9.不運の始まり(2)
大街主の一行が、眼の前を通り過ぎていく。そして、すぐ先の広場で、一旦、休憩をするらしい。大街主の息子のズリュードは、一行の中ほどを過ぎたあたりを進んでいく。親に似て体格は良いのだが、装備の着こなしがだらしない。恰好良いつもりなのかもしれないが、あれでは装備が邪魔になるだけだろう。
それを、俺、サウロウ、リンネの3人で見ている。この街の住民も珍しいらしく、道の脇で一行を見ている。子どもたちも、お喋りすることなく、静かにしている。
そして、ズリュードが眼の前を通り過ぎようとした瞬間、彼の前を進んでいた馬の足元から石粒が跳ね上がり、彼の乗っている馬の眉間にぶつかるのを見た。
ズリュードは、しっかりと馬にまたがっていた訳ではなく、突然のことにビックリした馬を宥めることもできず、逆に馬の首を絞めるように抱きついてしまった。馬はさらに驚き、右方向、俺たちの方に向かってきた。
サウロウとリンネは、店に武器は置いてきた。サウロウは剣に手をかけようとするが、当然空振り。周りの様子を把握しようとしている。リンネは周りの子供たちの手を取り、馬の進行方向から、少しずれるように誘導しようとする。
俺は剣を持って出てきたが、ズリュードの馬に切りつけていいのか、一瞬、躊躇してしまった。
ズリュードが、暴れる馬から振り落とされるのを脇目に見た。よし、なら心配なくいける。
剣を抜くとともに、馬の耳に向けて一突き。一瞬、馬は驚いたようで、急停止する。剣を持ち替え、大きく振りかぶり、馬の後頭部をジャンプしながら強く打ち付ける。馬は堪らず、体勢を崩し、地面に倒れる。
サウロウが、馬の目元を布で隠すと、少し落ち着いたようだ。リンネも、ホッとした様子で、子どもたちの手を放す。
馬が駆け出した付近に落とされていたズリュードは、強く打ち付けた腰に手を当てながら起き上がっていた。そして、こっちをギラリと睨み、怒気をはらんだ声で、どなりつけてくる。
「おい、お前。俺の馬に剣をふるうなんて、無礼だろう!」
「暴れ馬になってしまったので、仕方なく、、、」
「いや、お前のせいだ。お前のせいで馬が暴れだし、俺は振り落とされた。そのうえで、俺の馬に傷をつけやがった」
それはいちゃもんだ。勝手に馬から落ちたんじゃないか。
サウロウとリンネも、加勢してくれるのだが、、、
「ズリュード様、石が馬の眉間に当たるのを見ました。暴れ馬になったのは、そのせいかと」
「サウロウの言うとおり。暴れ馬のせい」
「いやいや、お前のせいだ。俺がお前のせいだと言っているんだから、間違いない。この場で、このズリュード様が裁いてくれよう」
まずい。自分のみっともなさを、俺のせいにしようとしている。ジリジリと、少しずつ後退するものの、どう振舞えばいいのか、思いつかない。
そこへ、前の方から馬に乗った大街主様が駆け寄ってきた。
「ズリュード、何をやっている。ここはセイダンの街だ。一旦、引け」
「いや、父上。こやつが私の馬を、、、」
「うるさい! お前はどこでも問題を起こす! ワシの命令に従え!」
さすがのズリュードも父親に、こうまで言われれば、従うしかないようだ。倒れていた馬は他のものに任せ、別な馬に乗って、この場を去っていく。
そして大街主様は俺に向かって、こう言い放つ。
「後で広場に来い。お前の申し開きを聞こう。命まで奪うつもりはないが、もし広場に来ないときは、それ相応の覚悟をしておけ。いいな」
それはないよ、、、