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2.我がスキル

 俺の名前はシオ。今朝は、設定したはずの目覚ましカラクリが鳴らずに、危うく待合せ時間に遅れるところだった。身支度もそこそこに、走って待合せの場所に向かう。セイダンの街から少し離れた待合せ場所。今の「チーム」との待合せは,いつもここだった。時間には間に合ったものの,仲間は姿を見せていない。向こうの川面を眺めながら,ぼんやりと待つ。

 

 やがて、チームのリーダーだったサササキがやってくる。だが、彼の顔はこの場所に本当は来たくなかった、でも来なければならなかった、という今の状況を如実に表していた。

 サササキは、俺にチームから抜けてほしい、と申し訳なさそうに話す。チームは一応、みんなの意思で組んでいるものなので、基本的には一方的に抜けさせることはできない。お互いにチームを組むルールを定め、そのもとで協力し合う。

 俺は多少、状況が状況なので、業務歴への記載はされないことで了解し、チームに入っている。その分、給金の割合には考慮してもらっているが。

 ただ、チームからの離脱やお互いの生命救助活動など、基本的かつ不可欠なルールに対しては、個別に決めることができず、この世界(この地域)で決められている。

 今回のように、抜けてほしい場合はその相手に,まぁ今回であれば俺に対して,離脱してもらうために、臨時の給金などを渡して、了解をもらう必要がある。


「いや、お前は凄いよ。俺たちも、お前のおかげで、ここまで業務歴に刻んでくることもできたし、たくさんの報酬を得ることができた。ホント、お前のおかげだよ」

 サササキは、少し早口で話す。


「でもさ、街の外に出ると、基本、息が抜けない訳じゃない。何があるかわからない、っていうのは、緊張するんだよ。もちろん、お前のことを知ったうえで、俺たちのチームに誘ったんだけど、お前は俺たちの想像以上だったんだ」


「申し訳ないと思うよ。お前を誘ったときは、別にこんなタイミングで抜けてもらうなんて考えていなかったんだよ。ただ、そろそろ、自分たちのペースに戻りたいなって、そういう話になって」


「すまないけど、今のチームは俺たちだけでやっていきたいっていうのが、みんなの総意なんだ。これ、お前のおかげで得た報酬に比べると、少ないかもしれないけど、、、」

 俺の眼をキチンと見ることなく、サササキは、袋に入ったお金を押し付ける。そして、俺が何と言ったかも確認せず、去っていった。


 別に、これが初めてな訳ではない。でも、2回目だから、3回目だからといって、傷つかない訳じゃない。俺なりに剣の鍛錬だって2倍、3倍、頑張っているつもりだ。(ちょっとぎこちないかもしれないけど)気難しくない、そこそこ明るいキャラづくりをしているつもりだ。

 もちろん、自分でも判っている。こんな、つもりつもりで解決することなんかない。他の人が持っていることなんて聞いたことがない、自分のスキル。そう、自分のユニークスキル「悪運」のせいだ、と。


 あーあ,そんなことを言っているうちに,動物の糞を踏んづけちゃった,,,


--------------------


 今回のチームは,3週間一緒に仕事をしていた。最初のうちは、ヒョウトを探しに行かなくても、陣形を整え、待っていると向こうからやってきてくれるので、楽ができると喜んでくれていた。自分の「悪運」スキルで、ヒョウトが寄ってきてくれるのだ。手っ取り早く稼ぎたい、業務歴のランクを上げたい、って思うからこそ、自分に声をかけてきたというのはある。

 だが、無事、ヒョウトを倒し、意気揚々と帰る道すがらに出てきたヒョウトは余計だったらしい。予想していなかったヒョウトの出現に、今回のチームはバラバラになった。体勢を立て直す余裕もなく、みんなが逃げようとする中、一人逃げ遅れたメンバーがいた。足に力が入らず、ただただ、近づいてくるヒョウトを前に祈るだけ。俺の前から消えますように。

 彼に一番近かったリーダーのサササキでさえ、助けようとはしなかった。まさに彼を襲おうとした瞬間、ヒョウトの視線と俺の視線がぶつかった。ヒョウトは、眼の前の男を襲うことなく、俺に向かってやってきた。まぁ、比較的離れていたから、俺はヒョウトから逃げ切ることは難しくはなかったが。

 そんなこともあり、ある程度,自分達の「武力」「盾力」などが上がれば,無理に俺と一緒にチームを組む必要もなくなる。きっと、あの後、他のメンバーの間で話し合ったんだろう。


 だが、こういう話しだったら、できれば事前に言ってくれるとありがたい。この待ち合わせ場所だって,微妙に街の外。自分もそれなりに腕は上げているものの,一人では何があるか判らない。

 このあたりでは街の中にはヒョウトは現れないが,逆に言うと街の外ではヒョウトに出会う可能性がある。1~2体くらいなら何とかできる自信はあるものの,それも確実だとはいえない。自分の「悪運」スキルを目当てに声をかけてくるやつらと「チーム」を組んでも、やがて解散されると分かっていても一緒にやっているのは、街の外では何があるかわからないから。ましてや、自分の「悪運」スキルのことを考えると。


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 今朝の待合せ場所は,セイダンの街から10分ほど外に出たところ。街と街を繋ぐ大きな道からも5分ほど森に入っている。ほんの少し離れただけなのに,人一人いない。空を覆う木の枝で,少し薄暗いくらい。下はぬかるんではいないけれど,苔が所々に見られるため,ちょっと滑りやすい。ここは,周りからは死角になるように,岩と岩で挟まれた場所。普通なら,そんなに気をつけなければならない訳でもないんだけど,,,


 来るはずもない仲間を待っていた訳ではないが,自分の境遇をぼんやりと考えてしまう。記憶のない自分の生活。今の自分のスキルを持ったまま、この世界でやっていけるのだろうか、などなど。

 

 いや,思いのほか,ぼんやりしていたのか,時間がだいぶ経過したようだ。陽がだいぶ高い位置にまできていた。

 そろそろ街に戻らなきゃ,という思いがあったのはもちろんだが,ふと、何か違和感を感じた。匂いを嗅ぎつけたのか,ヒョウトの気配がする。背の低い樹木を揺らすカサカサッという音が右前方。そして,もっと小さい音が,さらにその奥からも聞こえていることから,2体はいるみたいだ。

 背中を見せて逃げるには,ヒョウトの足の速さを考えると、ちょっと微妙。というか、きっと足を滑らせて追いつかれるのは間違いないと見た。2体くらいなら,倒せないことはないし,倒したときに得る業務歴も自分のものになる。逃げることにリスクがあるなら,戦って状況を打開するのも一つの選択だ。よし,まだヒョウトも警戒しきっていない,今がチャンス。


「ポキッ!!」


 前に踏み出した一歩が,乾いた枝を踏んでしまった。こんなことをやっているから,「悪運」スキルがレベル上がっちゃうんだよな。握る刀に力が入る。

 でも,ヒョウトはこちらをチラリと見たものの,襲ってくる気配はない。そんなに気も立っていない状態だったのか,少し先を横切っていく。

 どうやら,今回は見逃してくれるようだ。というか,こちらは戦う気満々だったんだけどな。やっぱりチームから解散されるというのは良い思いはしない。ちょっとイライラもしていたから,剣を奮っても良いかなと思っていた。

 まぁ,チームからの離脱に伴う臨時の給金もあることだし,少し早いけど,セイダンの街に戻って,「食堂 じゅうはち」にでも寄っていこうか。


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