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第十二話 琢磨の覚悟

 一人ただずんでいる僧侶の女性を安心させるように肩に手を置くと、


「みんな!」

「なっ、琢磨!?」

「琢磨さん!?」


 驚く一同に琢磨は必死の形相でまくし立てる。


「早く撤退を! 今すぐに! このままじゃみんな無事ではすまない! だから早く!」

「こんなところで逃げられない。それよりちょうどよかった。ここは君も協力してくれ。君がいてくれば百人力だ!」

「そんなこと言ってる場合かっ!」


 琢磨はみんなを冷静にさせるためにも乱暴な口調で怒鳴った。何時いつもは女たちに囲まれながらも適当に物事を流していた男がここまではっきり言ってくるタイプだとは思っていなかった。付き合いが他の者よりあるガブリエルと彩も琢磨の態度に目を見開いて驚いてる顔が横目で見えたがあえて気にしないで琢磨は続けた。


「あれが見えないのか!? みんなが勝手な行動するとその分、かえってみんなを危険にさらすんだ。自分一人ならまだいい。だが、自分たちの勝手な行動で仲間が死んだら取り返しがつかなくなる。少し落ち着いて冷静になれ」


 琢磨はいつも先頭で目立っている戦士の男の胸倉をつかみながら指を差した。

 その方向には魔法陣で新たに出現したゴブリンやウルフなどに囲まれ右往左往している後方にいた冒険者たちがいた。誰もが困難したように好き勝手に戦っている。効率的に倒せていないから敵の増援を未《いま》だに突破できない。これまでのレベル上げとガブリエルと彩がうまくフォロしてるから今のところ被害も少ないが、それも時間の問題だろう。


「一撃で切り抜けるような大きな力が必要なんだ! みんなの恐怖を吹き飛ばして冷静にさせるしかない! だけどそれは俺一人じゃ無理だ! みんなで協力した一撃で目を覚ませるしかない! すこしは周りの状況も見てくれ!」


 呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げる後衛にいた冒険者たちを見ると前衛にいて好き勝手にやっていた冒険者たちは頭が冷えてきたのか、ぶんぶんと頭を振るとみんな琢磨に頷いた。


「わかった。今は撤退することが最優先だ! ガゼル団長! 先に――」

「下がれぇ――!」


 戦士の男が代表して「先に撤退します」とガゼル団長に言おうと振り替えた瞬間、ガゼル団長の警告が飛んできて、遂に凄まじい衝撃と共に障壁が砕け散った。

 暴風のように荒れ狂う衝撃波と共に、岩や石などが雨のように勢いよく降り注ぐ。  琢磨たちは各々の武器で捌いたりしている。後衛にいた者たちは反応が遅れたが、アザエルが咄嗟に前に出て大盾を掲げて防いだ。そして、運がいいことにゴブリンやウルフなどの魔物にことごとく当たって、ミノタウロス以外全滅した。新たな魔物が出ないうちに撤退するまたとないチャンスだろう。

 そして、衝撃で舞い上がった埃がミノタウロスの咆哮で吹き払われた。

 そこには、一番近いところにいたためか、倒れ伏し呻き声を上げるガゼル団長。衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。しかもいくつかの岩などの破片が被弾したようで頭から血が出ている。もしかしたら脳震盪を起こしてるかもしれない。他の者たちは多少は被弾してる者もいたが行動には支障ないみたいだ。ガゼル団長の警告と離れたところにいたおかげだろう。


「ぐっ・・・・・・ナックル、ナザリー、時間を稼げるか?」


 ナックル? ナザリー? あいつらの名前か・・・・・・そういえば最初に自己紹介をしたな。俺、人の名前覚えるの苦手なんだよな。今更聞けないし、俺はあの二人の名前を心に刻んだ。ナックルは拳闘士であらゆる体術が得意な職業だ。頭にはバンダナを巻き、手には手甲をはめ、そこには魔法陣が刻んである。そうすることで自動的に祖の魔法を発動する仕掛けのようだ。

 ナザリーは日本刀のような刀を装備している女剣士だ。髪型はポニーテールで装備は胸に鎧を装着してるぐらいで目立つところには他の装備が見当たらない。おそらくスピードを活かすためだろう。


 そして、二人に聞いてるのが戦士であるアレクだ。光魔法が得意で装備も鎧にアームに兜、さらにマントと見た目が勇者みたいなやつでしかも神は金髪で目はブルーアイズの超イケメンだ。俺にしては珍しくこいつのことだけはすぐに覚えた。


 そんなアレクの問いに、苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る二人。ガゼル団長が倒れている以上自分たちが何とかする他ない。


「やってやらー!」

「・・・・・・やるしかないわね!」


 二人がミノタウロスに突進する。


「セシリー、ガゼル団長の治療を!」

「わ、分かったわ。ガブリエルさん、協力してください!」


 セシリーとはさっきの僧侶の女性のようだ。アレクの指示でセシリーが走り出し、後方をガブリエルがついて行った。琢磨は既にガゼル団長の元に行き、英雄のマントをかぶせてあらかた回復させていた。応急措置程度だがやらないよりはましだろう。

 前方を見るとアレクがてきぱきと指示を飛ばす。どうやら、人を動かすことに向いてるようだ。琢磨はあまりしゃべるのが得意じゃないので裏方に徹して様子をうかがっていた。


 その頃、ガゼル団長の治療に駆けつけたセシリーだが、容体を見てほとんど回復してるのを確認すると、回復魔法『ヒール』をかけると傷口がみるみる治っていった。

 回復魔法をかけ終わるとここまでのことをした琢磨に羨望の眼差しを送ったが前方を見ていた琢磨は気づく素振りもなかった。そんな様子を見ていたガブリエルは「まさか、セシリーは琢磨さんのことが・・・・・・」と考えたがそれ以上何も言わなかった。



 アレクは今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。


「天につかさどる大天使よ! 全ての邪悪を滅ぼし光を与えたまえ! 願わくばこの一撃で全ての罪を許したまえ! 【聖なる光】《ほーりーあろう》」


 詠唱と共に真っ直ぐ突き出した聖剣から光の矢が橋を振動させ、地面を抉りながらミノタウロスへと直進する。

 ナックルとナザリーは、詠唱の終わりと同時に離脱している。二人ともボロボロだ。この短い時間だけで相当ダメージを受けたようだ。そんな二人の元へセシリーが駆けつけ、すぐに回復魔法をかける。

 一方、放たれた光の矢は轟音と共にミノタウロスに直撃した。光が当たりを塗りつぶす。衝撃でアレクたちがいる橋に大きく亀裂が入っていく。


「はぁはぁ、やったか・・・・・・」

「これでくたばってくれなかったらきついぜ」

「だといいけど・・・・・・」


 ナックルとナザリーは立ち上がるとアレクの傍に戻って、状況を見守っている。アレクは莫大な魔力を消費したようで肩で息をしている。先ほどの攻撃は、アレクが今現在のレベルで繰り出せる最強の技だ。残存魔力のほとんどが持っていかれた。背後では意識を取り戻したガゼル団長が起き上がろうとしている。


 そんな中、徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われる。

 その先には・・・・・・

 無傷のミノタウロスがいた。

 いつの間にか斧を前に構えて防御態勢を取っていて周りを風の膜が覆っていた。そして、斧の中心にある石が緑色に輝いていた。少しすると徐々に光が弱まっていき消えると、風の膜も消失した。どうやら、斧にはめ込まれてる石の仕業だしい。

 ミノタウロスは低い唸り声をあげ、魔物特有の赤黒い魔力を発しながら、アレクを射殺さんとばかりに睨んでいる。と、その直後、ミノタウロスがスッと斧を前にかがげると石がだんだん赤くなっていき灼熱化していく。そして、遂には斧から炎がマグマのように燃えたぎり温度が急上昇する。


「ボケっとするな! 死ぬぞ!」


 ガゼル団長の叫びに、ようやく無傷というショックから正気に戻ったアレクたちが身構えた瞬間、ミノタウロスが斧を上空に向けると魔法陣が現れ、そこから赤く燃えた岩が隕石のように落下した。

 アレクたちは咄嗟に横跳びで回避するが、着弾時の衝撃波をモロに浴びて吹っ飛ぶ。その衝撃で地面を何回かバウンドしてようやく止まった。その姿は満身創痍でとても戦える状態じゃない。

 ガゼル団長が駆け寄ってくる。


「お前ら、まだいけるか!」


 ガゼル団長が叫ぶように尋ねるもうめき声だ。やはり、相当なダメージを負ったようだ。

 ガゼル団長はセシリーを呼ぼうと振り返るとその視界に、駆け込んでくる琢磨を捕らえた。


「琢磨! アレクを担いで、セシリーかガブリエルの元に行け!」


 琢磨に指示を出すガゼル団長。

 アレクを担いでということは他二人を助ける時間はないのだろう。そんだけ二人が吹き飛ばされた場所は俺たちのいる場所から正反対のところに飛ばされている。即座に判断したガゼル団長は唇が切れるほど強く嚙み締めながら盾を構えた。ここを死地と定め、命を懸けて食い止めるつもりだ。

 だが、そんなガゼル団長の前に立つ者がいた。琢磨だ。ガゼル団長は一瞬目を見開いたが、すぐに冷静になり、


「・・・・・・やれるんだな?」

「ああ、任せてくれ」


 決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくる琢磨に、ガゼル団長は一瞬英雄を見たような気がした。それが幻でも構わないと後は琢磨に任せ、アレクを担いで引き下がった。

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