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第78話 戦勝


 司は青ざめながら、クリスタルの中にいる友人に触れた。

「そんな、バカな・・・こんなバカなことがあるのか・・・」


 レッドウッドはクリスタルの中で眠っていた。

 喉には、大きな穴が開かれて。


「そんなバカな、君ほどの奴が、どうやって、そんな馬鹿な・・・」

 ひたいをクリスタルに押し付けた。


 背の高い男が司に近寄る。

「ごめん、お父さん。彼を救えなかった」


 そして、傷だらけのブラッドハウンドも前に出る。

「相手が・・・一枚上手だった」

 司は息を吐き、立ち上がって二人に笑いかける。


「なにを言っているんだブラッドハウンド、戦場で死ぬのは当然だ。そうだろ?」

 そして兵士の前で自慢の息子を紹介するように前を向く。

「リコンの英雄アルフレドと戦い完勝した!」


 戦いの傷をいやしていた戦士たちは戦いの興奮冷めやらぬまま野太い声で返してきた。


「不安だっただろう! 知らぬ将軍! 知らぬ男! だがどうだ! 英雄ツカサが連れてきた将軍は!」


 再び野太い声が上がった。


「リコンの英雄アルフレド! 地に落ちな!」


 その叫びに近い歓声が上がった!


「ツヴァイ! ツヴァイ!」


 ツヴァイ! ツヴァイ!

 ツヴァイの歓声が上がる中、司は息子の胸を叩く。

 彼は頷き、前に出る。


「言葉はいらぬ! 君たちには勝利を!」


 よく通る声で兵士たちに演説をし始める。

 背の高く若い青年ツヴァイ。

 黒い髪に灰色の瞳、鍛え抜かれた肉体に物憂げな瞳は同性であっても魅了してしまいそうなほどの美しさ。

 しかし戦場に立てば積極的に前に出て、体に矢を受けながらも戦い続けたそうだ。

 そして、その巧みな戦術で名を知れたリコンのアルフレドに対し、戦術で勝利したのだ。誰もが認める英雄となっただろう。


 司は近くのエルフに話しかける。

「クリスタルは目の届かないところに隠して、死骸は布をかぶせるんだ。人間の死骸は捨てられ、エルフは棺に入れられるのかと不満が出る」

「お言葉ですがサー。これは標本であり、供養された遺体よりもむごい仕打ちなのですよ」

「それでもだ、友人よ。真実なんてどうでもいい、彼らがどう思うかだ」


 エルフは頷き、クリスタルを片付けられる。


「魔王を倒し! 人類を救った英雄ツカサ! さぁ、こっちに来てくれ!」

 一通り戦った兵たちを賛美した後、司を呼び前へ出した。

「僕は魔王を倒した!」


 彼らは頷く。

「英雄と呼ばれた! だが君たちはどうだ! 国を守るため、故郷を守るため! 家族を守るために戦った! 真の英雄とは誰だ! そうだ! 君たちだ! そんな英雄たちに最高のもてなしが必要だ!」


 司の合図に、鉄の塊が3体前に進んでくると、変形し始め舞台へと姿を変えた。

 そこには、5人の若い娘がドレス姿で上がりムーディーな曲を歌い始めた。


「戦勝祝いだ! 食べて、飲め!」


 大きな鍋が出てきて、5人のシェフが鉄板で料理をし始める。

 彼らはホットシータウンで何度も料理バトルを行っていた名だたる料理人だ。店を持たせて名物の一つにしたかったのに、世界中料理修行に行って結局普段は捕まらない面々なのだが、今回だけは無理やり引っ張ってきた。


 勝利したとはいえ戦いの後の凄惨な状況だったが、辺りは一気に豪華なパーティー会場へと変貌した。


 昼前に始まった戦い、ちょうど今は日が沈みかけている状況だ。戦った戦士たちは司が警護していた必要以上の物資にすっかり心奪われ、この時を楽しんだ。


「おや、ツカサ卿! どちらへ?」

 解体されたペガサス騎士団とドラゴン騎士団を取りまとめているペインスが陽気に話しかけてきた。

 傍らには、ウォルハックの姿もある。


「何というか、意外な組み合わせだ」

「選択を間違わなかったもの同士、気が合うんですよ」


 ペインスはヒゲを捻りながら言ってくる。

 ペインスはペガサス騎士団を裏切り、ウォルハックは母と弟の無念を忘れこちらに寝返った。

 そのおかげで、ペインスは多大なる権力を得たし、ウォルハックはまず勝ち戦となるだろうこちら側で戦えている。


「ウォルハック、よく生き残ったな」

「どうかな。隣で一緒に酒を飲んだ友人が死んだ。明日は我が身さ」


 話しながらだったので、司は彼らを連れて森の中へと連れ込んでしまった。

 そこには、草や枝で隠されたクリスタルが並べられている。

その一つ、レッドウッドのクリスタルを見つけ再び肩を落とす。


「随分ご執心だったようですな」

 ペインスの言葉に、司は頷く。

「彼は、人類と、エルフの未来だった」


 エルフは信用できるが、人間は信用できない。

 いずれ人間は必ず、確実にエルフを侵略する。

その手に持つのは剣などならまだいいが、いずれは銃に核ミサイルを前に、弓やナイフで立ち向かわねばならないかもしれない。


「さすがはツカサ卿、先の先まで考えてらっしゃるのですなぁ」

「そうとも。いろいろ考えて考えて、考えて。聞いてくれよペインス、ウォルハック、何もかもうまくいかない」


 戦争は人間の愚かさの象徴だ。

 彼には何としても戦争を知ってもらわねばならなかった。

 彼は強い。ツヴァイとレッドウッドが協力すれば、ジョルジュとも戦えるほどに。

 まさか、人間相手に負けてしまうなどと、考えもよらなかった。


「人生とはそう言うものでしょ、ツカサ卿。だから我々は、酒を飲むのだ」


 ウォルハックは片手に持っていた果実酒を差し出し、司はそれを受け取る。

 司はそれを一気に飲み干した。

 戦場の酒なのでアルコールは控えめにしたのだが、失敗したなと思った。


「彼の死は無駄ではない」


 木々の闇の中から、1人のエルフが現れた。


「我々は学んだ。友であり、兄弟であり、共に生きた者たちの死を前に、鮮烈に学ばされた」


「戦いはすでにこちらの勝利だった。これ以上の戦いは無駄であり、意味のない事であった。だが、奴らは戦いの手を止めなかった。実に愚かだ」


 更に闇の中からエルフが現れる。


「確かに私は獣の服従させる護符を使った。しかし、半数以上の獣がその符の束縛を打ち払ったのだ。理解不能だ」

「レッドウッドは片眼を矢で貫かれた男を圧倒していた。レッドウッドも目の前の男を殺すつもりだった。負ける要素はない。だが、死んだのはレッドウッドだ」


 闇の中から次々とエルフが現れる。


「完全な奇襲であった。だが、奴らの多くは逃げおおせた。なんと我々は間抜けなことか」

「エルフは無様に死んだ」

「百年に一度、子が生まれるか生まれないか。エルフにとって、1人の死が大きく影響する。だが、今ここで多くの命が散った」

「我々は戦争を甘く見ていた。我々はあまりに戦争を知らな過ぎた。獣人の多くは死ななかったが、エルフは多く死んだことが証明である」

「我々はこの戦を最後まで戦い、生き延びねばならぬ。戦争を知り、戦争をエルフたちにこの事実を伝えねばならい」

「そう、こんなに単純なことをレッドウッドの死により教わった」


 エルフたちは声をそろえてこう言った。


「敵のケツに槍を突き刺してやる」


 ペインスは司におどけて見せる。

「急にこいつらが好きになりました」

 

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