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第81話 摩擦


 ツヴァイは斥候の話を聞き、深く、長く唸った。


 次の相手はセイ国の武神ドリュウ。

 敵の数は驚くことに先の戦い、アルフレドと同じぐらいだと言う。

 しかもすべてがセイ国の精鋭たちであり、周囲には何もない平地でどんっと待ち構えている。


「あのドリュウか、うーむ、うむ。うううむ・・・」


 簡易テントには部隊長が集まり、今後の方針を話し合っていた。

 ツヴァイのほかに、


 元ペガサス騎士団、ドラゴン騎士団の団員をまとめる、ペインス。

 精霊騎士団、ジョブ・ロイズ。

 聖騎士団、エディス。

 警察、ムッラ。

 獣人軍、ブラッドハウンド。


 貴族混成軍、スラード・マイマイド。

 エルフの新たな指揮官、エメラルドレイク。


 彼らは一様にドリュウと言う名を聞き、顔をしかめている。


 あの国はとにかくコロコロ政権が変わる。

 長くて百年程度、短くて数十年。

 政権をとってもすぐに内戦内戦、また内戦。

 肥沃な土地なので時折侵略されたりもするのだが、国民性なのだろう、すぐに内戦になってしまう。いくら肥沃な土地と言えど、これほどまでに内戦が多いと手に余ると手放されるような場所だ。


 現在はセイ国。

 3人の義弟が、義を掲げ建国した。

やはり内戦から名を上げた、義勇の国家、と言うことになっている。

 もちろん、こちらからすると義も正義も信じてはいない。


 しかし、ドリュウの名を知らしめたのは魔族進行大戦でのことだ。


 魔族一人相手に、普通ならば兵士5人は必要になる。

 だがドリュウは一人で次々と魔族を討ち取っていく武勇を見せた。

 諸侯多くの英雄がまみえた戦いで、ドリュウは圧倒的な存在感を見せたのだ。


「彼の戦はすごくシンプル、ただ正面からぶつかってくる」

 ペインスは口ヒゲ捻りながら呟く。

 それはつまり、空を飛んで敵の陣形を見る卑怯な作戦が通用しないということだ。

 雷光のアルフレドに対し一方的な勝利を得られたのは、その卑怯な方法のおかげだった。


「おかげで、案外と勝率は高くないらしいが・・・それは、奇襲、奇策、火計に水計などからめ手を使っての話。正面切っての戦いは負け知らずと聞きます」

 武人らしく生真面目な口調で、スラードは答えた。

 精密な地図がテーブルに置かれているのだが、ドリュウが陣取る場所は、奇襲も何もないまっ平らな場所だ。


「武神ドリュウの武勇は身近で見たことがある。それは尋常ならざるものでありました」

 魔族進行大戦に参加したムッラはその時のことを思い出し、身を震わせる。


「だが、戦争は一人でするものではないでしょう」

 エディスは金色のあごひげを触りながら呟く。

「我ら聖騎士団はセイ国の精鋭であろうと負けるつもりはありません」

 集まった者たちは無言でうなずく。

 当然だ、あちらも精鋭なら、こちらも精鋭なのだ。

 こちらにもプライドと言うものがある。


「うううむ、うむぅ」


 ツヴァイは唸りながら、改めて考えこむ。

 そこに、後ろに控えていた黒衣の軍師耳元で何かしら囁いた。

 すると彼はなるほど頷き、改めて唸る。


「一案として聞いて欲しい。後退し、そこで陣を張り一冬明かしてみてはどうだ」


 それを聞き、みなが唸る。


 悪くない選択ではある。

 この地の冬はそれほど厳しくはない。こちらも精鋭部隊、冬を越すぐらいで文句を言うような兵も多くはない。それに加え、普通ではありえないほどの資源、物資の用意もある。


「それまでに侵略者たちを追い払い、皇帝の兵がこちらに来ていただければ勝ちは揺るがないだろう」

 エディスは感心したようにつぶやいた。


 ややこしい状況を簡単に説明すると、

 ステロ卿が、クーデターを起こそうとしたペガサス騎士団の団長を保護しているので、討伐隊としてツカサ卿が軍を差し向けている状況だ。

 その隙をつき、周辺国が帝国に攻め込むはずだ。

 それを、皇帝のユリオス率いる軍が鎮圧する予定になっている。


 そう、予定だ。

 すべてこうなることなどわかっていた。

 ステロ卿が隣国と通じており反旗を翻すことも、周辺国が覇権を目指す帝国に抵抗する最後のチャンスと、連合して攻め込んでくることも、皇帝ユリオスが華々しい勝利を得られることも計画されている。


 まず隣国が攻め込んでくることがわかっているのだから、待ち伏せの準備はすっかり整えてある。ユリオスが動く丁度そのタイミングで、相手の軍は壊滅するだろう。

 そして、偉大なる皇帝ユリオスの手により、敵を打ち破ったと後世に名を残すのだ。

 しかし、それは相手もわかっている。


 相手が真の目的は、ステロ卿の反旗である。

 ステロは長く戦いの準備をしており、軍備が整っている。それに便乗し、周辺国の切り札とも呼べる兵を援軍として送っている。

 リコン国、雷光アルフレド。

 セイ国、武神ドリュウ。

 この二人だけでも本気度が垣間見える。


 この戦いに負けるとすると、一気にマリグ帝国の首都までの通路が開通することになる。

 連合軍こそおとり、ステロ卿の戦いこそが本命の戦い。

 絶対に負けられない戦いに、彼らはある。故に、集められたのが精鋭部隊なのだ。


「負けられぬ戦い。勝たなくとも、負けぬ戦い方だな」

 スラードも気に入ったように頷いていた。

 だが、不満の声を上げる者もいた。


「気に入らねぇな、あ?」

 一見山賊の頭かと思うほどの汚らしい男だ。

 だらしなく太っており、酒を浴びる様に飲んでいるので顔はいつでも赤黒くなっている。

 ジョブ・ロイズは不機嫌さを隠そうともせず非難する。

「その真っ黒野郎の提案なのだろう」


 後ろに控えていた黒衣の人物が深々と頭を下げる。

 黒い服、黒い手袋、顔にはベールをかぶり一切の姿を見せない。


「正体を隠している者の言葉など信じるに値しないな、え?」


 その言葉を聞き、ツヴァイは頷いた。

「ならば、このまま進軍しドリュウと決着を付けよう」

 ツヴァイの言葉に、驚きそちらに顔を向ける。

「先ほども言ったが、あくまでも一案でしかない」


 ツヴァイは動じることなく地図を指さす。

「ドリュウの後方、ここの位置に陣を構えたい」

 平原で、石が多く転がっている場所だ。

 ここならば、立派な石の砦を作ることができるだろう。

「後方に下がるとなると、川があり森がある。川を関止めされ水計、砦を作るとなると木で作ることになるが、そうなると火計も恐ろしい。進むも下がるも好し悪しだ」


 黒衣の男も口を挟むつもりはないと言うように後ろに下がった。


「私は進むことには反対だ」

 エディスは厳しい口調で反論した。

「負けないまでも、セイ国と戦えば多くの被害は出るだろう。戦いはこの一戦で決まるわけではない。勝てたが、戦いを持続できなければ負けも同然」

「恥ずかしながらエディス殿と同意見だ。あなた方は名だたる騎士の集まりだ。だが我々貴族の有志の集まりである軍は無謀な突撃に耐えられる実力はない」

 スラードは表情も変えず自軍の弱さを訴えた。


「ならばこそ、なのですよ」

 ツヴァイは彼ら2人に訴えた。

「この位置に砦を作ることは非常に優位になる。後方に薪になる森があり、川が流れ水にも困らない。逆にこの地に陣を構え、ドリュウの攻撃に耐えられなかった場合、相当つらいこととなる」

 前線は相当下がることになる。

 雷光のアルフレドに勝利した地を手放すようなものだ。

「この地に砦を作ることができたのなら、この戦いに勝利したと言っても過言ではないだろう。多少の被害は目をつぶる」

「そう簡単につぶられても困るのですがな」

 ペインスは苦笑を浮かべる。


「冬にあちらも攻撃を仕掛けてくるとは思えない」

 とエディスが言えば、

「それはあちらの都合だ。戦争で相手の都合に合わせるなど愚の骨頂だ」

 とエメラルドレイクが返してきた。


 攻める派と守る派が別れここは紛糾することとなる。


「何より気に入らないのが、ジョブ、あなたは軍師殿が気に入らないという理由で、当てつけで反対したことだ。この個性豊かな軍において、不破を呼び込む行為には気を付けてもらいたい」


 エディスの言葉に言い返そうとするが、ジョブは口を閉ざし明後日の方向を眺める。


「各々思うところがあるようだが、このツヴァイは進軍を決定とする!」


 確かに各々思うところがあったが、みなその決定に頷いた。



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