第6話 ユリオス
すでに舞踏会は始まっており、謁見の間に入れなかった貴族たちはすでに宴を楽しんでいた。周辺国の王や商人などの姿も見え、盛大に祝うつもりだったのだろう。戦争後処理に振り回され騒ぐ口実を求めていたのかもしれない。
ユリオス王が司の嫌疑は晴れたと宣言をすると、会場は割れんばかりの拍手が送られ、司はまるで舞台役者の礼をする必要があった。
一段高い場所に王族が座る場所があるのだが、今日は主役なのだからとユリオスの隣に司は座らされることとなる。
「で、実際問題どうなのだ?」
ユリオスは声を落とし聞いてきた。
「実際問題、魔族は優秀ですよ。シンプルなぶん、下手に人間より信用できる」
王は肩を震わせは、小さく笑う。
「で、さっきのあれはユリナの仕業か?」
「もちろん」
ユリオスは弱ったものだなと笑みを浮かべた。
三十代前半で、戦時の王らしく勇ましい容姿をしている。ユリオスは第三皇子であったが、周辺国との協力を取り付け、魔族と戦う大軍を組織した功績が認められ国王に選ばれた。周辺国巡りや軍の組織を手伝ったのが司であり、彼らは戦友と言った間柄なのだ。
戦争には勝てたものの恐ろしいほどの死傷者が出て国家運営できないほどに衰退した国が多数現れ、強いリーダーシップを見せ国王となったマリグ国に保護を求める国が多数あった。こうしてなし崩し気味に帝国となってしまい、日々皇帝としての業務にてんてこ舞いのようだ。
「しかし困った奴だな。お前が望むなら別の女を用意することもできるぞ?」
「冗談、僕の妻はユリナだけです」
「お前がそれでいいなら別にいいがな」
よほど鬱憤が溜まっていたのだろう、ユリオスは仕事での愚痴を言い始めた。そろそろ降りて諸国の王や貴族に挨拶まわりをするようにと従者に言われるも、それすらも払い長々と喋り合った。
宴も後半になり始め、さすがに忙しくて宴から退出しなければいけない王や貴族も出てくるのでここまでだと叱られ、ユリオスは渋々と司を解放した。
足早にユリナがドレスの裾を持ちながら近づいてきた。
「男の長話はよろしくない噂をたてますわよ」
「上司の愚痴を聞くのも部下の役目なんだ、理解してよ」
戦時の王が、平時の王になったのだ。ユリオスはそれでもうまくやっているようだが、やはり野山を駆けていた時代が忘れられないようだ。
ユリナは司に抱き着き、キスをしながらそっと耳元で呟く。
「王を侮り、手を組もうとする愚か者が多いようです。お気をつけて」
「ユリウスとアリアはどうだ?」
ユリウスは第一皇子、アリアは第二皇子。二人ともユリオスに王を譲ったのは納得しているのだが、その取り巻きはそうはいかない。このままだと身の破滅なのだ、あらゆる汚いことをしてくるだろう。
「確証はありませんが、愚か者との共戦する事でしょうね」
できればいつまでも抱き合っていたかったが、周囲の貴族が司の周りに集まってきた。
「ユリオス王と長く話しておられたようだが、なにを話されていたのでしょう?」
「僕が魔族を従えていることを懸念しておられたのです。しっかりと説明したつもりなのですが、国防のことなのでしっかりと確認なされていました」
「さすがはユリオス王、しっかりしておられる。しかし魔族を従えるなど、大丈夫なのですか?」
「つらいところですよ。平時であればゆっくりと魔族を殺して回るのですが、急ぎ前線基地を作らなければいけない。お金も時間も人手もない。苦肉の策なのです。遠慮なく支援なさってくださってもいいのですよ?」
「ははは! 自分も戦後の処理に追われていまして、とてもとても」
「みなさんそうおっしゃる。さすがにユリオス王はそうもいかず、人や金の話をしているとどうしても話が長くなってしまいましてね、皆様には不要な心配をさせてしまいました」
面倒でも、妻と踊りたくても、お腹が空いてても、やらないといけないことはやらないといけない。それが司の仕事なのだから仕方がない。英雄スマイルをしながら、社交界を楽しむのだった。