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第79話 愚の骨頂


 1


 アルフレド軍はわずかな生き残りを連れステロ卿の本拠地に向かっていた。

 戦いは大敗、囲むように壊滅を狙っていたというのに、囲まれ壊滅したという間抜けっぷりを晒してしまった。

 傷心のアルフレドの前に、一人の男が立ちふさがった。


「あれは、セイ国の軍。ドリュウか」

 スレニアはアルフレドの横に来て呟いた。

「第二陣ってわけか。思ったよりも兵が多いな」

「元より他国の連中なんざ信用してなかったのさ。そして敗北者には死をってやつだな」


 ドリュウの後方には多くのセイ国の精鋭が並んでいる。


 なけなしの軍を預けられ、信じられないほどの大敗をしてしまったのだ。

元よりステロ領に集められた兵たちはまとまりがなかったのだ、ここで制裁し残った軍をできるだけ吸収する腹積もりだろう。


「どうする、アルフレド」

「残念だが、ここまでだな」


 こちらの数は少なく、傷ついている。

 あちらは武神と恐れられているドリュウ。仲間を見捨て逃げ出したとしても、逃げ切ることはできないだろう。


 しかし予想に反し、ドリュウは一人でこちらにやってくる。

 巨大な赤い馬、それにふさわしい巨体の人物だ。

 手にする巨大な槍で魔族を次々と切り捨てた武神ドリュウその人であった。


「おおっ! 無事でござったか、アルフレド殿!」

 思いもよらぬ言葉にアルフレドは少し戸惑う。


「何か用か、ドリュウ殿!」

 こちらに近づかれる前に、警告するかのように声を上げる。

 こちらの意図を理解したのか、彼は距離を取って馬を止めた。

「このまま国へ帰りませい! ステロは愚かにもお主にすべての罪を背負わせ討ち取るつもりぞ!」


 アルフレドとスレニアは顔を見合わせる。

「そうか、ドリュウ殿はその忠告をしに来てくれたのか!」

「英雄アルフレドを失うなどあってはならぬことよ!」

 そういい、彼は勇ましい笑みを浮かべた。


「残念だが帰る国はない! 俺は独断でこの戦場へとやってきた! 国へと帰れば処罰されよう!」

 祖国を一言でいうならば、商人の国。

 帝国も結局は商売相手、適度に距離を取り商売すればいいぐらいにしか思っていなかったのだ。


 ドリュウはううむと唸ると、顔を上げる。

「ならば我が国へと来られせい! 兄者は快く迎えてくれよう!」


 これはこれで無念。

 だが、後方の付いてきている兵士たちからは安堵の声が漏れた。

 もはや安住の地などないと覚悟し戦い、それで敗れたのだ。兵たちの心労は限界だということがわかる。

 もはや仕方なし。


「その申し出、受けさせてもらう! されど好意に甘えるだけではこちらも信用ならん! 数は少ないが、共に戦わせてもらないか!」

「おおっ! 頼もしき言葉! 是非にとも!」


 右目に縛られていた布から血が流れ、顎から落ちていく。

 それを拭いながら歯を食いしばる。


「このままじゃすまさんさ」



 2


 勝利の宴は一晩だけ、慌ただしく兵たちは次の戦場に向かい移動を開始した。


 司も補給隊をまとめ移動の準備をしている時だった。

「ツカサ、少しいいかな」

「エディス。ああ、もちろん。忙しくて挨拶もできなかった」


 司は手を止め彼と力強い握手をした。


 聖騎士団団長エディス・マーテ。

 魔族進行大戦で共に戦った戦友だ。

 当時、魔族との戦いで聖騎士団の力を借りようとしたが、その時の聖騎士団長は政治家気質だったために戦いを拒んだ。

 そこで、司と聖女クリスティーナと共に若く才気あるエディスを騎士団長になってもらったのだ。


 かつては目もくらむような美青年だったのに、今は柔らかそうな金色のヒゲを蓄え、ガタイもかなりがっちりとしていた。

 お互い、すっかり年を取ってしまった。


「また共に戦えることを光栄に思うよ」

「それは僕のセリフさ。エディスが導く聖騎士団は最強だ、間違いなくね」


 どちらも忙しい身の上。

 次の戦場に向けて兵士たちは次の戦場に向けて進まなければいけない。

 補給隊は足が遅いので少しでも早く行動しなければいけない。

 だが、古い友人との会話は長引いてしまっていた。


「ツヴァイは堂々たる人物です。若く強く、行動力がある。さすが、人を見つけ出す能力は素晴らしいですね」


 司は頷きながらも苦笑する。


 周辺諸国を調べ、最低でも5人は司よりも優れた将であることがわかり、早々に自分の代わりができる人物を探したのだ。


「この大規模な補給隊にも意味があるのでしょう?」

「もちろん」


 たっぷりの食料、武器のストック。

 料理人、医者、僧侶。

 吟遊詩人に画家、学者に魔術師。

 アイドル達に、人間になる薬を飲ませた多くの人魚。

 思いつく限り連れてきた。


 そして鉄の車。


 大量の物資を運ぶためにトラック的なものをドワーフに依頼した。

 そして一か月後、届いたのがこの鉄の車だ。


 火と雷で動くそうで、どんな悪路でも進める履帯付き車は・・・砲台の付いていない戦車という姿をしている。


 赤髪、赤ひげのドワーフはしゃがれた声を弾ませていた。

「動力は魔法だ。魔法使っていいんじゃろ? 昔から魔法が使えたならこうしてやろう、ああしてやろうって考えとったんじゃ!」


 ドワーフの機密事項ですらあった最強の剣と鎧、それを得た時のコネで最高峰の技術者を紹介してもらっただが・・・


「設計の基礎は頭の中にあるんでな! ほっほっ! とんでもないモンスターを作り上げちゃうぞ!」


 ドワーフは魔法が使えない。

 魔法が使える種族、主にエルフとは仲が悪い。

 人間とは交流があったものの、魔族が使う力としてタブー視されていた。


 しかし未知のエネルギーは、彼からすると魅力的だったのだろう・・・


 こうして、モンスターが生まれてしまったわけだ。


 莫大な物資を運び、そして変形して合体すれば舞台にもなる。


 エディスは鉄の車を見て、目細める。

「戦場が変わりますな」

「変わらないよ。しばらくはね。これはあくまでも、この度の戦いに使うだけの兵器だ」


 なるほど、ふむ、なるほど・・・


 彼はひどく感心したように考え込む。


「つまり・・・この戦いは、魔族との戦いと同じ性質のもの、というわけか」

 司は友人に力なく微笑む。

「できれば、間抜けな伯爵さまと笑われたいんだ」


 この補給隊は物資が多いからこそ、移動が遅い。

 移動が遅いので本隊から遅れてしまう。

 そうなれば敵に狙われ、本隊は戦うこともなく撤退せざるえない。

 つまり、この補給隊は愚の骨頂、有りえないのだ。


 エディスは微笑む。

「いいですね、その方が後世愛されることでしょう」


 司はエディスとしばらく笑いあい、職務に戻れと注意され仕方なく仕事に戻ることにした。





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