表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/119

第84話 武神 中


 武神ドリュウと向き合い、ツヴァイは恐れず突き進む。


 戻ってきた赤毛の馬に再び跨ろうとするドリュウ、そうはさせじとツヴァイは攻めるしかなかったのだ。


 馬ごと飛ばされ、実力はドリュウが遥かに上であることは理解した。しかし、決定的に違うのは、その赤毛の巨大馬。あの馬にまたがるドリュウは、まさしく武神。そうなってしまえばどうしても勝つことなどできない。


 ドリュウはドンっと腰を据え、ツヴァイの剣を軽々と受け止める。

 そして流れるような動きで切り返してくる。


 ツヴァイはフェイントを混ぜつつ、腕や足にでも傷をつけようと剣を振るうも、丁寧に受け流されてしまう。


 これが歴戦の雄か。


 ツヴァイと違い、戦場の中を生き抜いてきた我流の技。

 無駄が削ぎ落された必要な動きであった。


「!」

 骨を断つ勢いをやめ、早さ重視の肉を切る一撃に変えた途端だった。

 ドリュウは重たげな前蹴りを繰り出した。

 ツヴァイの腹を蹴り距離を開けさせると、当然のように巨大な槍が振り下ろされる。


 強烈な一撃に息ができなくなり、体が痙攣してその場に倒れそうになった。だが、のんびり横になれば未来永劫目を覚まさなくなる。

 全然ダメージなど負っていない!

 そう自分を騙し、槍を受け止める。


 再び自分が空を飛んでいることに気が付いた。

 地面を叩く槍の衝撃で、自分が飛ばされたのだと瞬時に理解した。そして、空中で体勢を整えて地面に着地する。

 やはりすぐさま追撃が来た。


 力だけではない、その一撃一撃が必殺の攻撃。

 再び自分を誤魔化しながら一撃を何とか受け流す。


 ツヴァイはやっと息を吐けた瞬間だった、地面に這いつくばっていた。

 不幸中の幸いというべきか、空を飛ばされたおかげで距離が開いたおかげで追撃が来なかったのだ。


 ドリュウは距離が開いた途端、さも当然のように赤毛の馬を呼び寄せようとする。

 ツヴァイは泣きそうになりながら、ドリュウへと向かい切りかかるしかなかった。


「速く! 強く!」


 技で切り裂ける相手ではない!

 その大木を一刀ごとに切り捨てるごとき強く!

 閃光のように速く!


 さしもドリュウも、吠えながらツヴァイの攻撃に受けて立つ。

 しばらく力と力の衝突が繰り広げられる。


 そのような流れができた瞬間に、ツヴァイは動いた。


 正真正銘、全身全霊。

乾坤一擲、腰に差していたナイフを左手で引き抜きドリュウへと突き出す。

 ナイフは鎧を貫通し、肋骨の間をすり抜け、心臓へと突き進む。


「浅い!」


 ドリュウの左手が最後の一押し前に腕を払った。


「ぐぬぅう!!!」

 ドリュウは胸を押さえながら後退する。


 追撃チャンス。

 ここを逃したら・・・


 ツヴァイは無意識のまま、地面に倒れていた。

 意識が凄まじい勢いで飛びそうになるのを慌てて引き留める。


 渾身の一撃を放った後はどうなるか?

 全身の体が弾けてバラバラになりそうなほどの激痛が走り、ぐっと抑え込まなければ嘔吐しそうになり、何より今にも意識を失いそうになる。


「なるほど、勉強になったな!」


 どうにか膝立ちになり、剣を握る。


「天晴な男よ!」

 ドリュウはそう叫ぶと、右手槍を掴み、左胸を庇いながら半身となり身構えた。

 ツヴァイはその構えに唸ってしまった。


 傷などないように振舞い襲い掛かってくる猪武者ならば、どれだけよかったか。

 攻撃を避け続ければ、出血で勝手に倒れただろう。


 だが、残念だが、本当に心から残念だが、武神ドリュウは怪我を庇い身構えた。


 シンプルな答えだ。

 腕がない者が、腕があるかのように戦えば負ける。

 目が見えない者が、目が見えない戦い方をすれば勝てる。

 それだけだ。


 ドリュウは怪我をした。

 ならば、怪我をした戦い方をすればいい。

 シンプルだが、存外難しい。


 猪武者ならば痛みなどないと、怪我を無視する。

 技を持つ者は痛みに弱く、腰が引けてしまう。


「武神ドリュウ! 恐ろしき男よ!」


 ツヴァイはもはや自分の意思通りに動いてくれない体を瞬時に理解し、膝立ちのままドリュウへと向かっていく。


 渾身の一撃を放ち体が言うことを聞かないならば、聞かない戦い方というものがある。


「ぬぅ!」


 膝立ちでありながら、まるで走っているかのような速さで距離を詰めるツヴァイにドリュウは度肝を抜かれた。


 片手になり威力は下がるが、速さの増した槍がツヴァイを襲う。

 しかしツヴァイの動きは素早く、ドリュウの槍先を惑わせた。

 そして、折りたたまれていた両足を一気に伸ばし、ドリュウの胸元へと飛び込む!


 しかし急速にスピードを増すのはこれで二度目。


 ドリュウは腰を曲げ、手首を曲げ、腕を曲げ、体を捻り、槍を回す。

 石突きが軽々とツヴァイの顎を砕く。


 意識がぐらつきながらも、敵の前に踏み込む。

「安地は正面!!」

 剣でさえ振るうことができない距離まで迫ると、再びナイフを引き抜く。


「ふんっ!」

 敵を内に入れてしまい、すでに剣を引き抜いたところで振るう事すらできない距離。ドリュウが取った行動は、ツヴァイが取った行動と奇しくも同じであった。

 一歩踏み込む。

 鎧でツヴァイを押し戻す。


 思いもよらない攻撃だったのだろう、ツヴァイは足を絡ませながら尻もちをついてしまう。

 ドリュウはすかさず追撃をしようとするが、胴体に負担をかけすぎたために追撃が甘くなりツヴァイを逃してしまう。


 二人は睨みあいながら、なんと面倒な敵なのかと評した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ