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第64話 君が望むから


 レイモンドは、聖女に会わせろと言って来た。


 彼が案内した食堂は、巡礼や寄付のためにやってきた貴族たちのために使われる質素ながらも広く清潔な食堂だった。

 そこのオムレツがすっごいのだ。

 おっきくて、ふわふわで、ほぼ味がない。しかし貴族用として薄いベーコンが何枚も添えてあり、カッチカチのパンと一緒に食べると実に美味しい。ほんのり琥珀色のスープは薄味ながらしっかりとした味になっており、味のないオムレツと一緒に食べると、わびさびを思い出す非常に上品な味になっている。

 一緒に連れてきた3人も「ふわふわ~!」「おいし!」と、次にはインスタ映えしそう! とか口走りそうな感じで喜んでいた。


 そしてその食堂には、レイモンドまでついてきていた。


 彼は白湯を飲みながら、20人以上いるという聖女候補生がいる場所に連れて行けと言って引かないのだ。

「ベティとシーラは聖女になりたいって言ってたじゃん。紹介すればいいじゃん」

「だめだよ、ベルラナ。このおじさんは君たちを誘拐するって堂々と言っていただろ? 信用できるかどうか見定めないと。女優になりたいなら、いいひと悪いひと見分ける才能が必要だよ」

「はーい」

 レイモンドは憮然としながら白湯を飲む。


 食堂なので当然たくさん人がいる。

 見覚えのある人物も多い。

貴族であろうとも、ここでは肩を並べて食事をするということなのか。

 それとも、ここではお前ら貴族なんぞ屁でもねぇんだよという事なのかは、わからない。


「いいですか、レイモンドさま。これはとても踏み込んだ話になってしまうわけです。お互いビジネスライクな関係でいましょうよ」

「ならん」

 レイモンドは真っ直ぐな目で言ってくる。


 彼は善人だ。

 だからこそ残り二人の枢機卿とは違う結果になった。

 だからこそ、危険なのだ。

 彼が良しとする世界が、聖典に書かれている理想の世界であるのならば、彼女たちは夢や希望を手放すことになる。


「この秘密の危険性を理解しているはずです。そう簡単には行きませんよ」

 ベーコンに卵を巻いてパクリと食べる。

 至高だ・・・

「最悪の場合、あなたの命を奪わねばなりません」

 ケチャップやマヨネーズがあれば文句なしだが、上質な油に包まれた卵はそれだけで十分旨味に満ちている。

 ここの料理人、やるなぁ。

 ちょっと挨拶してこようかな。

「構わん」


 彼は迷わず口にした。

 司も諦め、肩を落とす。

 彼が勝手な正義を振りかざすかもしれないという恐怖ではなく、もしかすると彼を殺さなければいけないかもしれないということに。


「このあと時間ありますか? どうせならすぐ行きましょう」

 何か試されているとでも思ったらしく、彼は神妙な面持ちで了承した。


「なにをしている?」

 空が見える、人目につかない場所に案内してもらい、

 ひとりをお姫様抱っこし、左右の子には首元に抱き着いてもらった。

「さ、レイモンドさまは後ろに回って腰に手を回してください」

「は?」

「いいからいいから」

 理解できず渋々レイモンドは手を回したが、司がぴゅーんと高く飛び上がると、彼は悲鳴を上げてぎゅっ抱き着いた。


 そして、そのまま目的地に向かって空を飛んで向かった。


 そこは、ビカ国。

 国が変われは習慣も変わる。

 聖女ならぬ祈祷師の才能があるとして、ビカ国では丁重に人民から敬われる存在なのだ。それでも3人しかおらず、リングが帝国全土から見つけ出したのだ。下手に帝国に集めておくと危ないかな? どうかな? ってことでビカ国に集めさせていた。


 ゼイダ王の居城である門の前に降り立つと、レイモンドは膝をついた。

「こんな、移動を、いつもしているのか?」

「楽ですからね」

 連れてきた聖女候補生とはここでお別れ、彼女たちと手を振り別れる。


「ま、まて、彼女たちを送って行かないと! もう日が沈む、誘拐されるぞ!」

「そうです、レイモンドさま。聖ロマンティアに彼女たちを置いておきたくない理由の一つですね」

 そう言って手を差し伸べ、立ち上がらせる。


「今日はもう遅いのでゼイダ王のもとで休ませてもらいましょう」

 司は慣れた足取りで庭に入ると、迎えたメイドさんは「ああ、はいはい。どうぞ」と城の中に入れた。司も案内されることなく勝手に城の中を進み始める。


 何やら弦楽器の音が聞こえてきた。

 嫌な予感がしながらもドアを開けると、案の定の面々が集まっていた。

「なんだい、また来たのかい?」

「やれやれツカサ、彼らに早く帰ってくれと言ってくれないか?」

 聖女クリスティーナはそう言いながら、お酒の入った木のコップを傾け、

 ゼイダ王はラフな格好をしながら手に負えないと首を振っている。


「丁度いいのだ、ここはな。アリアの町とお前のホットシータウンは賑やかすぎる」

 そう言いながら、ユリウス公爵は軽食を楽しんでいる。

「かと言い、田舎過ぎては面白くない。うむ、ここのウィンナーと妖精ハチミツ酒のためなら戦争も致し方なしだな」

「おお、恐ろしや。存分に食べて行ってください」

「兄上、せっかくの演奏に対し失礼ではないですかな?」

 気分よくバイオリンを弾いていたアリア公爵が文句を言う。

 彼はうっとりと自分の楽器に微笑みかける。

「さすがはエルフの作り出した楽器だ。何と素晴らしいものか・・・筆舌に尽くしがたい」

「光栄です」


 そして最後の一人、まるで動く人形、エルフのレッドウッドが表情も変えず言って来た。


「レッドウッド、君までこのバカたちに付き合わされているのかい?」

「人間を理解するためにここに来た。多少の苦痛は耐えよう」

 ゼイダ王はレッドウッドに対して笑う。

「こらこら失礼だろ! ここにいるお三方は帝国の中でもトップクラスの主要メンバーなんですからな! 下手に怒らせては大変だ!」

「私はこのウィンナーと酒で手を打とう」

「ならば私はこの楽器だ」

 レッドウッドは片眉を上げる。

「随分安上がりのようだ」

 クリスティーナは声を上げて笑った。


 アリアは弓をくるくる回してレイモンドに向けた。

「これはこれは枢機卿。こっち側に来たのか? 残念だ、首をすげ変える準備はできていたのだがな」

「ご冗談を・・・」

 自力で窒息死をしそうなレイモンドは、何とか声を絞り出した。


 それはそうだろうなと。

 ユリウス、アリア、クリスティーナはそろいもそろって悪辣で有名な人物だ。


「信用できるのか?」

 ウィンナーをかじるオッサンから、

皇帝となるはずだった男の視線に変わりたずねた。

「信用できるかできないかなど関係はありません。裏切れば殺す、それだけのことです」

「今のうちやっといた方がいいじゃないかい? なかなかの痴態を見せてしまったからねぇ」

「聖女の言葉ですか、それが」

 彼らは楽しそうに笑った。


「随分物騒ですな」

 レッドウッドは顔をしかめる。

「残念ながら、これは普通なのだ」

 ゼイダの言葉に、エルフは首を振る。

「理解しがたいものだ」


「すいません、レイモンドさま。まさか酔っ払いが集まっているとは思いもせず、騒がせてしまいましたね」

 レイモンドは乾いた笑いを上げていた。



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