第97話 英雄モドキ
ジョルジュの剣は、青い光を放ち迫ってきた。
嫌な予感があり、身構えて剣を受け止める。
ブー!
警告音が鳴り響いた。
猪のような突撃を繰り返すジョルジュをいなしながら内容を確認する。
ソウルスティール
聞いてこともないデバフだ。
命を奪う、的な能力を剣が持っているらしい。
えげつない武器を手に入れたんだなと少し感心する。
「死ね! お前は死ね! お前は争いの意思を産む!」
だが問題はない。
司のチート能力はあらゆるデバフを受け付けない。
純粋な剣と剣とのぶつかり合いだ。
ほぅ。
前に剣を合わせた時に比べ、ちゃんとしている。
超人のみに許される、相手の動きを見て行動するという戦い方もできている。
「ここからいなくなれ!」
迷いのない、踏み切り方だ。好感が持てる。
だからこそ、ちょっとしたフェイントにもあっけなく引っ掛かってくれる。
腕を切り落とす斬撃を、ちゃんと見て避けた。
素晴らしい、君は疑いようもなく剣士だ。
ようこそルーキー、古参兵は君を快く迎えよう。
戦い方を変える。
派手な一撃で決着をつけるような攻撃ではなく、皮を軽く切るだけの攻撃を続けた。
「くっ!」
小さな傷は、集中を乱し致命的なミスを引き起こす。
猪を受け流しながら、体を切り刻んでいた。
「どうして彼女を巻き込んだ! 彼女は戦う人じゃなかった!」
司は、剣を叩きつける。
ジョルジュは受け止めるも、体中から血が噴き出る。
「フィーアに、何があった」
つばせりあいをしながら、司は尋ねた。
力でジョルジュを押し込む。
「お前がっ! 彼女を巻き込んだからっ!」
「・・・」
膝をついてしまうジョルジュを、司は剣を払い横に倒す。
司は少年を串刺しにしようとするが、ジョルジュは転がりながら逃げる。
「フィーアは、唯一、巻き込まなかった子だ!」
司は怒りのまま剣を落とす。
ジョルジュはどうにか身をかがめたまま受け止める。
だが、司はその上から何度も剣を振り下ろす!
「彼女は唯一自由を選んだ! どれだけっ! 彼女に期待していたかわかるのか!」
司は肩で息をしながら剣を止める。
「・・・ふざけるなよ、貴様。愛する人を救えなかったからとふさぎ込むならわかるが、苛立ちを僕に向けているのか?」
ジョルジュは活力が戻ったように立ち上がり剣を向けてくるが、司は軽々と受け止める。
「フィーアには自由でいてほしかった」
彼らは戦いのために作られた。
だからこそ、自由に生きてほしかった。
「君たちが恋人同士となったとは聞いていたが、それだけだ。僕は何もしなかった。どこでどのような死に方をするのかさえ知らない。だが・・・」
司はジョルジュの腹を蹴飛ばした。
全身鎧を着た司の蹴りは岩も余裕で砕く威力を持っているが、少年は地面を転がることなく踏みとどまった。
「その怒りを見るに、無残なものだったようだ!」
フェイントを見せ肩に一撃入れるために剣を振るった。
だが、その剣は受け止められた。
鋭い、回転するクリスタルの剣が司の頬を切る。
「お前は大人だろ! 何でもできるんだろ! どうしてその力を使わない!」
こいつ、戦いの中で成長している!
司は間髪入れず力を込めて剣を叩きこむが、少年は揺らぐことなく剣を受け止めた。
気合で負けてはならぬと分かったのだろう、奇声を上げながら剣を振るって来た。
「できないんだよ!!!」
司は吐き出す様に叫んだ。
「チート能力でも! スーパーヒーローでも! 大人でも! どんなに汚らしい手を使おうとも! 神でも仏でもなっ!」
剣の速さ、剣の重さ、瞬く間に増していく。
司の剣は押さえつけられ、ジョルジュの拳が頬を殴りつけた。
「救えないんだよ」
司の唇から血が流れ、それを拭う。
閃光のような剣技が司を襲う。
力、能力、すべてジョルジュが上回ったようだ。
しかし、経験不足はいかに急成長しようとも上回ることはできない。
そもそも、司は実力が上の相手と戦うことが誰よりも得意だった。
わずかな隙間に剣を入れ込み、ジョルジュの首を切り落とそうとした。
未来予測ぐらいしてくれなければ避けられないであろう剣筋を、ジョルジュは身を引くことで避けて見せた。
「目と耳を塞いでおきながら、口だけは開く」
ジョルジュの剣は空を切り始める。
司の剣もまた空を切るが、その一撃一撃が、一撃必殺だ。
「ジョルジュ、君の剣には何もない。悪を捌くための怒りも、守れなかった悲しみも、失った絶望も何もない。ただ火の光に飛び込む虫けらだ」
経験の差、彼の剣に焦りが出てきた。
どうした少年。
僕はこのまま半年間戦ってもいいんだよ?
「好き好んで人殺しをしている奴が!」
更にスピードを増していく。
背には炎のようなオーラが見えてくるかのようだ。
「お前はただ、僕から剣を抜かせただけだ」
もはや、人知を超える動きだ。
魔王グランドールを上回るプレッシャーだ。
それでも、司は冷たく受け流している。
「もういい! うるさい! お前は悪だ! 切り殺されろ!」
突如、体が動かなくなった。
チート能力はデバフ判定をしない。
体に白い何かが巻き付いている。
それは無数の手だと気が付いたとき・・・
クリスタルの剣が司を貫いた。




