第61話 謝罪行脚
さすがの司も、気を落としていた。
スノー家の当主に司の世界へと旅立ったことを伝えなければいけなかった。
女の尻を追って家を捨てたなど、当然だが信じてもらえず、司は何度も頭を下げる必要があった。
怒り狂うのは当たり前だ。
息子を殺されたようなものなのだ。
司はただ、頭を下げる以外に何ができるだろうか。
後ろめたいことがないわけでもない。
攻略対象の中で誰かが連れていかれることは分かったうえで見て見ぬふりをした。当然アランが選ばれる可能性はあった。それはつまり、司が目的のためにアランを殺したのと同じことだ。
まさか、全員連れて行くと思いもしなかったが。
「スノー家には、できる限りの賠償をしなければいけないな」
モリオウ家をもっともっと大きくして、スノー家に対して謝罪していく。
言葉は悪いが、アランが出奔したおかげでスノー家は更なる発展と繋がった。そのような未来でなければいけないのだ。
そして今度は、センネル家だ。
ただでさえ敵対的であり、ロッソはセンネル家にとって希望だと言われていた青年。殺そうとしてくるかもしれない。
それは仕方がないことだ。
ユリナはそのうえで自分が謝罪に行くと言って来たが、返って話がこじれるだけだからと言い聞かせる必要があった。
何もない平原に、さびれた館。
言葉にならない、なんとも哀れな姿だ。そして、これから司はとどめを刺しに行かなければいけない。
なんとも、気の滅入る仕事だ。
ドアをノックすると、すぐに扉が開かれた。
迎えたのは、長男のウォルハックだった。
21歳に見えない、まるで熊のような男だ。無遠慮な態度は、敵意を持っていることを示している。
執務室に案内されると、そこで彼が机の椅子に座った。
「メリオ様は?」
「母は引退した」
低い声でウォルハックは口にした。
お前が引退させたのだ、そう言っているのだ。
司は何度も何もウォルハックに対して頭を下げながら、ことの顛末を話した。
当然だが女の尻を追って、あのロッソが出奔するなど信じてもらえるはずもなく、司はただただ頭を下げるしかなかった。
「話は分かりました」
わかった風ではなかったが、言葉はそう口にした。
「それで、どのような賠償をしてくださるのか」
ウォルハックはそう口にした。
「金銭で済むことならば」
「金で弟がが返ってくるので?」
「・・・」
まったくもってその通りで、言葉も出ない。
「ならばユリオス派、いやツカサ派閥に入れてもらわねば困る」
「え?」
机に多くの手紙が置かれる。
「弟とは、何度も情報交換をしていた。初めこそ怒りの文体だったが、すぐにあなたを褒める内容に変わっていた」
釈然としないという表情だ。
「あなたの言う通り、トヨコという女が気になっていること、そしてライバルが多かったことも書かれている。先ほどの説明とも一致する」
さすがに笑みを浮かべるほどではないが、ウォルハックの表情は幾分か緩んだ。
「手紙にはこう書かれている。アリア派などについたことが間違っている。センネル家を残したいのならば、なんとしてもツカサ派閥に入ること。これが条件だとな」
もちろんその通りだ。
「情勢が変わりつつある。わかっているんだろ、もうすぐ内戦が起きる。どちらにつくか、そこで帝国は大きく変わる。あんたは、間違いなくそこで大公爵となる」
公爵はさすがに無理とは思いつつも、伯爵よりは上の地位を得られるだろうという気はしている。
「これはロッソの意思だ」
ウォルハックに対し、ツカサはもちろんと答えた。




