7:悪人を倒してレベルアップだ!
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
おおおっ、来たっ!
さっそくステータスの確認だ。
アレックス 人間族 男 15歳
Lv.5
Kr.47
スキル
剣術 Lv.1
属性攻撃補正:悪人 Lv.1
属性防御補正:悪人 Lv.1
簡易鑑定:カルマ値
やった、レベルは下がる前より一つ上げて5になってる!
スキルの方は変化なしか。……うん? カルマ値が下がってる……ような気がするぞ。前は幾つだったっけ? 確か50くらいだったはず。
まあ、それでもまだ47もあるんだ。大丈夫大丈夫。
……って、そうだ。いつまでもこんな所にいちゃいけない。
レベルがまた上がったことにすっかり有頂天になってしまい、周りに気を配るのを忘れていた。
死体は残ってないとは言っても、辺りには男二人の物騒な叫び声が聞こえたはずだ。人が来る前に場所を移そう。
僕は血の汚れが目立たないように注意しながら再び剣を布で包み、男たちの死体が消えた場所に落ちていたお金を急いで拾うと、逃げるようにその場を立ち去った。
◇
それからまっすぐおんぼろアパートの自分の部屋に帰り、ようやく緊張を解いて一息つく。
上手くいった。……いや、上手くいってしまった。
これでもう間違いない。僕は人を殺すことでレベルアップする。
逆に言えば、僕はその方法でしかレベルアップできないんだと思う。
普通の人は魔物を倒したり、体を鍛えたり、あるいは技を磨いたりすることで、ステータスには表れない経験値というものを手に入れる。
そしてその経験値が一定量を超えるとそこでレベルが上がり、身体能力が強化される。……少なくとも、冒険者ギルドの初心者講習で僕はそう教わった。
だけど僕は冒険者になってから5年間、何百何千匹のゴブリンを倒しても、どれだけ鍛錬に励んでも、レベルはずっと変わらず1のままだった。
特にこれと言った努力もせず、ただ成長して体が大きくなっただけでレベルアップする人もいると言うのにだ。
それが一昨日、たまたま街で襲ってきた相手を返り討ちにしただけで、一気にレベルが4まで上がった。そして今日もまた、同じように人を殺してのレベルアップに成功してしまった。
この5年間、どうしてもレベルを上げたくて色々調べ回った僕だ。経験値とレベルアップの仕組みについては、普通の冒険者より多少は詳しいって自信がある。
その僕ですら、人を殺して経験値を得るなんて話は今まで聞いたこともない。もし本当にそんなことが起こるのなら、少なくとも噂ぐらいは耳にしたことがあるはずだ。
それに、殺された人がまるで魔物のように、それも魔石の代わりに所持金だけを残して消え去ってしまうとか、いったん上がったレベルがまた下がるだとか、そんな出来事も今まで調べた中にはなかった。
おまけに『カルマ値』の存在だ。人の善悪を数値で見分けられるスキルなんて、冒険者ギルドの資料室で読んだどんな本にも載ってない。
…………………………
……つまりそれは、これが僕だけの能力なんだってことを意味しているんじゃないだろうか?
僕は他の人と同じ普通のやり方じゃ、レベルアップもスキル獲得もできない。
その代わりに、悪人を退治すれば経験値を得られる。
そして悪人を見抜くための【簡易鑑定:カルマ値】に、悪人と戦うための【属性攻撃補正:悪人】と【属性防御補正:悪人】。
さっきだって僕は男の腕を簡単に斬り落としたけど、剣に刃こぼれもさせずに硬い腕の骨を切断するなんて、到底レベル1の剣術スキルと安物の剣でできる事じゃない。それはきっと、この補正スキルのおかげだ。
おまけに倒した悪人はまるで魔物のように消え失せてしまうから、死体の処理に頭を悩ませる必要もない。
そう考えてみると、全部が都合よく繋がっているように思える。
もしかすると悪人だけじゃなくて、普通の人や善人を倒しても経験値が入るのかも知れないけど、さすがに僕もそんなことを試してみるつもりはない。
あとは、できればレベルダウンの条件も知りたいところだ。
僕は昨日と今朝で2回、レベルダウンをしている。特に今朝なんて、レベルが下がるような心当たりは何もない。ただ寝て起きたら下がってた。
もしかすると僕の行動には関係なく、時間経過だけで少しずつ下がって行くのかも知れない。ただそれも、経験値が減って行く結果としてレベルが下がるのか、あるいは経験値に関係なくレベルそのものが下がって行くのかによって、僕自身の心構えも変わってくる。
今のところは下がるより早いペースで上げる事ができているけど、この先もっとレベルが高くなれば、一つ下がるだけでも挽回するのは大変になるだろうし。
ともあれ、最低限知りたかったことは判明した。今日からはじゃんじゃん悪人を倒してレベルアップだ!
それは僕にとってだけじゃなく、街の人にとってもいい事なんじゃないかと思う。
少なくとも、倒される当の悪人たち以外には、困る人はいないよね?
たくさんの評価をいただき、ありがとうございます!
もしもこの作品を読んで面白そう、と思われた方は、
ブックマークやこの下の★★★★★マークで応援して下さい!