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第十四話 まさかの幕切れ!?

『飛影線』


 純白の斬撃がスケルトンの群れを斬り飛ばしながら炸裂した。

 橋の両側にいたスケルトンは押し出されて谷底に落ちていった。

 斬撃の後は、直ぐに集まってくるスケルトン達で埋まってしまったが、パーティーメンバー達は確かに、一瞬開いた隙間から上階へと続く階段を見た。その光景に今まであきらめて絶望してた者たちに希望が見えたのだ。


「みんな! 諦めるな! ここで諦めたら今も一人で頑張ってくれてる琢磨の信頼を裏切ることになる! 道は俺が切り開く!」


 そんなセリフと共に、再び飛影線が敵を切り裂く。アレクの言葉でみんなに闘志に火がついた。


「お前たち! 絶対に生きて帰るぞ! 諦めるんじゃないぞ! 連携を取れ!」


 ガゼル団長が飛影線に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒していく。  

 ガゼル団長のげきに沈んでた気持ちが復活する。手足に力が漲り、頭がクリアになっていく。

 セシリー達治癒魔法を使えるものは、負傷者を癒し、彩達高威力の魔法を放てる者は、後衛から強力な魔法で援護する。ガブリエルは障壁でみんなを守ったり、手が空くと回復したりと臨機応変に行動している。そして、アレク達接近戦が得意な者たちはしっかり隊列を組み、倒すことより後衛の守りを重視し堅実な動きを心掛ける。

 ここにきて初めてみんなの足並みがそろい、強力な魔法と武技の波状攻撃が、怒涛の如く敵に襲い掛かる。凄まじい速度で敵を殲滅していき、遂に階段への道が開けた。


「みんな! 道が開いたぞ! 俺に続け! 階段前を確保するぞ!」


 アレクが掛け声と同時に走り出す。

 その後にナックルとナザリーが続き、群がってくるスケルトンの包囲網を切り裂いていく。

 そうして、遂に全員が包囲網を突破した。背後で再び通路がスケルトンで埋め尽くされようとするが、それを彩の魔法が蹴散らす。

 パーティーメンバー達は訝しそうな表情をする。それもそうだろう。目の前に階段があるのだ。さっさとこんな所から脱出したいと思うのは当然である。


「みんな、待ってください! 琢磨さんを助けなきゃ! 琢磨さんがたった一人であの怪物をくいとめてるの!」


 セシリーのその言葉にみんな、誰のおかげでこんだけの被害で済んでるのかを思い出した。パーティーメンバー達が、数の減ったスケルトン越しに橋の方を見ると、そこには満身創痍の琢磨とミノタウロスの姿があった。


「どっじもボロボロじゃねえか」

「琢磨がここまですごい奴なんて・・・・・・」


 次々と琢磨の戦いぶりに驚いてるパーティーメンバー達にガゼル団長が指示を飛ばす。


「そうだ! 琢磨がたった一人でミノタウロスを引き付けてくれたから撤退できたんだ! あいつを何としても助けるぞ! アレク達はスケルトンを寄せ付けるな! 彩達は遠距離魔法の準備だ! 琢磨が離脱したら一斉攻撃で、ミノタウロスを足止めしろ!」


 ピリピリと腹の底まで響くような声に気を引き締め直すガブリエル達。この場には仲間を見捨てて自分だけでも助かろうとする者はいない。だが、アザエルは琢磨には死んでもらいたいと思っていた。


 アザエルは、ふと脳裏にある日の情景が浮かび上がる。

 それは、数か月前、ある任務で行った街で、金髪のロングヘアに碧の目に睫毛が長く、どこか浮世離れした美しい女性を見かけた。一目ぼれだった。相手が女性でも関係ないと思った。お近づきになりたくて声をかけると、名前は千鳥ヶ淵アリサで、冒険者をしていた。何でも人を探しているとか。その人は幼馴染で片思いの相手だという。しかも冒険者になったのは探し人の情報が少しでも舞い込んでくるかもしれないからだという。アザエルはいきなり失恋したようなやるせない気持ちになった。ただ、アリサが好きな人ならとても立派な人だと勝手ながら思い、せめて役に立とうと人探しを手伝うことにした。アリサはとても喜んでその人の身体的な特徴を教えてくれた。それからはこまめに連絡を取り合いながら、ギルドなどで情報を聞いていると、つい先日に野営地でとうとう見つけたのだ。アリサの思い人鈴木琢磨を。

 だが、見つけた琢磨は女性を二人も侍らせて、周りから二股やら女の敵だとかささやかれていた。まさか、こんなのがアリサの思い人だと思わなくて一瞬別人かと思ったが聞こえてきた会話から鈴木琢磨だと分かってしまった。こんなクズをアリサに逢わせるわけにはいかないと仲間として近づいて、琢磨を殺そうと企てたのである。しかも、今、そのチャンスが来たともいえる。何とか活かせないだろうか・・・・・・

と、はたから見たら危ない考えをアザエルは本気で持っていた。


 アザエルは、たった一人でミノタウロスを抑える琢磨を見て、今も心配そうに琢磨を見ているガブリエル達を視界にとらえ・・・・・・仄暗い笑みを浮かべた。


 その頃、琢磨はもう自分の魔力が尽きかけていた。身につけていた英雄のマントもガゼル団長の治療に役立てばと思ってセシリーのところに置いたままだ。今思えば、計測な行動だっただろう。だが、後悔はしてない。ミノタウロスを見ると、まだ、どこか余力を感じる。チラリと後方を見るとどうやら全員無事に撤退できたようである。隊列を組んで魔法の準備に取り掛かってるのが分かる。

 琢磨は最後の力を振り絞って、ミノタウロスを警戒しながらいつでも撤退できるようにタイミングを見計る。極度の緊張で心臓がバクバクと今まで聞いたことがないような音を立てているのが分かる。

 ミノタウロスが一歩踏み出した瞬間、今までの戦闘で脆くなってたのか橋に幾重にも亀裂が入るとミノタウロスは足を取られバランスを崩した。その瞬間に琢磨は一気に駆け出した。

 琢磨が駆け出した数秒後、ミノタウロスが咆哮と共に起き上がる。まさか人間一人にここまでやられると思ってなかったのか、顔がみるみる赤くなっていき怒りが頂点に達したのか目も鋭くなっている。鋭い眼光が琢磨を捕らえると、激しい咆哮を上げて、琢磨を追いかけようと四肢に力をためた。

 だが、次の瞬間、次々と攻撃魔法が殺到した。


 魔法がまるで流星のようにミノタウロスを捕らえる。ダメージはそれほど負ってないようだが、次々絶え間なく飛んでくる魔法をガードするので精いっぱいで、斧で風の障壁を張る暇もない。

 何とか足止めになったると確認した琢磨は(いける!) と確信し、最後の力を振り絞って仲間たちの元へ急いだ。すぐ頭上を飛んでいく魔法とあちこちから轟く爆音で正直生きた心地がしないが、仲間を信じ駆ける。ミノタウロスの攻撃範囲から脱出し、気を抜いた瞬間、琢磨の表情は凍り付いた。

 空を駆ける数多の魔法を縫うように一つの火球が飛んでくると軌道がクイッと曲がり琢磨目掛けて飛来する。


(何でこっちに来るんだよ!?)


 疑問や困惑、驚愕が一瞬で脳内を駆け巡った。

 咄嗟に踏ん張り止まろうとしたが、走ることに全力を注いでた琢磨はそう簡単には止まれなかった。そんな琢磨の眼前に、その火球は突き刺さった。着弾の衝撃波をモロに浴びてミノタウロスの眼前まで吹き飛ばされた。直撃もなく何とか立ち上がった琢磨だが、もう、走る体力も残っていなかった。それでも、一歩でも前に進もうとする琢磨だが・・・・・・

 ミノタウロスもいつまでもやられっぱなしではなかった。逃げられたと思ってた琢磨が何の因果か、自分の目の前にいると認識すると顔をゆがめて敵を認識すると方向を上げた。

 鳴り響いた咆哮に琢磨は思わず振り返ると、赤黒い魔力を噴き上げ、飛来してくる魔法なんて気にしてないようにミノタウロスの鋭い眼光がしっかりと琢磨を捉えていた。

 そして斧をかざしながら琢磨に向かって突進する!

 琢磨は魔力切れで頭がふらつき、視界もかすんできた。遠くでは焦りの表情を浮かべ悲鳴と怒号を上げる仲間たちの声。

 琢磨は霞む視界で何とかミノタウロスを捉えると、なけなしの力を振り絞り、その場を必死に退いた。その直後、怒りのすべてを力にして攻撃したような衝撃が橋全体を襲った。斧が振り下ろされたのだ。その着弾点を中心にものすごい勢いで亀裂が走る。メキメキと橋が悲鳴を上げていき・・・・・・遂に橋が崩壊を始めた。

 今までの度重なる戦闘にさらされ続けた橋は、遂に耐久度を超えたのだ。


「グウアァァアァ!?」


 悲鳴を上げながら斧を捨ててでも手足の爪で何とかしようと必死に引っ搔くミノタウロス。しかし、引っ掛けた場所から崩壊し、抵抗も虚しく転落していった。


 琢磨も何とか脱出しようとするが、しがみつく場所も次々と崩壊していく。


(ああ、ダメか・・・・・・ 第二の人生もここまでか。あいつらともっと冒険したかったな・・・・・・)


 自然と諦めと未練の言葉を胸中で呟きながらやたら周りの景色がスローモーションに見える。そんな中、対岸にいる仲間たちを見ると、セシリーやガブリエルが飛び出そうとしてガゼル団長達に羽交い絞めにされている。他の人たちも顔が青褪あおざめて、目や口元を手で覆っている者もいる。アレクやナックルも悔しそうな表情で琢磨を見ていた。そんな中、仲間の中に琢磨が落下するのを見て、口元をゆがめてる者がいた。そいつは、誰よりも後ろからあざ笑うようにこっちを見ている。


(まさか、あいつが俺を・・・・・・)


 そして、琢磨の足場も完全に崩壊し、琢磨は仰向けになりながら落下していった。  徐々に小さくなる光に手を伸ばしながら・・・・・・(火球が飛んできた時を思い出しながら)最後の最後に仲間の一人が裏切ったのかと思うと悔して仕方なかった。

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