第十七話 琢磨の過酷な戦い!
(やるしかない!)
琢磨が覚悟を決めた瞬間、アラクネが蜘蛛の糸をの反動を利用して、残像を引き連れながら、途轍もない速さで近づいて来る。
琢磨はその速いスピードで近づいて来るアラクネを見失ってしまったが、その直後、背後から感じる殺気のようなものを感じて咄嗟に横っ飛びした。
直後、一瞬前まで琢磨がいた場所にアラクネの鋭い爪が突き刺さり、その衝撃波に体が飛ばされて地面をゴロゴロ転がりながら背中が壁にぶつかって停止する。
アラクネはこちらを見て笑っているような態度をとっている。ドラゴンスネークはこちらを観察しているだけで今は手を出してこないようだ。だが、それでも生き残る可能性が一パーセントぐらいしか変わらないだろう。
琢磨はすぐに立ち上がると聖剣に炎の魔法をエンチャントして魔法剣を作り出す。今の魔力ではこれが限界だ。
アラクネは糸を連続で飛ばしてきた。琢磨は飛んできた糸を切り裂き、さばききれないのをよけながら後ろの後退した。
ボチャッと音がして足元を見ると水が流れている。どうやら川が流れているようだ。琢磨は魔法剣を構えて反撃しようとしたとき、
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
突然鋭い痛みが走り、体全体が麻痺して思うように動かない。一体何がと目線を動かすと、川の上流にドラゴンスネークの尻尾が水に入り周りでバチバチ電気が走っている。やられた。ドラゴンスネークの攻撃だ。あいつは戦いに参加しないと思って油断してしまった。ドラゴンスネークは最初からこれを狙っていたんだ。だから、アラクネはこの場所に追い込む様に戦っていたのか。まさか、さっきまで争ってた魔物同子が連携を取るなんて思わないじゃないか。
この時を待ってたようにアラクネが跳躍してとどめを刺しに来る。
何とかしびれながらも左手で持っている魔法剣で防御した。
だが、その鋭い衝撃で吹き飛び壁に叩きつけられた。体の麻痺が解けて立ち上がろうとすると今度は強烈な痛みが左腕を襲う。
「つぅ――」
見れば左腕がおかしな方向に曲がり、プラプラしている。どうやらアラクネの攻撃を防御したときに骨が折れてしまったようだ。しかも、魔法剣まで消失してしまった。完全に詰んだ。
痛みで蹲りながらもアラクネとドラゴンスネークを見ると、ドラゴンスネークは興味を失ったのか、来た道を戻っていった。一方アラクネは、こちらをあざ笑うかのようにゆっくりと歩いてくる。まるで死へのカウントダウンのようだ。琢磨は何とか立ち上がって後ずさろうとするが、まだ麻痺が残っていたのかうまく歩くことができない。
やがて、アラクネは琢磨の目の前で止まった。アラクネは処刑人のように爪を大きく振りかぶった。
(・・・・・・ここまでか。結局ガブリエルには文句の一つも言えに行けなかったな・・・・・・願わくは次の人生は平和な世界でありますように・・・・・・)
絶望と諦めが琢磨を襲う。諦めを宿した瞳でアラクネの掲げた爪の先を見る。その視線の先で遂に断頭台の如く爪が勢いよく振り下ろされた。
琢磨は死への恐怖でギュッと目をつぶる
「・・・・・・」
しかし、いつまでたっても予想していた衝撃は襲ってこなかった。
琢磨が、そっと目を開けると、眼前にアラクネの爪があった。振り下ろしたまま止まっているのだ。どうしたんだ? とアラクネを見るとブルブル震えているのだ。
(どうしたんだ。とどめを刺すことは容易だったはず。・・・・・・それに、何かに怯えてるような・・・・・・)
アラクネは確かに怯えていた。琢磨からは背中が向いていて見えないが、背後の通路から現れた新たな魔物の存在に。
その魔物は巨体だった。五メートルはあるだろう巨躯にワニのように固い皮膚に覆われた体。そして、体の根元から生えている三本のドラゴンの頭。その姿はまるで某映画に出てくる怪獣のようだった。ただし、尻尾に鋭い針みたいなものが生えているが。
そのドラゴンの頭の一つがいつの間にか琢磨とアラクネに接近しており、二人を睨みつけていた。辺りを静寂が包む。琢磨は金縛りにあったように体が全く動かない。アラクネも蛇に睨まれた蛙のように硬直している。そんだけでとてつもない魔物だと窺える。
「・・・・・・グルルルル」
と、今にも涎をたらしそうな感じでドラゴンが低く唸る。
「ツ!?」
アラクネは我に返ったように一瞬ビクッと震えると、一目散にその場を後にして逃げ出した。今まで張り巡らされた蜘蛛の糸を利用してものすごいスピードで遠ざかっていく。
しかし、その試みは成功しなかった。
ドラゴンの尻尾がアラクネを上回るスピードで迫り、その先端の針でアラクネの背後から一突きしたからだ。アラクネは断末魔を上げると体が消滅して紫色の魔石が落ちる音だけが響いた。
愕然とする琢磨。あんなに強かったアラクネがいともたやすく殺されたのだ。もしかしたらあのドラゴンスネークも琢磨に興味を失ったからじゃなく、この魔物の存在にいち早く気づいて逃げ出していたのだとしたら・・・・・・アラクネがあっさりやられた状況を見るとあながち間違いじゃないだろう。
アラクネが消滅したのを確認すると、グルっと唸りながら三体のドラゴンの頭が琢磨を捉える。その視線が雄弁に語る。次はお前だと。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
気合を入れるように叫ぶと、折れてる左腕の痛みにこらえながら立ち上がりドラゴンとは反対方向に逃げ出す。その間にも琢磨は折れてる左腕に回復魔法をかけることを忘れない。
しかし、あのアラクネですら逃げることが敵わなかった相手から体力を消耗している琢磨が逃げられる道理などない。ヒュンッと風を切る音がすると同時に強烈な衝撃が琢磨の左側側面を襲った。そして、そのまま壁に叩きつけられる。
「がはっ!」
肺の空気が抜け、咳込みながら壁を滑り崩れ落ちる琢磨。衝撃で揺れる視界で何とかドラゴンの方を見ると手に何かを持ち、ドラゴンの真ん中の頭が何かを燃やしている。
一体何を燃やしているんだろう? よく見ると人間の腕のように見える。しかもその腕には見覚えがある。それもそのはずである。あれは、琢磨自身の腕なのだから。
そのことを理解するのと同時にそ~と左腕を見た。正確には左腕のあった場所を・・・・・・
琢磨はどこか夢心地で無くなった腕とそこから噴き出る血を眺めていた。心が理解することを拒む。しかし、あまりの痛さに現実に引き戻される。
「あ、あ、あがぁぁぁぁあ――!!!」
琢磨の絶叫がダンジョン内に木霊する。琢磨の左腕は肘から先がスッパリと切断されていた。それと同時にここはゲームじゃなくて現実で決してリセットボタンがないことを理解させられた。琢磨は心のどこかでゲーム感覚だったのだ。
痛みをこらえ、右手で左腕の断面を抑えつつ三頭のドラゴンの尻尾を見ると、先端の針がいつの間にか鋭利な刃物に変わっている。その先からは血がしたたり落ちている。どうやらあれに切られたようだ。しかも、毒が仕込んであったのか、体が思うように動かない。
三頭のドラゴンは次は右腕をいただくという感じで近づいて来る。
「あ、ぐぅうう、ファイヤボール!」
あまりの痛さに顔をゆがめながら、琢磨はなけなしの魔力で右手を掲げて、ファイヤボールを放った。その軌道は三頭のドラゴンの眼前の天井に当てて、岩を落として時間稼ぎをするのが狙いだ。そして狙い通りに岩が落ちてきて、砂煙がまい、視界が遮れられたはずだ。その隙に後ろの通路に飛び込んだ。
「グワァァァァァッァ!!!」
琢磨は突然の咆哮に後ろを振り返ると、砂煙の隙間から一頭の竜の頭がこちらを唱えて口から魔法を放とうとしている。急いでその場を離れようとする琢磨だが、やがて地面から氷の氷柱が琢磨に迫る。何とかよけようと思うが体が思うように動かないところで氷柱が琢磨をかすめた。その拍子にバランスを崩し、たまたま開いてた横穴にゴロゴロと転げ落ちていく。その穴は人間一人がとるのがやっとって大きさでとてもじゃないが三頭のドラゴンのずうたいでは通れるはずもなく、突然目の前で獲物を取り逃がした魔物の怒り咆哮だけがダンジョン内に轟いた。
何とか助かったことで緊張の糸が切れたのと腕の痛さを脳が遮断するように琢磨は気を失った。