6:ちょっと実験につき合ってもらうよ
「……うぅ。朝か……」
差し込んできた朝日が眩しくて目が覚める。
今日も外は良く晴れているみたいだけど、気分は最悪だ。とは言え、いつまでもベッドでゴロゴロと寝ていられるようないい身分じゃない。
顔でも洗って気分を切り替えようかと起き上がると、酷い気だるさを感じてもう一度ベッドに腰を落とす。
なんだろう、妙に体が重く感じる……
……ま、まさかっ!?
強烈な不安感に襲われつつ、急いでステータスを表示させる。
「う……そだろ…… もう勘弁してよ……」
一夜明けると、僕のレベルはまた一つ下がってレベル2になっていた。
「うわああああああああアアアアアアアァァァァッ!!」
絶望とやるせなさのあまり、まだ朝の早い時間だというのに大声を出してしまった。
壁の薄いおんぼろアパートのこと、両隣の部屋から僕を非難する怒鳴り声と壁を蹴る音が聞こえるが、そんなことはもうどうでもいい。
……どうしてだ? 理由はなんだ?
レベル4から3へ下がった時には、僕はダンジョンでゴブリン狩りをしていた。だから、それが原因なんじゃないかと考えた。
だけど今回は、レベル2に下がった原因に全然心当たりがない。その間僕は、ただ寝ていただけだ。
と言うことはまさか、時間の経過だけでレベルが下がる?
何だよそれ、もうわけが分からないよ。どうすればこれを止められるんだよ!
…………………………!
……そうだ。下がるのを止められないのなら、もう一度上げればいいんじゃないか?
一昨日、レベルが上がった時の状況を再現すれば、ひょっとして……
そう思いついた僕は、急いで身支度を整えて表へ駆け出した。
◇
僕が向かうのは、このアルテアの街で最も物騒だと言われる地域。
この辺りは、地元の住民でも決して少人数では足を踏み入れない。
そのゴミだらけの路地を一人で歩いていると、路傍にたむろしたり、無気力そうに地べたに寝転んだりしている身形の悪い連中から、無遠慮な視線が集まってくる。
何とはなしに【簡易鑑定】を使ってカルマ値を見てみると、軒並み赤字で数百台の数値が表示される。見た目を裏切らない悪人揃いだ。
僕はいつも身に着けている簡単な革の防具を外し、剣も腰には吊らずに鞘から出して布で包み、胸に抱えている。できるだけ無防備に見せて、油断を誘うためだ。
そしていかにも余所者ですと言わんばかりにキョロキョロと周りを見回しながら、その時を待った。
「よう坊主、探し物か? 手伝ってやるぜ」
僕の行く手を遮るようにして近付いてきたのは、二十歳ほどのいかにもなゴロツキ風の男。カルマ値は、この辺では標準的な赤字の385だ。
ふと気配を感じて振り返ると、後ろにもカルマ値が同じくらいの男が一人立っていた。
マズいな、挟まれたか。だけど見たところ、二人とも一昨日の男に比べれば実力は数段落ちる感じだ。剣とかの長物は持っていないようだし、何かしら武器は持っているだろうけど、せいぜいナイフ程度か。
それならリーチの差を利用して不意を突くこともできる。……よし、腹を括ろう。相手は僕を襲ってお金を奪おうとする悪人じゃないか。それを逆手に取って何が悪い?
「……いえ、結構です。そこを通してください」
「そう言うなよ。人の親切は素直に受け取っておくもんだぜ、坊主」
「すみません、急いでいますので」
与しやすい相手だと思わせるために、できるだけ弱々しい声でそう答えると、僕は早足で前に立ち塞がる男を避けて路地の隅を通り抜けようとする。
すると男は案の定、素早く僕の前に移動して距離を詰めてきた。
「まあちょっと待てって…… よっ!」
「うっ!」
男の拳が僕の鳩尾に食い込む。
ダメージを覚悟して体をこわばらせるが、……あれっ? 思ったほど痛くないぞ。ひょっとしてこれが【属性防御補正:悪人】スキルの効果だろうか。
続けて男は、僕を壁に向けて突き飛ばした。逃げ道を塞ぐつもりだろう。
そして僕が苦痛で動けないと確信しているのか、おどけるように大きく両腕を広げ、ニヤニヤしながら無造作に近付いてくる。武器を抜く様子もない。チャンスだ!
僕は布を巻き付けたままの剣を、男のガラ空きの胸に思い切り突き入れた。
「あッ……ガァああアァッ!?」
「悪いけど、ちょっと実験につき合ってもらうよ」
剣は狙い通り男の心臓を貫き、巻き付けた布が端の方からじわりと赤く染っていく。
それを一気に引き抜くと、途端に大量の血が溢れ出す。男はそれを不思議そうな顔で見下ろしながら膝をつき、ゆっくりと倒れた。
「……て、テメェ、よくもビフを殺りやがったなぁッ!?」
そこでもう一人の男が激高してナイフを抜き、襲い掛かってきた。もう今更だ。本気になるのが遅すぎるよ。
僕は邪魔な布を振り落とし、抜き身になった剣を構える。
「死ィねやぁあああぁぁ!!」
「ヤッ!」
ズパンッ!
僕の振り下ろした剣が、ナイフを持った男の右腕をあっさりと斬り落とした。
あれっ、おかしいな。僕はただ、腕を斬りつけてナイフを取り落とさせようとしただけなんだけど……
「ひィアああアアアぁッ!?」
そして肘から先のなくなった右腕を見て悲鳴を上げる男を、さっきと同じように剣で貫く。
それでぴたりと静かになって地面に倒れた男は、やっぱりしばらくすると地面に溶け込むようにすぅっと消えていなくなった。
そして……
『レベルが上がりました』
待ち望んでいた声が聞こえた。
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