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第47話 続々・ギルド長ログエル

 それはまだホットシータウンができたばかりの頃。


 ウリュサの商人ギルドの長、ログエルはテーブルを殴りつけた。

「話が違う!」

 司は微笑みながら。

「誤解です」

 と返した。

 いつものやり取りだ。


 この度のログエルの言い分は、ホットシータウンの利権が欲しい。

 そんな感じだ。

「僕も想定外だったのです。グレンタがまさか、魔族を使いホットシータウンの基礎を作ってしまうとは」

 ホットシータウンを作った功労者、くすんだ金髪の元貴族のグレンタ青年。

 ログエルが政治家だとすれば、

 グレンタは技術屋だ。

 政治的にログエルが勝利しギルト長になっていたが、新しい街づくりには技術屋のグレンタの力を得ることが必要だった。

 いまグレンタは、ホットシータウンのギルド長の地位に納まっている。

 ただ、彼は現場が大好きなので今でも落ち着きなく働いている。


「すぐにグレンタを追い出し、ホットシータウンのギルド長としてログエルさんになってもらうつもりです」

 当然ですよ。

 司は微笑みながら答えた。

 顔の四角い男は、いつものように拍子抜けだと言うように勢いがそがれていく。

 すでに完成した町に必要なのは、技術屋ではなく政治家だ。

 人を呼び込み、金に群がるハイエナどもを捌く手腕の持ち主が必要になってくる。


「僕も驚いているんですよ。まさか無理難題を抱えながら街を作り切ってしまうなんて! そうでしょ、ログエルさん」

 ログエルは司を、間抜けな金づるだと思っている。

 怒鳴れば言うことを聞く子供ぐらいにしか思っていないのだろう。

 実際、司はログエルの要望をおおよそ叶えてきた。

 ログエルにとって不都合なことは「誤解です」と言って言い訳をいい、司にとっても都合のいいことに対しては「信頼するログエルさんにしか頼めません!」と低姿勢で接してきた。

 初めは腹も立っていたが、最近はこのやり取りが楽しくなってきた司だった。

 またけむに巻いてやろうと微笑んでいると、今回は妙に生真面目な表情を浮かべてこちらを睨みつけてきた。


「それで、グレンタはどうなる? このウリュサの町でギルド長になるのか?」

 いつもと違う雰囲気に少し戸惑う。

「そうなりますね。彼は結果を出したので、このままクビにするなんてことはできません」

「それで、今度はウリュサの町に下水を作るのか?」

 図星を突かれた。

 それでも司は何のことですかというように肩をすくめる。

「魔族、そして孤児を使い恐ろしく安価で街を作った。もし俺が最初に予定していた通りにしていれば、まだ町はできてなくて、10倍以上の金を俺に支払っていたはずだ」

「誤解です」

 ログエルは大きく息を吐いた。

「どういうわけだ? 最近ショーの質が落ちた。若い才能のある連中がウリュサから離れて、そっちの町へ移ると言っている」

「新しい物好きが流れているだけですよ」

「俺は、学はないが馬鹿じゃない」

 睨まれながら、司はやれやれと首を振る。

「だから何ですか?」


「確かに思い通りにはならなかったかもしれませんが、あなたの懐には想定以上のお金が流れているはずです。これからホットシータウンは百年、千年、万年栄える都市になっていく予定です。その礎となった偉大なる人物としてログエルさん、あなたは名を残すことになるでしょう。名誉と金、それでは不満ですか?」

 ログエルの表情が険しくなっていく。

「僕はね、あなたを買っているのです」

 おどおどした芝居を止め、静かに口にした。

「このウリュサに集まった貴族どもは、どれも無能ばかりだ。そんな中で、唯一有能だったのが、あなただけだった、ログエルさん」

 グレンタは優れた人物だが、自力でウリュサの町を発展させることはできなかっただろう。

 ログエルだからこそできた。

 それは間違いない。


「結果ですよ、結果。ログエルさん、あなたは結果が出せる。僕はあなたをとても買っている」

 腹を立てて胸ぐらを掴んでくるかと思ったが、彼は動かなかった。

 腹を立てて部屋を出ていくかと思ったが、彼は動かなかった。

 腹を立てて汚らしい言葉を投げかけてくるか思ったが、彼は動かなかった。

「どこまで、計算だったんだ?」

 それどころか、穏やかに聞いてきた。

「全部ですよ。清潔で楽しい、妻とスローライフがおくれる街を作る必要があったわけです。あなたも、グレンタも、魔族も吟遊詩人たちも利用できたから利用した。それだけです」

 別に出て行かれても困らない。

 町はもうできたし、彼の代わりは今となっては用意できるだろう。


「あの町で俺は何をすればいい?」

 ログエルは想定外にも、そんなことを聞いてきた。

「町を作るのは技術屋に任せるのが一番です。街を発展させるなら、政治家の出番です。あなたはいつもの通りに、懐にたっぷりとお金を蓄えてください。それがホットシータウンを栄えさせるのですから」

「たいしたタマじゃねぇか」

 彼は不愉快そうにだが、何度も頷く。

「結果だ。お前さんは、結果を出している」

 俺を騙して、町を作り、その町を更に大きくしようってんだからな。

 そう言いながら、ぎこちない笑みを浮かべている。

 さすがにいきなり態度を変えることができないようだった。


 ※※※


 しばらくはぎくしゃくしていたが、そのうち気心も知れてきた。

 ホットシータウンで商人ギルドの長になると、ウリュサの町よりも精力的に行動してホットシータウンの繁栄に寄与した。


 こうして、彼は選ばれた。





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