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第十五話 悪魔教の暗躍

 響き渡り消えゆくミノタウロスの断末魔の絶叫。ガラガラと崩れ落ちていく橋。そして、瓦礫と共に落ちていった琢磨。

 その光景を、スローモーションのように緩やかになった時間の中で、何もできなかったガゼル団長達。みんなそれぞれ琢磨のおかげでここまでこれたのにその琢磨を助けることができなかったことのショックはでかい。

 セシリーは我に返ると、


「助けに行かないと、まだ、生きて助けを求めてるかもしれないのに!」

「そうよ! 離しなさい! 琢磨さんが、こんなところで死ぬわけないじゃない!」


 飛び出そうとするセシリーとガブリエルをガゼル団長やアレク達が必死に羽交い絞めにする。二人は男性たちに抑えられてるのに女性の細い体のどこにそんな力があるのかというぐらいの尋常ではない力で引き剝がそうとする。

 このままでは、二人の体が壊れてしまうかもしれない。しかし、だからといって離せばそのまま崖を飛び降りるだろう。それぐらい鬼気迫る顔をしている。


「ガブリエルっ、ダメだよ! ガブリエル!」


 彩はガブリエルの気持ちが分かる。助けられるんであれば助けたい。自分も琢磨との付き合いは短くないのだ。だけど、ここで取り乱してもどうにもならない。何とか冷静に物事を判断しようとするが、かける言葉が見つからない。ただ必死で名前を呼ぶことしかできない。


「二人とも落ち着くんだ! このままじゃよけいに犠牲が出るぞ! とりあえず、ここをだ出するのが先決だ!」


 ガゼル団長が二人にかけた言葉は琢磨を見殺しにすると聞こえたのか二人の感情を逆撫でするだけだった。


「犠牲って何ですか! 琢磨さんは死んでません! 行かないと、気っと助けを求めています!」

「そうよ! この天使たる私が助けに行かなくてどうするのよ」


 誰がどう考えても琢磨は助からない。あの高さから落ちて無事だとは思えない。

 しかし、今のセシリーとガブリエルにはその現実を受け止める心の余裕はない。

 他の者たちもどうしたらいいかわからなくてオロオロしている。

  その時、セシリーとガブリエルにどこか甘いにおいがすると思ったら急に眠気が襲ってきた。ガブリエルは落ちかけた瞼をこらえながら匂いのする方を見ると彩が魔法を使っていた。


「あ、彩。・・・・・・な、何で・・・・・・?」

「ごめんね・・・・・・後でいくらでもののしっていいから」


 その言葉を最後に、二人は深い眠りについた。


「すまんな。本来なら俺がやらねばいけなかったんだが」

「いえ、こんな二人は見てられませんから。それに、こんなところで死んだら琢磨のしてくれたことがすべて無駄になってしまいます」

「そうだな。よし! 全力でダンジョンを離脱するぞ。・・・・・・アレク、俺がガブリエルを運ぶから、セシリーを頼む」

「はい、任せてください」


 アレクはセシリーを抱きかかえると、彩に一言、言った。


「あんまり、気にするなよ。お前の判断は正しい」


 アレクの言葉に彩は頷くだけだった。アレクには分からなかったが俯いてる彩の顔は今にも泣きだしそうで震えていた。

 ここには、冒険者になりたての者が多い。そんな冒険者達の目の前で仲間が一人死んだのだ。誰もがいくら覚悟してたとはいえ、いざその時が来ると精神に多大なダメージが刻まれ、茫然自失な者もいる。そんだけ琢磨の存在はみんなの中ででかかったんだろう。

 ガゼル団長がパーティーメンバー達に向けて声を張り上げる。


「みんな! こんなところで死んでしまったら琢磨に会わす顔はないぞ! ここは何としても撤退するんだ!」


 その言葉に、みんな「そうだ、こんなところで死ねない。あいつの分も生きるんだ!」と、息を吹き返したように歩き出した。橋があった方を見ると今だ魔法陣が健在でスケルトンが続々と数を増やしている。今の状態ではみんな戦う力が残っていなし、無理に戦う必要もない。ガゼル団長は魔物を警戒しながら仲間パーティーメンバー達に脱出を促した。そしてようやく、全員が階段への脱出を果たした。上階への階段を上りきるのにやたら時間が長く感じた。ここまでくればセーフティーポイントまで直ぐだ。みんな疲労や先の戦いでのダメージが残る中、歩き続け、遂に通路の奥から緑色の光が見えた。仲間達の顔に生気が戻り始める。ガゼル団長を先頭に光が漏れてるところにたどり着くと、そこは二十階層のセーフティーポイントがある部屋で間違いなかった。


「助かったのか」

「戻ってこれたの?」

「よかったよ~」


 仲間たちが次々と安堵の息を漏らし、中には安心して泣き出す者やへたり込む者もいた。

 しかし、ここは未知なダンジョンの中、いくらセーフティーポイントでも外に出るまでは安心できない。もう罠がないとは限らないのだ。完全に緊張の糸が切れてしまう前に、ダンジョンからの脱出を果たさなければならない。

 ガゼル団長はセーフティーポイントにある台座を操作し、反応するのを確認すると、


「みんな、ここで休むな! ここで気を抜くと予想外のことが起きて帰れなくなるかもしれん! 転送装置が作動してるうちにダンジョンの外に出るぞ!」


 転送装置を起動すると周りの景色が歪んで、気が付くとどこか見覚えがある場所に出た。遠くからは太陽の光が漏れ、その方向に向かうとダンジョンの入り口と何だか懐かしい気さえする受付が見えた。ダンジョンに入って一日も経ってないはずなのにここを通ったのはずいぶん昔のような気がした。

 だが、ついさっき目が覚めたガブリエルや彩達は暗い表情のままだ。無理もない。仲間を一人失ったのだから。

 そんなガブリエル達を横目に気にしつつ、受付に報告に行くガゼル団長。


「あ、ああああああああああ!!!!」


 突然の叫び声に周りは振り向く。受付嬢とガゼル団長も何事かとみている。

 声の主は彩だった。


「ちょ、ちょっと、どうしちゃったの。彩さん?」


 思わずさん付けで呼んでしまうガブリエルの肩を両手でホールドすると、


「ガブリエル! あなた、前に蘇生の魔法が使えるって言ってなかった。それで琢磨が生き返るんじゃないの!」


 その言葉に他の者達も期待するようにガブリエルを見た。

 その視線から顔をそらすようにガブリエルは言った。


「・・・・・・ごめんなさい。今の私のレベルじゃ目の前に死体があることが条件なの。しかも、死んでから五分以内じゃないと・・・・・・」

「そんな」


 何とも言えない空気が場を支配し、また、泣きじゃくる者もいた。

 ガゼル団長は二十一階層のトラップと橋の崩落、そして、琢磨の死亡報告をまとめてした。こういう報告はいつでもつらいなとため息を吐かずにはいられなかった。


 ダンジョン近くの野営地に戻った一行は、それぞれ、テントの準備を終えると、直ぐに深い眠りについた。

 そんな中、ある人物は一人、野営地から少し離れた森の中の池がある場所でたたんでいた。


「フ、フフフッ。ここまでうまくいくとは思わなかった。これであの人は私だけを見てくれる。全部あいつが悪いんだ。あいつがあの人の思い人なのがいけないんだ! 私がやったことは間違いない!」


 暗い笑みと濁った瞳でブツブツ呟いてる人影。

 あの時、軌道が逸れて飛んできて琢磨を襲った火球はこの人影の人物がどさくさに紛れて琢磨を暗殺するために放ったものだ。琢磨は事故死じゃなく暗殺されたのだ。

 この人物は琢磨を暗殺する機会を探すためだけに琢磨に近づいたのだ。全ては思い人への歪んだ愛のために。

 バレない様に絶妙なタイミングで琢磨に着弾させた。それに今まで一度も魔法を使わない様に気をつけて騎士として戦ってきたのだ。まさか魔法が使えるとはだれも思うまい。全てはあの方と悪魔教のために・・・・・・

 そして、不敵な笑みを浮かべてると、不意に背後から声をかけられた。


「へぇ~、まさかとは思ったけど、あれは事故じゃなかったんだね。」

「ツ!? だ、誰かいるのか!」


 慌てて振り返る人影。そこにいたのは同じパーティーの一人だった。


「お、お前、何でここに・・・・・・いや、今のを聞いてたのか?」


 臨戦態勢をとる人影。そこにもう一人は両手を広げて待ったをかける。


「おっと、ここで戦うのはよくないよ。物音で誰かが駆けつけてくるかもしれない。ここは野営地からそんなに離れてないからんね。そんなことは悪魔教も望んでないでしょ?」


 その人物は、この状況を楽しんでいるみたいにクスクスと笑いながらこちらを見ている。

 こいつは、仲間が死んだって言うのに、怒るどころか全く気にした素振りがない。ついさっきまで、他の者たちと同様に、ひどく疲れた表情でショックを受けていたはずなのに、そんな影は微塵みじんもなかった。


「・・・・・・あなたも、琢磨には消えてもらいたっかたのかな?」


 疑問に思ったことを聞く。

 それを、その人物はおかしそうにあざ笑う。


「消えてもらいったかったていえばその通りだね。あいつは、周りが良く見えてたし、あの中で、一番手厄介そうだったからね。そういう意味で言えばガゼル団長より警戒してたね。だから、貴方が仕留めてくれてよかったよ。それよりさ・・・・・・このことをみんなに言いふらしたらどうなると思う? 特に、ガブリエルとセシリーが聞いたら、何するかわからないよね?」

「ツ!? そ、そんなこと誰が信じるんだ。それに、証拠を残してるとも?」

「確かにその通りかもね。だけど、このことがガゼル団長の耳に入ったらちょっとでも疑わしいと思ったら、徹底的に調べるんじゃないかな。王国の騎士団長らしいし、いろんな伝手つてがあるんじゃない」


 人影は追いつめられる。主導権は完全に握られた。まさか、こんな奴だとはだれも想像できないだろう。誰よりも善戦で戦ってた奴が。これもこの人影を追いつめるための演技だと言われた方がまだ信じられる。


「よ、要求は何だ!?」

「お、話が早くて助かるね。何、簡単なことだよ。俺を悪魔教に紹介してよ。もううんざりなんだよね。この世界が」

「・・・・・・何だと。悪魔教に入って何がしたいんだ!」


 怒涛の展開に人影は声を荒げる。


「それはいずれ分かるよ。まあ、一つだけ言えば世界をぶっ壊すことかな。・・・・・・それで? 返答はいかに?」


 こいつの変貌ぶりとさっきまでとは別人みたいなプレッシャーに多少恐怖を感じた人影は自分に選択肢などないと諦めの表情で頷いた。


「・・・・・・いいだろう」

「話が早くて助かるよ。ここまでして断られたらどうしようかと思ってたんだよね」


 人影は当初の予定と大分違ったが、強力な仲間が手に入ったと思うことにした。


 そして、その晩、忽然こつぜんと二人は闇夜に消えたのだった。

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