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俺は昔からダンスを踊ってた。十歳、離れた姉 長谷川 美玲が踊ってたことが原因で俺も気がついたら踊れるようになっていた。
小三になった時、美玲が講師を務めてるスクールに新しい生徒が入って来た。正直ダンスは下手だった。だから特に視界にも入れてなかった。けど一週間後の課題披露の時、あいつは何故か踊れていた。勿論上手くはなかった。でも一週間前はこれぞ初心者って感じの動きが、形になっていた。練習したのはわかる。でも一週間だぞ、どう考えてもおかしい。
俺はレッスンが終わってから、スクールで歌を習っている、藤宮 朔人にその話をした。
「蓮が他のスクール生の話をするなんて珍しいな。」
「こっちは真面目に言ってんだぞ。」
朔人が笑いながら言ってきたから俺は少しムカついた。
「ごめんごめん。でも気になるなら、美玲さんに聞いてみれば?」
俺は少し拍子抜けした。思いつきもしなかったが美玲なら何か知ってるかもしれない。
「そうか。その手があったか。ありがとう朔人。じゃあまた今度な。」
俺は朔人と別れ家に帰った。
「ただいま。」
まだ美玲は帰っていなかった。
美玲が帰ってきたのはちょうど、ご飯を食べ終わった時だった。俺はリビングに入ってきた美玲にどう聞けばいいのか考えていた。
「蓮、あの子がそうして一週間であそこまで伸びたか知りたい?」
美玲は俺が聞く前にあいつのことを言ってきた。
「知りたいなら、明日の四時半にレッスン室に来なさい。あと、夏目結良よ。名前くらい覚えておきなさいよ。」
そう言うと美玲は席を立った。
レッスン室?明日はレッスン無かったよな。明日行ってみるしかないか。名前は明日、見て覚えた方が良さそうなら覚えておくか。俺は自分の部屋に戻った。
次の日、美玲に言われた通りレッスン室に行くとあいつは一人で昨日言われたばかりのフリを踊っていた。
「蓮、結良は初めてレッスンを受けた次の日から毎日練習しに来てるの。」
気がついたら美玲が俺のそばまで来ていた。
「自分で練習してもいいか聞きに来たのよ。まだ動きはぎこちない。でも結良は努力の天才。それにとっても楽しそうに踊ってる。蓮、あなたはダンスの天才。だけどダンスを愛してるのは間違いなく結良よ。」
美玲はそう言い残してその場を去って行った。
俺はダンスを愛してなかったのか。ずっと心に引っかかっていたものがストンと落ちた気がした。もしかしたらあいつと結良といればまたダンスを愛せるかもしれない。
俺はそれから毎日、結良と練習するようになった。
〜結良〜
今日もいつものようにレッスン室で自主練していた。けど何故かあの子が隣で踊ってた。
遡ること三十分、レッスン室のドアが開いた。また美玲先生が来たのかと、鏡越しにドアの方を見たらそこにはダンスの上手いあの子がいた。何事かと思って踊るのをやめてその子の方を見ていたけど、その子はその子で踊り始めた。よく分かんないけど、まあいいっか。私も今週の課題を踊り始めた。
そして時間は経ちもう帰る時間になった。でもここで問題があるあの子の名前は何かという事。聞いてみるか。あの子に話しかけてみることにした。
「あの私は、夏目結良と言います。あなたはなんて名前なんですか?」
私が話しかけると思っていなかったのか、驚いた顔をしていた。
「…ボソボソ」
何を言ってるかわからなかった。
「もう一度お願いします。」
すると
「長谷川蓮。」
今度は聞き取れた。けど長谷川って
「美玲先生と姉弟なの?」
「そうだ。」
美玲先生と姉弟だそうだ。
「結良は何年生なんだ?」
最初の挨拶で言ったのといきなりの呼び捨て。気にしても仕方ないか。
「私は三年。蓮は?」
「同じだ。」
愛想がないタイプなんだな。
「毎日練習してるのか?」
「土日と何か用事がない限りは来てるかな。蓮も来る?」
「…ああ。」
え、今のはどっち。冗談のつもりだったけど。まあ明日来ればわかるか。
「じゃあ私は帰るから。またね。」
「ああ。」
よくわからない子だけど、お手本を近くで見れるかもだしいいか。
今日も練習してた途中で蓮は来た。あの時の返事は来るって意味だったんだな。まあいっか。
特に会話をするわけでもなく、それぞれが練習して時間を過ごす。
「じゃあ帰るね。」
「ああ。」
「また明日。」
この会話をして私は帰る。
なんだかんだで通い始めてから半年が経とうとしてた。その日は帰りの挨拶がいつもと違った。
「じゃあ蓮。帰るね。」
「明日、俺の友達も来ていいか?」
蓮に友達がいたことに驚いたけど来ることに問題はないから。
「いいよ。でも蓮に友達いたんだね。」
「俺にも友達ぐらいいるよ。」
蓮が何と見えない顔をしていた。
「じゃあね。」
どんな友達が来るのか楽しみにしておこう。私は家に帰った。