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第67話 ペガサス騎士団


 王都にある貴族の屋敷に、ペガサス騎士団の12人の団長が集められた。


 欠席は2人、10人の貴族の上品な服を着ているが厳つい男たちが食堂の長机で顔を突き合わせていた。

 彼らの表情は誰もが曇っていた。


 彼らはクーデターを起こし、皇帝を引きずりおろす計画が頓挫している状況だからだ。


 日々の日常があまりに変化しているせいだ。

 新たな王となるはずだった少年は姿を消し、全く関係ないところで内乱の狼煙が上がっている。


 彼らの不満は先の大戦で活躍することができず、蛮族の集まりと見下していたドラゴン騎士団が多く土地や報奨金がもらえ自分たちよりも権力を持ったことに不満があったからだ。


 その愚かにもドラゴン騎士団が、何を勘違いしたのか内乱を起こし帝国を滅ぼそうとしている。

 つまり、クーデターなど起こさずとも奴らは破滅し、彼らが得た報酬を奪い取れる可能性があるのだ。


 今日、クーデターを画策していた5人の貴族に彼らは呼び出された。

 騎士団長全員呼び出された以上、何かしら結論を出されるはずだ。

 決行するにせよ、中止するにせよ、だ。


 10人の騎士団長が集まりながら、不気味な静寂が包む中、やっと呼び出した人物が現れた。


「10人も集まるとは想定外ですわね。やっぱり落ち着かなかったのでしょうか」


 奥の、主人の席に彼女は向かった。

 彼はその後ろに立ち、妻を紳士的に座らせた。


 ユリナとツカサ。

 この二人は、この場にいてはならない二人だ。

 5人の貴族のうち一人の娘。

 当初はクーデターの協力者となるべき人物だったはずだが、彼らは自分にとって都合のいい人物を皇帝に据え、ペガサス騎士団を裏切ったのだ。

 つまり彼らは、今まさにクーデターを起こそうとしている帝国側の人間なのだ。


 怒りに任せ、二人の団長が立ち上がった。

 帯刀はしていたが、後ろに立つツカサを見て分が悪いと察したのだろう、肩を怒らせながら部屋を出ていく。


「さて、これからについて話しましょうか」


 ユリナは気にもせず残った団長たちに話しかけた。


「クーデターは中止です。もうすぐステロ伯爵が現状に不満を持つ者たちを集めて反乱を起こすことは知っていますね? いまこそペガサス騎士団の活躍の場です」


 話にならん。

 3人の男が立ち上がり、部屋から出て行った。


「さて、これで5人ですね」

 ユリナはやれやれと首を振った。


 一人の、赤や青の派手な服に口ヒゲの先がつんと上を向いた騎士団長が手を上げる。

「失礼、質問があるのだが」

「もちろん、なんでしょうか」

「勝てるのか?」


 ユリナとツカサは顔を見合わせた。


「それは・・・」

「侮辱するつもりはないが、できればツカサ卿あなたの意見が聞きたい」

 背は低いが背筋を伸ばし、ばっちと目が開いた生真面目そうな騎士団長が話を止める。


 ユリナは気にした風でもなく頷いた。

 ツカサは弱ったような表情を浮かべて首を傾げる。


「意味が分かりません」


 不穏な空気が流れる中、ツカサはせせら笑う。


「あなたたちはどう死ぬか、でしょ? 勝つか負けるかという話じゃない」


 イライラしながら話を聞いていた男が顔を真っ赤にして立ち上がると、荒々しく部屋を出て行った。

 残った四人も、座ってはいるが出て行った男と同じ気持ちなのが顔に出ていた。


「もういいですか? それじゃ話の続きをしますわね」

「ユリナ、少し待って」


 ツカサが止めると、何かをそっと耳打ちした。

 彼女は目を丸くする。

「え? だって、彼らだって貴族ですし、何千人の兵士をまとめる将軍でしょ?」 

 戸惑うユリナに、ツカサは悲し気に首を振る。


「ごめんなさいね、みなさん。一から説明しますわ」


 そう言って、まるで子供をあやす様に話し始めた。


「あなたたちを呼び出したのは父と、4人の貴族です。しかし、現政府側であるわたくしたちがここにいる。つまり、彼らの目論見はすべて露見したわけです」

 ユリナは椅子に寄りかかり、小さく息をついた。

「つまりあなた方は皇帝陛下暗殺を目論んだんですから、一族処刑という訳です」

「・・・」


 やっと理解できたのか、彼らは顔を上げ、その表情は見るからに青ざめていた。


「ペガサス騎士団は全解体。とはいえ、ステロ伯爵の反乱のこともありますし、急いで新たな騎士団を創設しなければいけない」

だから、できればペガサス騎士団の中から団長を選びたい。

なので、本当なら全員処刑のところ、あなたたちにチャンスを与えようとわざわざわたくしたちが足を運んだわけです。


「理解しましたか?」


「一族、すべてというと・・・」

 話を聞いていた人物が呟く。

「父も母も、妻も子も、親族すべて処刑ですよ。当然でしょ? 世の中にはルールがあります。国家転覆を図った罰は、考えうる限り最も重い厳罰となるでしょう」

 ユリナは悲しげに首を振る。

「席を立った人たちは、館の外で王宮騎士団に今頃拘束されているでしょうね」


 耳を済ませれば、確かに男の怒号が聞こえてくる。


「へへ、つまり彼らが居なくなるということは、彼らが得ていた利権は、どうなるのでしょうかね?」


 青ざめながらも、派手な服装をした団長が訊ねてきた。


「そう、それが話の続きです」


 やっと話が続けられるとユリナは苦笑した。


「あれやこれや、利権やら利益やらは残った騎士団長たちに分配するつもりです」

 派手な男は分かりやすく笑み浮かべた。


「権利と責任は同じですもの、正直今のわたくしたちでは荷が重すぎる」


 ペガサス騎士団はそれなりに地位の高い貴族ばかりだ。

 それをこの場にいる四人で分けるとしても、一気に地位は跳ね上がる。

下手をすると子孫が皇帝になる可能性すらあるほどに。


「は、ははは・・・え、ええ! もちろんですとも! 初めから気に入らなかった、じゃない、もとよりわたくしめは脅されてクーデターに参加させられていただけのこと! もちろん協力させてください!」

「過ぎた欲は身を滅ぼしますよ」


 はしゃぐ派手な恰好をした騎士団長を、生真面目そうな騎士団長が窘める。


「だが、もとより機を見て裏切る予定であった。協力させてもらう」

「でしょうなぁ、あなたは裏切るだろうとみんな言っておりましたよ。くくっ、命拾いしましたぞ」

「フンッ」


 ユリナとツカサはやっと心からの笑みを浮かべた。


「本当に不思議、ここに残っていれば富と名声が得られたのに、どうして出て行けば国家反逆罪の裏切り者になるのかしら?」

 ツカサは悲しそうに妻に言い聞かせる。

「だからね、彼らは理解していないんだ。わかってないんだ、ことの重大性を」

「だったら、カッとなったから出て行ったの?」

「そう」

「・・・ええ~」


 ほんとに?

 ユリナの視線に、騎士団長たちは引き攣った笑みで返した。





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