表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/119

第85話 武神 後


 突如始まった大将同士の一騎打ち。

 互いの兵たちは間に入り、止めるべきなのはわかっていた。


 だが、その異次元の戦いに足を踏み入れることができなかったのだ。


 互いに死闘となり、どちらかが命を落としかねない戦いであった。

 だが、それでいてなお足を踏み入れられない。


 誰も教えてくれなかったじゃないか!

 左胸にナイフを刺されながらも戦う方法など!

 疲労により立ち上がることすらできず、顎を砕かれながらも膝たちになりながら戦う方法など!


 彼らの知る死闘というのは、互いにヘロヘロになって、足をガクガクさせながら、剣が持ち上がらず、相手を押したり剣の腹で脛当たり弱々しい体当たりをしたりするような、目も覆いたくなるような泥仕合のことだ。


 ドリュウの傷は深いのだろう、半身が流れる血で赤く染まっていた。

 ツヴァイはすでに剣を地面に刺し寄りかからなければ膝立ちすらできない状態だ。


 それなのに、ドリュウは人間が振るうには大きすぎる槍を片手で軽々と振るっており、

 ツヴァイは地面を這いならもつむじ風のように剣を振り回していた。


 どう止めればいいのか、

 そもそも止めてもいいのか、

 互いの騎兵たちはあらゆる地獄のような戦場を共にかけてきた戦士である。それにも関わらず、二の足を踏むほどに大将同士の戦いは苛烈な戦いであった。


 ドリュウは突如、ドスンと腰を落とした。

 血を流しすぎたのだ。

 無論、血を流しすぎたのなら血を流しすぎた構えをすればいい。

 ツヴァイと同じく、近寄るならばつむじ風のことき一撃を加えるためだ。


 しかし・・・


 ドリュウは無念と思う。

 彼のものは何と素晴らしき才能、英雄であろうかと。

 もはやどちらも戦える状況ではない。

 願わくば、このまま手打ちとすることはできないものかと。


 だが、前方では未だに何万という人間たちが殺し合いをしているのだ。互いに軍を率いる大将同士、そういうわけにも行かない。


 これも定め!


 再び剣を交えんと力を込めた時であった。

 ドリュウの伝令が迫ってきた。


 愚か者め!!


 わずかな隙を見せればツヴァイが不思議な技で迫ってくるかもしれない!

 愚かなこの伝令を切り捨ててしまおうかと思ったが、踏みとどまる。


 ツヴァイは頷き、何もしないと言うように意志を示したのだ。

 なんと高潔なことか・・・

 これで伝令を切り捨てたのならば、この高潔なる戦士の好意に泥を塗ることとなる。それだけは許されない。


 そして、その伝令も目を血走りながら死を覚悟しながらもこちらに迫ってきた。

 ならばこちらも高潔でなくてはならない。

 寛容に死闘の邪魔を許さねばならぬだろう。


 伝令はいつ殺されてもいいように、内容だけを素早く伝えてきた。


「むむむ・・・・」


 その伝令の、意味不明な話に改め聞き返しそうになる。

 だがそのような無駄はせず、考え込む。


「ツヴァイ殿! 躯の大群がこちらへと向かっている! 心当たりはあるか!!」


 そう、伝令はこうであった。

 歩く死骸の大群が、こちらに向かっている。

 一万二万などというかずではない。その数、1億! その中には女子供もあり、街の住民であることが考えられる、と。


「しゃん・・・」

 ツヴァイは砕けた顎に手を添え、再び声を上げる。

「しょんびぃー! とっ! りゅー!」

「キョンシーというのか・・・」


 なんと恐ろしきことか。

 ドリュウはあの魔族との戦いを思い出す。

 異様な戦いであった。


 巨人との戦い。

 通常の戦の概念をとっぱらい、戦う必要があった。


 そう、それはまるで、ツヴァイ軍と戦うにあたり同じ感覚を覚えた。


「尋ねる! お主たちの矛先は我らに向けられているのか! それとも後方に迫る躯に向けられているのか!!」


 顎に手を添えた男は、笑みを浮かべた。


「躯で! ある!!!」


 むしろ合点の行くことであった!!

 ドリュウは立ち上がり、腕を振るう!


「これは人の争いにあらず!!」


 この立ち向かいし敵、国を平定するための気合にあらず!

 彼らの見る先は、人類の生存をかけた戦いであると!


「軍を引かれよツヴァイ殿! 我が軍も引こう!!」


 ツヴァイも立ち会があろうとし、それも叶わず膝をつく。


「あいわがっだっ! 後退しよう!」


 自らの軍に号令を出すと、ドラが鳴り響く。

 後退の合図だ。

 ツヴァイの騎兵の数名は、両腕が翼になると飛んでいく。


 うむ、とドリュウは頷いた。

 若き英雄を切り捨てることなく終えたことは幸運であったと。


 愛馬がやってきて不満げに鼻を鳴らす。

そう怒るなと跨った。

「ツヴァイ殿! 次こそは決着を付けようぞ!」


 ツヴァイは両脇を部下に支えられ、顔を上げる。

「じょうだんじゃ、ない。二度と、ごめんだ」

 そう言い、意識を失った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ