第十三話 琢磨VSミノタウロス
「まさか、お前に命を預けることになるとはな。・・・・・・だが、これでも王国騎士なのでな。援護はさせてもらうぞ」
「ああ、頼んだ!」
ガゼル団長はそう言うとミノタウロスに向けて簡易の魔法を放って援護射撃を始める。ミノタウロスは自分に歯向かう者を標的にして攻撃するようだ。これなら他の者に攻撃が行くことは無いだろう。
琢磨はミノタウロスを倒すことに集中した。
ミノタウロスは斧で風の膜を作って魔法を防御している。どうやら、一斉に他の魔法を使うことはできないらしい。そこに攻略の糸口があるようだ。
ミノタウロスはは魔法がやんだスキをついて、突撃、跳躍する。ガゼル団長は、ギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構える。そして、小さく詠唱する。
「吹き荒れろ、『炎陣』」
詠唱と共にバックステップで離脱する。
その直後、ミノタウロスは斧を振りぬいて、一瞬前までガゼル団長がいた場所に着弾した。発生した衝撃波や石礫はガゼル団長が下がったのを確認したガブリエルが障壁を展開して防御する。そして、ミノタウロスが一歩踏み出した途端、ガゼル団長が設置した魔法が発動し、ミノタウロスを起点に炎の渦が天高く立ち上り、ミノタウロスを飲み込んだ。これで倒せなければどうしようもないだろう。この魔法でガゼル団長の魔力も切れる寸前だった。
その時、急に風が吹いたかと思うと、炎がみるみる小さくなっていきやがて消えた。見るとミノタウロスが斧を天に掲げていた。石が緑色になっていることからこの斧の仕業だろう。ミノタウロスはところどころ焼けたような跡はあるが致命傷ではないようだ。
今の攻撃で完全に頭に来たのか、鼻からフンっと鼻息がすごかった。
ミノタウロスは足に力を込めると一気に突進してガゼル団長の元に飛びかかろうとしてるところを琢磨が転がってた岩を投げてミノタウロスは頭部に当てた。
「お前の相手は俺だ!」
「グォオオオオオオオオオッ!!!」
琢磨は聖剣エクスカリバーはさっきの一回でまだ使える状態じゃなかったので(聖剣は強すぎる力故に一回使ったら回復するまでのインターバルが必要)、魔法で生み出した剣を両手に持ち二刀流の構えを取った。ミノタウロスはは突進してくると斧を下から上に振りぬいた。琢磨はステップで横に躱し、すり違いざまで右手の剣で脇腹を切り裂いて、振り向きざまに左手の剣で腹を刺し、
『ファイヤーボルト』
琢磨が魔法を発動すると腹に刺さった剣から炎が発生し、ミノタウロスを中から焼いた。
「グッギャァアアアア!!!」
さすがのミノタウロスも中から焼かれることに耐えられなかったのか、断末魔を上げて後ろに二、三歩下がると膝をついた。チャンスとばかりに琢磨が攻めようとすると、ミノタウロスの斧の石が虹色に輝くとみるみる傷が癒えていった。
琢磨は、そんなのアリと思いつつ気を引き締めた。
一方、ガゼル団長は他のメンバーを呼び集め、アレクを担いで離脱しようとする。他の者たちを見渡すとさっきまでパニックになってた者たちも冷静さを取り戻しているようだ。中でも僧侶のセシリーのテキパキとした回復魔法のおかげで助かった者も何人もいる。立ち直りの原因は、琢磨の励ましに起因することが大きい。何しろ、今まで男の人に優しくしてもらったことがなかったのだ。自分も気づかないうちに貢献している琢磨である。
「待ってください! 今も琢磨さんが一人で戦ってるんですよ」
撤退を促すガゼル団長にガブリエルが猛抗議する。
「これは、琢磨の作戦だ! それに見殺しにするつもりはない。安全地帯まで下がったら、魔法で一斉攻撃を開始する! もちろん琢磨がある程度離脱してからだ! 魔法で足止めしている間に琢磨が帰還したら、急いで上階に撤退だ!」
「なら、私たちも足止めします!」
「ダメだ! ここでの援護は返って琢磨の邪魔になる。それに、あの戦いに割って入れるのか? あいつがここまですごい奴だとは思わなかった。認識を改めなければいかんな」
「でも、このままじゃ琢磨さんが・・・・・・」
なお言い募るガブリエルにガゼル団長の怒鳴り声が叩きつけられる。
「琢磨の思いを無駄にするな!」
「ツ――」
ガゼル団長を含めて、メンバーの中で最大の防御魔法を扱えるのはガブリエルに彩だ。この二人まで前線に行くと戦いの余波からこの者たちを守れるものがいなくなってしまう。この二人がいるから琢磨は気兼ねなくミノタウロスに集中できるのだ。それに、この間に少しでも早く回復魔法でアレクを回復して全員で仕掛けなければ、ミノタウロスを足止めするには火力不足に陥るかもしれない。そんな事態を避けるには、少しでも安全な状況で回復して万全にする必要があるのだ。
その時、回復したミノタウロスは接近戦を嫌ったのか戦い方を変えた。
斧をかがげて石が茶色に変わると、上空に魔法陣が現れ、無数の岩が琢磨に向けて放たれた。琢磨はファイヤボールで岩を次々に破壊していって、しばらくは均衡状態が続いた。やがて均衡が崩れると、先に膝をついたのは琢磨だった。魔力が尽きたのだ。何とか腰に差していた剣をぬいて捌いて何とか致命傷を避けるのがやっとでいつまで待つかわからない。
「天からの祝福に感謝し、聖浄と癒しをもたらさん、聖光」
セシリーは琢磨のところに駆けつけたい衝動に駆られるが、自分の役割を果たす。詠唱を紡ぐと白く淡い光がアレクを包む。体の傷と魔力をも回復させる上級の治癒魔法で僧侶だけが獲得できるスキルだ。
ガゼル団長はアレクを担ぎ、もう一度、琢磨を見ると、魔力が付きかけてるのに、ミノタウロスの攻撃を紙一重で躱して耐えている。あの様子ならまだ大丈夫だろう。それに、琢磨の顔が笑っていてどこか楽しそうだ。
撤退を開始すると、魔法陣から新たにスケルトンが現れていた。すでにその数は百体を超えるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。
だが、ある意味良かったかもしれない。橋に密集してるってことは、返って的が大きくなったようなものだ。もし、大広間のようなところだったら、周りを包囲され惨殺されてもおかしくない状況だった。実際、さっきはそれでパニックに落ちいて危ない目に遭ったものも多かった。それに、疲労の蓄積や魔力がつきかけてる者も多い。
未だ死人が出てないのはガゼル団長の的確な指示と琢磨のおかげだろう。だが、琢磨はミノタウロスの相手でそれどころじゃないし、ガゼル団長達も戦う体力がほとんど残っていない。
他のメンバーもここまでか諦めたように表情に絶望が張り付いている。中には今も泣き出しそうな者もいる。
誰もが、もうダメかもしれない、そう思った時・・・・・・
「ここで死ぬぐらいなら、最後に私のとっておきを見せてあげましょう。究極魔法を!」
声のした方を振り向くと、彩が杖を構え、右手で帽子のつばを掴み、悠然とポーズを決めていた。
みんなが彩のポーズに固まってる中、ガブリエルが慌てて後ろから羽交い絞めにした。
「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ! こんなところでそんなのぶっぱなしたらダンジョンが耐えられなくて崩れるじゃない! そうなったらどっじにしろみんな生き埋めになって終わりよ!」
「構いません! こんなところで死ぬぐらいなら最後にでっかい花火を打ち上げてやりますよ! 分かったら離してください!」
二人がもめてる間にスケルトンの群れが近づいて来たその時・・・・・・