即死、父もその場で倒れた。


「お父さん! お父さんしっかりしてよ!」


 その後救急車に運ばれ、間もなく父は死亡した……。


・・・

・・


「みなもの今後の為にも……」


 父の最後の言葉……犯人が生きていたら私は復讐に捕らわれていたかもしれない。

 あの時点で自分は死ぬこと理解し、犯人という復讐の対象を残してはいけないと考えていたのだろうか……。


 これも、今となっては知る術はない。


「朝はいつも通りフライドポテトをチンして……」


 その瞬間、私は自分の目を疑った。

 私しか住んでいないはずの家の中、一人の男性が椅子に腰を掛けているのだ。

 しかもその姿には見覚えがある。


「お、お父さん……? あれ、まだ寝ぼけてるのかな……」


 死んだはずのお父さんが椅子に腰を掛けている訳がないのだ。

 とりあえずそれはスルーして、チンしたポテトを食べる為に私も座った。


「みなも……元気そうでよかった。こっちでは2年振りだね」


 お父さんの幻影はあろう事か私に話しかけて来たのだ。

 不意に私は幻影の顔に手を伸ばした。すると……


「あ……れ? 触れる……?!」

「みなも、ただいま。それより! 家の鍵が開きっぱなしだったぞ? 一人なんだからちゃんと閉めるんだ。変質者が入ってきたらどうするんだ?」

「え、お……お父さんッ!?」


 突然の出来事に私は咄嗟に椅子から立ち上がった。

 

「夢じゃないの……?」

「夢じゃないよ。突然帰ってきて……びっくりさせてごめんね」

「いや! え! なんでお父さんが居るのよ!? てか私パジャマなんだけど!」


 実の父だが、会うのは2年ぶり……幻影で無いのであればこのだらしない格好をあまり見せたくない。


「うん? いつも通りじゃないか。むしろ昔は下着姿で、父さんの前をうろうろしてただろうに」

「うるさい! とにかく、ちょっと着替えてくるね!」


――バタンッ!


 洗面台で鏡を見た。セミロングでぱっつんがいつもの髪型だけど寝相が悪いせいで今はただのぼっさぼさヘアーである。

 アイロンなどを駆使してせっせと髪をセットした。


 というか、まだ状況が理解できていない。何でお父さんがいるの……? あの時……絶対に死んでいたのに。


・・・


「みなも、なんだこの大量のフライドポテトは! こんなんばっかり食べてたら体壊すよ!」

「いいでしょそれは……それよりどういうことなの? 全然意味が分からないんだけど! 生きてたなら生きてるってもっと早くに……!」


 目の前にお父さんがいる。生きている嬉しさと、生きていた事を黙っていた事への怒りがごちゃまぜになり心がぐちゃぐちゃだった。

 そんな私を前に、お父さんは私の方をじっとみて、優しく笑いかけた。


「にしてもみなも、おっきくなったね。凄く可愛くなったよ」


 その優しい笑顔はあの日のままだ。話し方も……。


「え? えへへ……じゃない! お父さんにそんな事言われても嬉しくないし! てか説明してよ!」


 可愛いなんて久しぶりに言われた私は、一瞬喜んでしまった。


「説明……ここに来た理由の事だね」


 お父さんは真剣な表情で持ってきたかばんを机に出した。


「いやそれもだけど! お父さん……死んだじゃん! そこから聞きたいんだけど!」


 私はつい机をドンと叩きながら言い放った。


「そうだね……その辺の話もしないととは思うんだけど、今は時間が無いんだ。まずは要件を聞いてほしい」

「むう……わかったよ。先に話して」

「ありがとう。じゃぁ唐突なんだけどね……」


 さらに真剣な表情をするお父さんに私は唾をのんだ。


「ここを出て引っ越さないか? だいぶ遠い所なんだけど」


 お父さんはそう言いながら先程机に出したカバンから、引っ越し先の資料と思われる紙をたくさん出してきた。

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