5:こんなのってないよ……
街外れの駅まで歩き、昨日と同じように乗合馬車でダンジョンへ。
まずは冒険者ギルドの受付で、ダンジョンに入る申請をする。
と言っても面倒なことは何もない。冒険者登録証を見せて、人数と予定日数を答えるだけだ。
アルテアのダンジョンは知られている範囲だけでも地下何十層もあり、最下層に辿り着いたという人はまだいない。
ひょっとすると、いくら下って行っても果てがないんじゃないかとも言われているけど、そんなのは僕には関係がない。重要なのは、下に降りれば降りるほど、手強い魔物が出現するってこと。
だから最上層の地下1階には、ほぼゴブリンしか現れない。
「えいっ!」
「ギャゲゲッ!」
「とうっ!」
「ゴアッ!?」
そのゴブリンを、僕は一刀のもとに斬り伏せて行った。
特に何と言うこともない、ただ踏み込んで剣を振るうだけ。それだけで僕の剣はいとも簡単にゴブリンの急所を捉え、斬り裂く。
すごい! 昨日までは1匹倒すのだって一苦労、2匹や3匹が同時に現れれば下手すりゃ命懸けの戦いだったのに。
それがたった一日で、こんなにも一方的な戦いぶりに変わる。レベルアップとスキルの効果は絶大だ。
ちなみに、このゴブリンたちに対して【簡易鑑定:カルマ値】を試してみたところ、何も表示されなかった。
どうやら魔物には善人悪人の区別はないらしい。みんな悪だったら楽ができそうでいいなと思ったんだけど、そう上手くは行かないか。
それでもこの調子なら、ゴブリンなんか5匹やそこらまとめて相手にしたって怖くもなんともない。一日に50匹ほど狩れればそれなりにまとまった収入になるし、しばらくそうしてお金を稼いで装備を整えれば、地下3階や4階でもっと上位の魔物と戦っても大丈夫だろう。
そうすればすぐに僕自身や剣術スキルのレベルも上がるだろうし、他の派生スキルを覚えられる可能性だってある。
そして今よりもっとずっと強くなれば、冒険者クラスだって……
『レベルが下がりました』
ほーら、言ったそばからレベルアップ…… じゃない!? い、いま、今なんて言った!?
……下がりましただってええぇっ!!?
「す、ステータスっ!」
アレックス 人間族 男 15歳
Lv.3
Kr.52
スキル
剣術 Lv.1
属性攻撃補正:悪人 Lv.1
属性防御補正:悪人 Lv.1
簡易鑑定:カルマ値
……う、嘘だ嘘だ嘘だぁっ! 本当にレベルが一つ下がってる!?
一度上がったレベルが下がるなんて、そんなの聞いたことないよっ!?
ちょ、ちょっと落ち着いて考えてみよう。……原因はなに?
いま僕がしてたことって言えば、ゴブリン狩りだけだ。つまり、ゴブリンを倒し過ぎたらレベルが下がる? ……いやいや、そんなのあり得ない。そんなことが原因でレベルが下がるならもうとっくに誰かが気付いて常識になってるだろうし、そもそも僕が今日倒したゴブリンなんて、まだせいぜい20匹程度だ。数としては全然多くない。
でもとにかく、ここでこうしてゴブリン狩りを続けていると、またレベルが下がってしまう可能性もある。
せっかく4まで上がっていたレベルがまた1に逆戻りするなんて、想像するだけでも恐ろしくて頭がどうにかなってしまいそうだ。それにやっと手に入れた剣術スキルも、絶対に失うわけにはいかない。
……よし、帰ろう。ゴブリンからは全力で逃げ切るぞ!
◇
その後は攻撃を受けても反撃どころかろくに防御もせず、とにかく一目散にダンジョン出口に向かって走った。
そのお陰か、幸いそれ以上はレベルが下がることもなく、僕は手に入れた魔石を換金する手間も惜しんで、最速でアパートへと帰り着いた。
「レベル3…… つい3時間前まではレベル4だったのに…… れべるさん………… ううっ、ちくしょう……っ……」
自分の部屋に戻ってから、何度ステータスを見返してみても結果は同じ。
昨日まで5年もの間レベル1で、それがようやく上がったと思ったらこの仕打ちだ。その衝撃は量り知れない。
それでもまだレベル3もあるじゃないかと思うかも知れないけど、一度上がったレベルが安泰じゃなく、また下がる可能性があるということが明らかになってしまったからには、もう平静でなんかいられるわけがない。
それに、収入の問題もある。
せっかくダンジョンでの魔物狩りがそこそこ安全にこなせるようになったかと思ったその矢先に、これだ。
お金が欲しければ、万年レベル1という一昨日までの惨めな状態に戻ることを覚悟の上で魔物を狩る他にない。そしてもちろん、生きていく上でお金はどうしても必要だ。
「それならいっそ、レベルなんか上がらなければ諦めもついたのに…… こんなのってないよ……」
それが自分勝手な言い分だって分かっていても、言わずにはいられない。
レベルアップの喜び、強くなった身体能力の快適さ、手に入れた技術の便利さ。それをいったん与えておきながらまた取り上げるなんて、あんまりにも残酷すぎる。
そうして僕は、おんぼろアパートの固いベッドに突っ伏したまま、いつの間にか眠りに落ちていた。
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