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24:そう言うことなら……?

「ちょっと行ってくるよ」


 フィオナにそう言ってから、僕はわざと大きな音を立てて椅子を引き、カツカツと踵を鳴らして男たちのテーブルに近づいて行く。

 するといよいよ嵩にかかって騒ぎ立てている男たちやマリー、女将さんにご主人、残り少なくなった食事客、全員の視線が僕に集まった。

 男たちは3人とも20歳手前ほど。全員腰に剣を吊っている。冒険者だとしたらDクラスってところだろうか。油断はできないけど、大した相手じゃなさそうだ。


「ちょっといいかな?」


「なんだテメェはよ。関係のないガキはすっこんでろ」

「女連れだからってカッコつけてんじゃねぇよ」

「なんならお前の女も一緒に躾し直してやろうか?」


 男たちはそう言ってゲラゲラ笑い、女将さんとご主人が申し訳なさそうな顔で僕に頭を下げる。

 そして男の一人に腕を掴まれているマリーは半泣きで、助けを求めるように僕の顔を見た。


「あのさ、うるさいし目障りだから、他所でやってくれない?」


「……んだと、ゴルァ!?」

「調子に乗ってんじゃねぇぞこの糞ガキが!」

「ぶっ殺すぞテメェ!?」


 軽く挑発してみると、一瞬何を言われたか分からないというように呆けたような表情になったあと、一斉に立ち上がって僕に掴みかかってきた。

 こんな安い煽り文句でこっちの注文通りにヒートアップしてくれるとか、本当に楽でいい。


 そしてさすがにこんな場所で刃物を抜くほど馬鹿ではないらしく、全員素手だ。とりあえず捕まえて袋叩きにでもしようという魂胆だろう。

 僕はその伸びてくる腕を逆に捕まえて関節を極め、一人ずつ投げ飛ばしては床に叩きつけていった。

 今の僕の【格闘】スキルはたったのレベル1。だけどウォレスたちを倒して【属性攻撃補正:悪人】がとうとうレベル6に上がったので、悪人に対してだけは達人並みの強さを発揮できる。そのおかげだ。


「痛ってぇっ!」

「ゲホッ、ゲホッ!」

「こっ、腰が! 腰がぁっ!?」


「もう一度やる? それとも次は剣を試してみる? ……今度は痛いだけじゃ済まないけど」


 床に転がってのたうち回る男たちに対して、僕は腰の剣の鍔をカチンと鳴らしてみせる。

 格闘戦での実力差を思い知らせた上でのこの脅しは効果があったようで、男たちは思い思いの捨て台詞を残して宿を出ていった。


「お客さん、本っ当にありがとう。恩に着るよ」


「お陰で娘が助かった。なんとお礼を言っていいか……」


「うあああぁん。怖かったよぉーっ!」


 男たちが立ち去ったあと、女将さんとご主人には繰り返しお礼を言われ、マリーは泣きながら僕にしがみついてきた。

 うんうん、怖かっただろうね。一気に緊張が解けたせいで感情が抑えられないのもよく分かるよ。……でもフィオナがジト目でこっちを見てるから、悪いけどちょっと離れてくれるかな?




「ありがとう、アレックス」


「お礼なんかいいよ。ただ僕がしたいようにしただけなんだから」


「うん。……でも、かっこよかった」


「……そ、そう? ……そうかな?」


「そう。いつもと違うアレックス。かっこいい」


 フィオナの待つテーブルに戻ると、彼女にしては珍しくニマニマと嬉しそうな表情でそんなことを言われてしまって、かなり照れた。

 そう言えば、フィオナにはけっこう何度も情けない姿を見られてるからなぁ。これでちょっとは挽回できたかな?


 ……それはそうとして。


 難癖をつけてマリーに絡んできた男たちを追い出すことには成功したけど、このまま奴らを放っておいたんじゃ、明日もまた同じようなことをやりかねない。

 しかも僕たちは明日の朝にはこの宿場町を出るわけだから、明日から先は今日のように助けてあげることもできない。


 なので、後顧の憂いは早めに断っておくべきだ。

 僕はそのことを手短にフィオナに説明し、さっきの男たちを追うことにした。


「遅くなるかもしれないから、フィオナは先に部屋へ戻って休んでて」


「わかった。気をつけて、アレックス」


 そうして僕はフィオナに見送られ、すっかり日の落ちたリトエイナの街へと出て行った。



 ◇



 宿の外へ出ると、僕はすぐに【気配察知:悪人】を発動させる。

 探るのはさっきの3人組の気配だ。まだそんなに遠くへは行っていないはず。


 そう考えて適当に歩き始めると、思ったよりも早くその気配を感じ取った。

 どうやら彼らは、宿のすぐ近くからずっと僕の後を尾けてきているようだ。……って言うか、気配だけじゃなくて足音もはっきり聞こえてるじゃないか。ここでもし僕が振り向いたら、姿も丸見えなんじゃないの? まったく、雑だなぁ……

 でもこの状況は僕にとって好都合なので、そのまま尾行に気付かないフリをして、男たちを人目のない奥まった路地に誘導する。


 ……さて、もうこの辺でいいかな。


 僕は細い路地を折れたところで【隠密】を使い、建物の壁の窪みに身を隠した。

 すると急に僕の姿を見失った男たちが慌てて走ってきて、そのまま僕の目の前を通過して行く。ところが、その先は行き止まりだ。僕が忽然と姿を消したとでも思ったのか、男たちは不思議そうに首を捻りながら来た道を戻り始めた。


「僕に何か用かな?」


「うわっ!?」

「ひっ!?」

「なな、何でそっちに!?」


 そこで僕は【隠密】を解いて男たちの前に出た。驚き狼狽えて後退(あとずさ)りする3人。これでもう逃げ道はないよ。

 先手を取られてちょっと腰の引けている男たちを前に、僕はゆっくりと腰の剣を抜いた。


「素直に謝って、もう二度とあの宿に近付かないと誓えるなら、見逃してあげてもいいんだけどね。……どうする?」


「……んだと、ゴルァ!?」

「調子に乗ってんじゃねぇぞこの糞ガキが!」

「ぶっ殺すぞテメェ!?」


 男たちはまた僕の注文通り、安い挑発に乗って一斉に剣を抜き放ち、飛びかかってきた。

 その決着がつくまでには、3(タルジン)も掛からなかった。



 ◇



 男たちを始末して宿に帰ると、フィオナも宿のご主人も女将さんもマリーも、みんな食堂で僕の帰りを待っていた。


 考えてみれば、僕はここで男たちと揉めたあとすぐに後を追うようにして出て行ったので、事情を知っているフィオナはいいとして、女将さんたちには余計な心配をかけてしまったかも。

 そこでとりあえず、さっきの男たちにはきっちり話をつけておいたからもう二度とここには来ないだろう、と説明しておいた。


 女将さんたちにはまた繰り返しお礼を言われ、しまいにはいったん支払った宿代を返す、なんて言われたけどそれはさすがに申し訳ないので断った。

 ……そのくらいのお金は、さっきの男たちが落として行ったしね。


「それじゃあせめて、明日の朝とお昼の弁当は腕によりをかけさせてもらうよ。そのくらいのお礼はさせてくれるだろう?」


「はい、それなら遠慮なく。ありがとうございます」


「おう。そうと決まりゃ、さっそく今から仕込みにかからなきゃな」


「私も手伝うよ! お兄ちゃん、楽しみにしててね!」


 そう言って張り切って厨房に戻ったご主人とマリーが、なんだかすごい量の食材を台の上に並べ始めたんだけど……

 気持ちはありがたいですが、食べ切れる量でお願いしますよ?




 そんな騒動も終わり、僕とフィオナはようやく部屋に戻った。

 手荷物を置いて装備を外し、上着を脱いで一息つくと、フィオナがいつの間にかベッドの上にちょこんと座って、自分の太ももをぺちぺちと叩いている。


「アレックス、治療する。来て」


「えっ。でも今日はどこも怪我はしてないよ?」


 男たちとの一戦は楽勝だったし、先手を取らずに済んだからカルマ値もほとんど減っていない。

 だから、フィオナに治療をしてもらわないといけないところはないんだけど。


「いいの。わたしがアレックスを治療したい。だから来て」


「えーと…… うん、そう言うことなら……?」


 なんだかよく分からないけれど、誘われるままいつものようにフィオナの太ももに頭を乗せて寝転がる。

 するとフィオナが嬉しそうに少し微笑んで、僕の額に小さな手を置いた。


 こうしてるとすごく気持ちが良くてよく寝られるし、怪我をしていなくたって僕にとって損はないんだけど…… フィオナは大変じゃないのかな?

 そう疑問には思ったけれど、すぐに一日の疲れとフィオナの治癒魔法の心地良さとで瞼が重くなり、それを彼女に尋ねる前に僕は眠りに落ちていってしまった。

お読みいただき、ありがとうございます!

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[気になる点] このやきもちっ娘を抱えながらハーレムは無理じゃないかと。
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