4.食堂じゅうはち(2)
この世界に現れるまでの記憶がないのは「ひと」に共通のことらしい。まぁ、記憶がないから、この世界の前の世界があるのかどうかは分からないけど、漠然と、生きてきたような気はしている。
何もわからない状態だった自分だったけど、こちらの「人」達は慣れているようで、街で空いている部屋を一つ貸してくれた。そして、同じような「ひと」を紹介してもらい、ここで生きる術を身につけることになる。
まぁ、いろんな手伝いをしてお金をもらうんだけどね。一人でやれる手伝いもあるけど、街の外に出るときには複数の方が良いから、「チーム」を組むことが多い。仕事をこなしながら、ポイント的なものをかせいで、自分のスキルをあげていくのが、ここでの「ひと」のありようらしい。
この店は、仕事が終わった後なんかによる、お気に入りの場所。一人、脇の方で静かにしていれば邪魔されないし、常連の人といろいろ話したり賑やかに時間を過ごすのも悪くない。
亀爺の僻んだ会話も嫌いじゃないけれど、ルキの出してくれるお茶を飲みながら、彼女と何気ない会話をするのも楽しい。
なんて、お茶を飲みながら、ぼんやりしていると、亀爺が奥から料理を持ってくるところだった。
「シオ、今日は早いじゃないか。肉を煮込もうかと思っていたけど、時間がかかってしまうから、おまえの分だけ、サッと焼いてきたよ。特別料理だから、倍、料金をもらわなくっちゃな」
「いやいや、亀爺。勘弁してよ。とても美味しそうだけど、倍はふんだくりすぎじゃないか。良心的なお店でやっているんだろう」
「ふふっ。お父さんも、シオさんのこと、いじらないの。困っているでしょう」
「はははっ! ルキがそういうなら、いつもどおり、安くて美味しい料理としよう。ただ、その代わり、一つ、シオにお願いがあるんだ。まだ、早い時間だから、料理を食べ終わったら、用事をお願いできないだろうか」
「もちろん、構わないよ。亀爺のお願いなら。これ、10回分の食事がタダになるのかな」
「ばかもーーーん」
と、いつものように馬鹿話をする。今日の亀爺の依頼は、街の外に葉っぱを取りに行くルキの手伝いをしてほしいというもの。以前に比べると、少し街の外も物騒になってきているようで、一人だけで行かせるのは、ちょっと心配のようだ。
食事はタダにはしてもらえなかったが、後で積みたてのお茶を入れてくれるというので、請け負うことにした。
◇◇◆◇◇◇◇
シオと二人で出かけるなんて、ちょっと緊張する。街から、ほんの少し出るだけだから、自分だけでも葉っぱは取りに行けるんだけど。まったく、お父さんたら。
シオは、葉っぱの見分けができない。周りに注意してもらいつつ、私はいろんな種類の葉っぱを収穫することにする。何だか、シオと一緒にいるのが。嬉しくて、いつもより張り切って葉っぱを探していた。
シオがいる安心感から、意外と奥の方まで来てしまったかもしれない。この先に見える斜面だけ確認したら戻ることにしよう。少し日当たりが悪そうな斜面では、ちょっと珍しい葉っぱを見つけられることもある。
斜面を覗こうとしたとき、後ろからシオが抱きしめる。
えっ、ちょっと。シオの細いけれども、筋肉がついていることがわかる腕が、私の体を支えている。
えっ。シオの体を背中に感じる。かぁーっと、顔が熱くなってくるのが自分でも判る。嬉しいような、でも、こんなの困る。こまる、、、
「ルキッ、ルキッ。斜面の下にはチーム〈コンネズ〉がいる。自分たちは邪魔しちゃいけない」
「えっ!」
斜面のキツクなる手前で、私とシオは地面に身体をよせる。これで、下からの視界には入りにくくなったはず。あー、シオとこんなに近くにいるなんて。ちょっと恥ずかしいけど、ちょっと嬉しい。
◆◇◇◇◇◇◇
今、斜面の下には、チーム〈コンネズ〉がいた。この街で、いや、このあたりで一番の強さを誇るチームだ。
前衛の二人は、大きな太刀を持った赤毛の男と、がっしりとした体つきの男。
その後ろに、女性の剣士、リンネ。彼女の剣裁きは、次元が違う。彼女が繰り出す一太刀一太刀は、スピードがあり、キレ鋭い。そもそも手足が長いのでリーチもある。絶対的なパワーがある訳ではないが、しっかりと相手にダメージを与えることができる。
その斜め後ろに2名。中肉中背の男と、小柄な女が控えている。
一番後ろにいるのが、リーダーのタチワナ。長身でスラリとした体つきながら、しっかりと筋肉がついているのが分かる。冷静沈着で、このチームを束ねている。頭の回転が速いらしいが、戦っても強いというのが凄い。青い小物を身につけているのが拘り、と聞いたことがある。
そして、彼らの前には、ヒョウトが3体いた。