1:レベル1。おまけにスキルなし。
「ギャッ、グゲゲッ!」
「ギュギュエッ!」
灰色の石材で囲まれたダンジョンの一室に、2匹のゴブリンの叫び声が響く。
人型で緑色の肌をしたこの魔物は、10歳の子供くらいの体格で、僕の胸あたりまでの大きさしかない。力もそれ相応で、このダンジョンでは最弱に分類される魔物の一種。
……だけど、僕にとっては油断のできない強敵だ。
僕は剣を構え、ジリジリと慎重に少しずつ移動を始める。
ゴブリンの武器といえば棍棒か石のナイフ、あるいは石斧だ。そして目の前のゴブリンは2匹とも石斧を持っている。
もしこれがナイフだったら、こっちがリーチで圧倒できたのに。まったく、ツイてない。
「ギュアッ!」
焦れたゴブリンの1匹が襲いかかってくる。僕から見て近い方だ。
よし、これで2匹のゴブリンを同時に相手取るという最悪の事態は避けられそう。
僕は近付いてきたゴブリンに対して全力で剣を振り回す。けれど僕の攻撃はゴブリンの石斧の柄や肩、腕なんかを浅く切るばかりで、なかなか急所には当たらない。
同じようにゴブリンの攻撃も、僕の革の篭手や肩当てを傷付けるだけ。
「えいっ! とうっ! はぁっ!!」
何度も何度も剣を振るい、ゴブリンの上半身に幾つもの切り傷を付けたあと、ようやく僕の攻撃がゴブリンの側頭部にヒット。
脳震盪を起こしてよろめいた敵の胸に渾身の突きを入れて、止めをさす。
「ゲッゲゲッ!」
1匹目のゴブリンが動かなくなってから、その後ろで右往左往しながら戦いの様子を見ていた2匹目がようやく参戦。ろくに連係もとれない魔物で本当に助かった。
だけど僕の方も、もうヘトヘトだ。ゴブリンの使う石斧は刃物とは呼べないなまくらなので切られてこそいないけど、叩かれた打ち身で体のあちこちが痛み、剣を振り続けたせいで腕が重い。
「あっ!?」
振り下ろされる石斧は見えていたのに体が言うことを聞かず、それを受けようと持ち上げた剣も、躱そうとした動きも中途半端のまま。
ガツンと左肩に激痛が走り、思わず目を瞑ってよろよろと後ろに退がる。
まずい、やられるっ!
「ゲギギギッ!」
再び目を開いた僕の目の前に、残忍な笑みを浮かべたゴブリンの顔が迫る。
……嫌だ! こんな所で死んでたまるか!
その一心で、僕はもうとにかく無我夢中でデタラメに剣を振り回した。
◇
「……ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
身体中が痛い。息が苦しい。目眩がする。
何がどうなったのか全然憶えていないけど、僕は灰色の石壁の前に座り込んでいて、……とにかく、まだ生きていた。
2匹目のゴブリンもどうにか倒したみたいだ。その証拠に、目の前の石床の上に小さな赤い魔石が落ちている。
魔物は死ぬと魔石を残して消え去る。その魔石を拾ってお金を得るために、僕たち冒険者はこうして魔物と戦っているんだから。
それにしても……
「5年も冒険者やってて、まだゴブリンに殺されかけるなんて、そんなの僕くらいのもんだよな」
さっきも言ったけど、ゴブリンは最弱の魔物だ。1匹や2匹のゴブリンに苦戦するなんて、本当に冒険者になりたての新人くらいなものだ。
なのに僕は、もう5年もこの仕事を続けていてこのありさま。
「……ステータス」
アレックス 人間族 男 15歳
Lv.1
スキル
─────
呟きに応えて、脳裏に僕の現在のステータスが表示される。
これは冒険者ギルドに登録すると貰える登録証に付与された魔法の一種で、大まかな自分の強さを数字で表してくれるものだ。
冒険者はこのステータスを元に、自分の能力に見合った依頼を選ぶことができる。
そして僕のステータスは、レベル1。おまけにスキルなし。5年前から少しも変わっていない。
もちろん、わざわざ言うまでもなく最低だ。
普通は、冒険者を5年も続けていてレベル1なんてことはあり得ない。当たり前に依頼をこなしていけば、1年後にはレベル4か5、5年も経てば少なくともレベル10くらいにはなっているものだ。
しかも別に魔物を倒さなくたって、鍛錬をしたり、あるいはただ成長して体が大きくなるだけでもレベルは上がる。
スキルにしたってそうだ。
僕は5年前に冒険者になって、それから2年間、危険の少ない素材の採取や他の冒険者パーティの荷物持ちなんかをしてお金を貯め、今使っている剣を買った。
それから3年間、ずっとこの剣を使って訓練をしたり魔物退治をしたりしているのに、未だに剣術スキルすら手に入っていない。
普通ならメインとサブの武器スキルにいくつかの戦闘補助系スキル、それにひょっとしたら簡単な魔法だって覚えていても不思議じゃない。
……自分ではそれなりに頑張ってきて、経験も積んだつもりなんだけどな。
実際には僕の強さはステータスの示す通り、そして今のゴブリン戦でも明らかなように、最弱だ。
やっぱりこの仕事、向いてないんだろうなぁ……
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