1.目覚め
不定期で更新予定です。時々、覗いてもらえると嬉しいです。
この世界で目覚めた時の最初の記憶。それは、「凜」が俺の顔を覗き込んでいるところ。でも、違う。それは「凛」ではなかった。見たことのない女の子だった。
赤みがかった短めの髪だったような気がする。でも、逆光気味で、よく分からなかった。俺が目を覚ましたことにビックリしていたのか、口に手を当てていた。柑橘系のような甘みのある匂いがした。
いつも通りに目覚めた感じだった。なのに、ここがどこなのか、何でここにいるのか、そして自分の名前や自分の家族・友人のことも、不思議なほど、何にも思い浮かばなかった。でも、ここが今まで自分がいた世界ではないことは、ぼんやり感じた。
爽やかな風が吹いているのを右頬が受ける。娘の後ろに見える木々の色、そして、その先に見える空の色も、この世ではないくらいに鮮やかに輝いていた。
考えがまとまらない中、声を出してみる。
「あのー」
そう言ったつもりだが、喉の奥で声が留まって、音にならない。声が出ない訳ではないけど、今すぐは出ないのか。
そんな俺に対して、娘が話しかけてくる。
「わたしはちかく、、、なまえは、、、あなたはここで、、、」
娘が言っていることが聞こえない訳ではないけれど、意識がハッキリせず、全部が聞き取れない。でも、俺のことを心配してくれている感が伝わってきた。なんだか頭の中がまとまらないので、俺は目を閉じてみた。
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この世界では、時々、「ひと」が生まれてくる。赤ちゃんとして生まれてくる「人」ではなく、何の前触れもなく現れる人のことを「ひと」、という。
街の袋小路の行き止まりで見つかることもあれば、物を運ぶ荷台の中で見つかることもある。俺の場合は、街を出てすぐのところにある、森の手前、小ぶりな木の下に横たわっていた。
見つけられた「ひと」は、一とおりの生きるための知識は持っているものの、目を覚ます前のことは覚えていない。かくゆう俺も、真っ白な状態だった。
目を覚ました「ひと」の多くは、街の住民の補助的な仕事をして暮らしている。同じような境遇の「ひと」でグループを作り、街と街を行き交う荷物運びや、盗賊や獣を討伐する仕事をすることもある。というのは、「ひと」は何らかの能力を持っていることが多い。剣を扱うことに長けているもの、並外れた腕力を持つもの、聴力・視力に優れたもの。その人の個性が、能力として突出して現れるのが「ひと」の特徴らしい。
また、この世界では、大きく、街の中で働く街杜人と、街の外で働く守人に分けられる。
街杜人は、文字とおり、街の中で食べ物を作ったり、いろんな商品を売り買いしたり、日常の生活に不可欠な仕事をしている。多少、街の外に出ることがあったとしても、街から大きく離れることはない。街の外には、「人」を襲う様々な生き物がいるから。
守人は、街の外で仕事をすることが多い。他の街へ商品を運ぶ人たちもいれば、それを護衛したり、街の外に出没するヒョウトを狩る人たちもいる。特に最近は、このヒョウトが盛んに出没するようで、以前より手間賃は弾んでいるらしい。自分たち「ひと」は、この守人の手伝い、というか今やメインとなって働いている。
街杜人と守人は仲が悪い訳ではなく、それぞれ相手のことを尊重しつつ、自分たちの仕事をしているといった感じ。
守人は、どんな仕事をこなしていったかによって、評価が上がっていく。Cランクの護衛を無事済ませられれば、その給金をもらうのはもちろんのこと、自分の業務歴となって、より高ランクの仕事がまわってくることになる。
一回一回こなしていった仕事を業務歴として登録して、その守人の評価になる。チームで仕事をする場合は、みんなでその評価を分けることもあれば、リーダー格の守人が半分の評価を取り残りを分ける、あるいは大きな役割を果たしたものが全部取り、なんてこともある。
ここら辺は、それぞれのチームごとに自由に決められる。グループとして登録するときに、その方針として示すものの、実際はチームのリーダーだったり、雰囲気だったりで決められる。
ちなみに、街の中は危険を感じることはないが、街の外になると、それなりの危険がある。特に最近、「ヒョウト」と呼ばれる生き物に代表されるように、危険が増していると言われている。
ヒョウトとは,2メートル程度の2本足で歩く生き物。肩は盛り上がり、顎のあたりまできている。ボロ切れのような布を纏う。性別があるのか、見た目では区別できない。主に鉄でできた刀のようなもので襲いかかってくるが、素手でも充分力が強く、皮膚も硬いため、こちらの剣が通りにくい時もある。あまり高度な知性はないようだ。大きな群れをなす訳ではないが,2~3体で動くことが多い。
ヒョウトよりも知性が高く,より強いといわれるカミヒョウトは,あまりこのあたりには出没しない。自分も数回、出会ったことがあるだけだし、その時も、まともに闘った訳ではない。
また,4本足の獣,ヒョウジュウにも気をつけなければならない。ヒョウト以上に獣の要素が強く,スピードもある。道具は使わないものの,何体かが群れになると,なかなか撃退するのは大変だったりする。飛び掛かってくるのをさけつつ闘うことになるのだが、鋭い牙と爪に気を付ける必要がある。走って逃げるというのも、基本的には難しい。
まぁ、街の外には危険がいっぱいなので、守人も仕事に困らない訳だ。
話が進むにつれて、整合性をとるために、修正を入れることがあります。今は、これまでの話に手入れをしてるところです。