第53話 一幕 ②
雨の降らない国。
しかし突如の嵐に、人々は災害に見舞われる。
主人公は思うのだ。
この嵐は、私がこの世界に来てしまったことが原因じゃないかと。
この世界のために自分は帰らなければいけない。
世界は自分を追い出そうと動いている、そう感じるのだ。
覚悟を決め、親しくなった人たちに告白する。
「私は帰らなければいけません」
彼らは驚き、動揺し、彼女を止めようとする。
しかし主人公は悲し気に首を振るのだ。
「私がここにいては、世界が滅びるかもしれないのです」
私はこの世界が大好きです。
みんなが大好きです。
だから、さようなら。
彼女は虚空からあら現れた闇の渦に飛び込んだ。
するとどうだ、雨は弱まり少しずつ風も弱まっていく。
それと同時に、闇の渦も萎んでいく。
「あなたを姫と決めた時から、騎士である僕の剣は、あなたと共にある」
アラン・スノーは迷わず渦へと飛び込んだ。
「家族を、僕を救ってくれた。君のいない世界に意味なんてない」
ノア・ナイスマンも続き渦へと飛び込んだ。
「姉さん、さようなら。今ここで彼女を一人にするようなら、きっと姉さんに怒られるから、だからオレは行くよ!」
ジークも渦へと飛び込んだ。
「復讐を失い、君も失うなんて、そんなのは耐えられない!」
ロッソも闇へと飛び込んだ。
「お許しくださいロラ姫。あなたを守るべき騎士でありながら、心は我が(主人公の名前)にある」
ゴイルも飛び込んだ。
そして・・・
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司は改めて笑った。
「ハーレムエンド!? たいしたタマじゃないか! 豊子ちゃんはハーレムエンド狙ってたのか!」
司は、光の中にいた。
その中で、言葉ではなく情報、映像データのようなものが頭に入ってくる。
俗にいう、テレパシーのようなものみたいだ。
彼らは何度も何度も繰り返し言っていた。
「帰りたい」
と。
彼らのテレパシー装置のようなものは、多少壊れているみたいだ。
所々で、古いテレビの砂嵐のような状態で、情報がぼやけてしまう。
「・・・を、追った」
「みしらぬ、せかいだった」
「半壊した船では、戻ることができない」
「地球を調査していた時に得たデータの中に、帰れるかもしれない情報があった」
「異世界に行き、帰ってくる物語。それを現実化させる」
頭の中に、大量の計算式が入り込んできた。
魂が無理だ!
と叫ぶと、圧縮され、単純な言葉で伝わってきた。
「ラプラスの魔」
計算式により未来を予測する。
それを更に発展させ・・・
未来を変える。
彼らは長い時間をかけ、不可能を可能へと変化させていく。
「これは・・・」
円柱形の液体の入ったカプセルの中に、多くの人間が入っていた。
中に入っていたのは、司たちだった。
自分の手を見る。
世界の矛盾を解消するために作られた、生体アバター。
より計算能力を高めるために、実際の人間の意識をそこに入れ込む。
それが、司たち10人の異世界転生者たちだ。
自由意志を操作したわけじゃない。
自由意志で、彼らの望む行為を行ってくれる人物たちを選んだのだ。
司たちでなければいけなかったのだ。
「魔王グランドールは、想定外だった」
その強さ、魔族たちを率いて帝国に侵略に来るなど想定していなかった。
彼らは、魔族を追い出し、その地にゲームの世界を再現してもらうことでしかなかった。
その程度なら司たちの力でもどうにかなる。
むしろ過剰な力を与えていたぐらいだ。
魔王との戦いは想定していなかった。
司がグランドールに勝ったのは、彼らからすれば奇跡といっていい。
彼らは司たちに対し謝罪、そして深い感謝の念を抱いているようだ。
そして紙村豊子の生体アバターを作り、ゲームを開始した。
魔王グランドールのせいで、未来変化の力は狂っていた。
紙村豊子が成し得たことは、彼らにとって奇跡といっていい。
彼女にもまた、彼らは謝罪、そして深い感謝の念を抱いている。
「一緒に帰ろう」
小さな手が司の手を握った。
人間と同じように暖かく、その、申し訳ないが、ちょっとゾッとした。
小さな体。
大きな頭に、大きな目
灰色の肌。
グレイ型宇宙人が何体も司の周りを取り囲んだ。




