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第80話 うすら寒い話


 ジョルジュはステロ伯爵に呼び戻され、旅を切り上げステロ領へと戻っていた。

 もともと彼は点々と居住場所を変える癖があるのだが、この度は国の奥、隣国に近い場所に彼らの屋敷はあった。


 身を隠す様に森の中に作られた巨大な屋敷。

 壁が赤煉瓦で作られ、周囲には護衛のためのゴロツキのような兵士たちがたむろしている。


「とても、あべこべね」

 傍らのフィーアが呟いた。

「身を隠したいなら屋敷は小さく、地味な色で、少数である方がいい。目立ちたいなら、町の近くである方がいい。彼らの真意はどこにあるのかしら」

 ジョルジュは彼女が愛おしくなり、そっとキスをした。


 門番と多少言い争いがあったが、ジョルジュは煉瓦の屋敷に入ることができた。

 ステロに快く向かい入れられ、広い部屋を当てがわれた。


 ふかふかのベッドに腰掛け、どことなく安堵していた。

 両親を失い、孤児の家族も失った。

 そのせいなのだろう、居心地はよくないのだが、ここが自分の居場所なんだと思わせてくれる。


 しかし、彼女はそうじゃなかったようだ。

「こんなところに居てはいけないわ」

 フィーアは何度もそう言って来た。

「あなたは羽。なににも縛られない自由の羽でしょ?」

「わかってるさ」

 立ち上がり背を向ける。


 そう、ステロたちを信じているわけじゃない。

 むしろ、唾棄すべき大人たちの典型的な姿だ。


「だけど必要なことなんだ。わかってくれ、フィーア」

 フィーアは納得していないようだが、それでも何も言わずにいてくれた。


 それから数日がたった。

 戦争が起きていることは知っている。

 だが、現状どうなっているのかまでは分からない。

 ステロも言葉を濁すばかりで状況は分からず、仕方がないので情報を得ようと質の高くない兵士たちから話を聞いていた時だった。


 屋敷内で戦いの音を耳にし、そちらに向かった。

 広い部屋で、3人の男が呆然と倒れている少女を見下ろしていた。


 ジョルジュの血の気が引いていく。


「フィーア!」


 抱き上げ、その冷たさ、その重さに息を詰まらせる。


「フィーアに何をしたんだ!」


 クリスタルの剣を引き抜き、ステロ伯爵に向けた。


 部屋にはステロ伯爵、コーマン、そして見知らぬ男がいた。


「ジョルジュ、話を聞いてくれ」


 ステロ伯爵は静かに話した。

 心配はないと言うように、一歩、前に出る。


「君にはつらいかもしれないが、彼女はツカサのスパイだった」

 まるで人形のようになってしまった彼女を強く抱きしめる。

「この部屋に入ってくると、急に襲い掛かったんだ。そう、彼女の正体を知っている人物がいたからね」

 ステロは視線で知らぬ男に目線を送った。


「わしの名はクラート・トド。魔術研究者じゃ」

 ぎらついた目をした、ひどく痩せた50代ぐらいの男だ。

 貧相な服を着ているが、威圧するかのような雰囲気は隠し切れない。


「そう、彼はツカサの命令で監禁され、不老不死の研究をさせられていたんだ」


 ステロは言葉足らずのクラートに代わり、話し始めた。


「前にも言った通り、ツカサは魔術を悪用し世界を支配しようとしている。そこから救い出した一人がクラートなんだ。そこで、彼は彼女を見た。そうだね?」


 クラートは面白くなさそうにステロを一瞥すると、ジョルジュに頷いた。


「そいつは人造人間、人間じゃない」


 侮蔑するような口調にジョルジュは怒りが湧き上がるが、それはジョルジュも気が付いていたことだ。

 人間ならば見えるはずのもやが見えない。

 彼女が人間ではない何かであることは気が付いていた。


「部署が違うから詳しくは知らん。だが、そいつは魔術によって作られた人間だ。その人造人間を大量に作り、兵隊にするつもりらしい」

「そう、自分が人造人間であることに気が付いた彼女は我々を襲って来た。彼女を止めるには、こうするしかなかったんだ。わかってくれ」


 彼女には殺された傷は見当たらなかった。

 だが、間違いなく死んでいる。

 呼吸も、心臓の鼓動も聞こえてこない。


「これがあの男、ツカサのやり方だ。君に取り入り、支配しようとしたのだ」


 ジョルジュは、無言でフィーアの遺骸を抱き上げ立ち上がる。


「彼女の亡骸はこちらで弔わせてもらおう」

「・・・お願いします」


 ジョルジュは剣を収め、部屋へと戻っていった。


「よくそんなでまかせをつらつらと」

 ジョルジュがしっかりと離れたのを確認し、クラートは口にした。

「なんのことだね、クラート。私は何一つ嘘など言っていない。そうだろ、コーマン」

「ええ、すべて真実です」

 クラートは顔をしかめる。

「うすら寒い連中だ」


 その様子を見ていた影は、身を震わせる。

「お父さん、人間ってのは本当に化け物だ。今言った嘘を、本気で真実だと思っている」

 影は連れていかれる気ままな兄弟を、静かに追って行った。






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