表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/47

14:何か思いついたらね?

 あらためて「ただいま」と言ってから部屋に入ると、ちょっと散らかり気味だった僕の部屋がキレイに片付けられていた。

 机や椅子が綺麗に拭かれていたり、窓際にはフィオナの服と一緒に僕の下着が干されていたりもする。

 下着、洗ってくれたんだ。でもちょっと恥ずかしいな……


「フィオナ、掃除してくれてたんだね。ありがとう、助かるよ」


「少しだけ。……せっかく、自由に動けるから」


 どうやら彼女は、まず拭き掃除や僕の服の洗濯のために水を汲んできて、そのついでに自分の体と服を洗っていたらしい。

 ほんと、たまたま僕が彼女の服を買ってきてたから良かったけど、そうじゃなかったらどうするつもりだったんだろう?


 それから綺麗に片付いたテーブルで、買ってきた朝ごはんを食べる。

 僕自身のためなら絶対に買わない、一つ300ランの肉野菜詰めパンだ。


「……おいしい。……これ、すごくおいしい。……おいしい」


「そう? よかったら僕のも半分あげようか?」


「…………」


 フィオナは肉野菜詰めパンが気に入ったらしく、何度も「おいしい」を繰り返していた。

 そんなに気に入ったのならと勧めてみると、しばらく僕の分のパンを凝視してから、慌ててぶんぶんと首を横に振っていた。

 遠慮してるのかな? 次からはもうちょっと多めに買ってくるか。


 そう言えば、と、昨日のことを思い返す。

 フィオナを助けたとき、彼女の目の前の床の上に置かれていたのは、僕の目から見てもあまり美味しくなさそうな薄いスープと、床にじかに置かれた小さなパンだけだった。

 そりゃ毎日あんな食事じゃ、体が参っちゃうよな。




「フィオナはこれから、どこか行くアテはあるの? ご両親は?」


「お父さんとお母さんはもういない。お兄ちゃんもたぶん……。住んでた村もなくなった。だからもう、帰るところはない」


 フィオナはこれからどうするんだろう、と軽い気持ちで聞いてみたら、ものすごく重たい答えが返ってきた。

 それから彼女は、これまでの出来事をかいつまんで話してくれた。

 盗賊団に襲われて村が壊滅したこと、捕まった他の人たちが奴隷として売られてしまったこと、彼女だけは治癒魔法の能力のおかげで酷いことはされなかったが、ずっと部屋に閉じ込められて、傷付けられた女の子たちの治療をさせられていたこと、など。


 聞けば僕と同じ15歳だって言うのに、なんて凄絶な人生だ。もう、かける言葉もない。

 僕だって早くに両親を亡くしたけど、孤児院で先生たちに面倒を見てもらって、友達もいて、それなりに楽しくやってきた。

 それなのに、フィオナは……


「もう、一人きりなのはいや。……迷惑でなければ、アレックスに一緒にいてほしい」


「えっ、僕? どうして?」


「こうしてアレックスと話していると、ほっとする。わたしにできることは何でもするから、一緒にいて。……でももし迷惑なら、諦める」


「そりゃあ迷惑じゃないけど…… いや、分かったよ。それなら一緒にいよう」


 女の子に「何でもする」なんて言われちゃ断れないよ。いや、だからって別にいかがわしいことをするつもりはないけどね?

 それに、いまのフィオナの話を聞く限り、彼女の治癒魔法はあの悪人どもの悪辣な商売の要のはずだ。今ごろは血眼になって彼女の居場所を探しているに違いない。そんな時に彼女を一人にさせるわけにはいかないよ。

 ともあれ、僕の答えを聞いたフィオナは、すごく安心したように表情を緩めた。


「ありがとう。わたしにして欲しいことがあったら、遠慮しないで言って。何でもするから」


「う、うん。それはまた、何か思いついたらね?」


 誘惑に負けちゃいそうになるから、そう何度も言わないで欲しい……



 ◇



 フィオナが炊事場の使い方を教えてほしいと言うので、お昼は滅多にしない自炊をすることにした。

 この激安アパートは、一階の土間の一角が共同の炊事場になっていて、住人は自由に使っていいことになっている。とは言え、食材はもちろん薪や調理器具もそれぞれの持ち込みだ。うっかり置き忘れるといつの間にかなくなっているので、常備はできない。

 ただ、水だけは井戸から汲み上げて好きなだけ使っていい。


 食材は芋と芽の出た玉ねぎと、非常用の塩漬け肉が少しだけあったので、手っ取り早くそれを煮てスープを作ることにした。

 ここでの決まりを説明しながら、準備から調理、後片付けまでを二人でやって、できた料理は部屋に持って帰って食べる。

 フィオナはそれをまた「おいしい」の連発で食べていたけど、そんなに言うほど美味しいかな? いつもの手抜き料理なんだけど。




「それじゃ、行ってくるよ」


「うん。気をつけて、ぜったい帰ってきて」


 昼を少し過ぎると、僕はもう一度フィオナのいたあの建物に行ってみることにした。

 今朝の彼女の話を聞いて、あの建物にはまだ大勢の奴隷化された女の子たちがいると言うことに気付いたからだ。

 それは考えてみれば当然のことなんだけど、昨日はフィオナ一人を助け出すので精一杯だったし、その他にも続けざまに色々な事があったので、そこまで考えが及ばなかった。


 とは言え、今日いまからそこへ向かって全員を助け出す、なんてことまでは考えていない。できればそうしたいとは思うけど、それをするには僕はまだまだ力不足だ。

 だから今日はそのための下調べと言うか、敵の現状を探りに行こうと考えている。


 ただ、いざその建物に着いてみると、


「見張りがいない…… それに、売り家?」


 怪しまれないように前を通り過ぎながらちらりと見ると、閉じられた玄関扉には売り家の張り紙まで貼られている。

 昨日の今日で、もう? でも確かに【気配察知:悪人】にも反応はないし、中には誰もいないっぽい。


「ちょっと確かめてみるか」


 昨日脱出するのに使った2階の換気窓がまだ開いていたので、また雨樋を伝ってそこから中に入ってみることにした。

 昨日は3階の窓だったから、それに比べれば楽勝だ。


 建物の中はがらんとしていて、人の気配はない。もちろん【気配察知:悪人】の方にも反応はない。

 十分に警戒しながら幾つか部屋の中も覗いて見たけど、やっぱりどこも無人だった。


 収穫なし。

 少し拍子抜けした感じで、もう一度2階の換気窓から外へ出る。

 窓枠にぶら下がってから地面に飛び降りると、そこでようやく悪人の気配を感じ取った。


「小僧、誰に頼まれた!?」


 狭い路地の右に2人、左に3人。

 ……しまった、囲まれた。

お読みいただき、ありがとうございます!

もしもこの作品を読んで面白そう、と思われた方は、

ブックマークやこの下の★★★★★マークで応援して下さい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ