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第44話 続々白薔薇の国


 ・・・ぉう

 隣の妻が、思わず唸っていた。


 少し前まで町の祭りに興じていたのだが、それはとても素晴らし経験だった。

 異種族の兄弟たちと歌い、踊り、同じものを食べて笑っていた。その感動をそのままに、司たちは民族衣装を購入してパーティーに着ていくことを決めたのだ。

 それは司たちなりの敬意の示し方のつもりだったのだ。


 が、目前に広がっている景色は、予想と違う景色だった。

 田舎の人が都会の真似をしているような、正確に言えばマリグ帝国の社交界の真似をしているのだろう状況が広がっていた。


 会場は相当広い。

 それに合うようなテーブルじゃない。多分だがこれは外で使うようのテーブルが並んでおり、数も少ないのでがらんとした感覚が否めない。

 食事もマリグ帝国でよく食べられているトカゲ肉だ。わざわざ山奥まで持ってきたのだろう、ジャーキーにして戻して料理にしている。正直なところ帝国は食事に対して軽視しているところがあり、不味いものが更に不味くなっている。

 一番目に付くのが、女性たちのドレスはまだしも男性たちの服装が、気持ちが悪いほど同じスーツ姿には違和感があった。社交界では似て非なる、なんだかんだで目立ちたい貴族ばかりなので少し色味が違ったり形が違ったりあえて思いっきり変な恰好をしてくる人物は多いのだが、ここには申し合わせたかのように全く同じ服装ばかり目に付いた。


 社交界の花を目指すユリナの目にはどう映っているのか、想像もしたくない。

「ようこそいらっしゃいました! ツカサ様! ユリナ様!」

 この場で唯一派手な女性が挨拶をしに来た。

 ユリナから教わったが、少し前に流行ったドレスに宝石のネックレスに小物をたくさんつけ、ソフトクリームのように盛った髪型になっている。

 その後ろに、国王であるゼイダが引きつった笑みを浮かべていた。

「素晴らしいパーティですわね、女王様」

「まぁ! そうでございましょう!」

 決死の覚悟を決めたのだろう、ユリナは女性の前へと歩み出た。

「それでは、言ってきますねツカサ」

「あなた、ツカサ様に失礼のないように!」

「もちろんだよ! はははは!」

 ゼイダは笑顔で見送り、司たちが民族衣装を着ている姿を見て小さく「お恥ずかしい限りです」と呟いた。


 ゼイダは司を連れ国の要人たちを紹介していく。

 言葉は悪いが、誰もがずんぐりむっくりで今日のためにわざわざタンスから背広を引っ張り出してきたかのような体に合っていないようだ。

 握手をしてわかるのだが、やはりごつごつした手はペンよりも鍬を握ってきた手をしている。


 のどかで穏やかな国。

 勤勉で、その日美味しいお酒が飲めればいい、そんな素朴な人たちばかりなのだろう。さすがは純粋な白薔薇が生まれ育った国だと言える。


 だからこそ危険だ。

 自分のような腹黒が紛れ込みでもしたら、それはもう、とても簡単に国家は掌握されてしまうだろう。

きっと商人たちもこの国の資産価値を理解していないからまだ守られているだけで、戦争が終わった今、時間の問題だろう。


 砂で描かれた絵のような、美しくも儚い国家だ。


 この国の貴族たちは、挨拶をしながらもどこか気もそぞろと言った様子だった。彼らは外にばかり気が行っている。

「そういえば、今日は祭りですよね」

「え、ええ」

 ゼイダ王も少し落ち着きがないようだ。

「いやぁ楽しかったなぁ。あのような美しい祭りはありませんよ」

「ははは! そう言っていただくと嬉しい限りです!」

 祭りの話をしていると気が付くと、今までどこかよそよそしかった貴族たちが司の周りに集まってきた。

「本当に感動したのです。自分は開墾し新しい街を今まさに作っているのですが、国家の歴史までは生み出すことはできません」

「はは、そうかね?」

 彼らは実に、まんざらでもない表情になっていく。

「美しい衣装だ。僕とユリナはこの衣装を着てパーティーに行こうと決めたのです。文化に敬意を示し、感動をわかってもらうために」

「なんとも、ありがたい話だ」

 見え透いたお世辞にも関わらず、彼らはとても嬉しそうだった。


 会場に音楽が流れ始めた。

 大きなダンススペースがあるので、踊りましょうと言うことなのだろう。

「どうですか?」

 司は覚えたてのがに股ダンスをして見せた。

「ははは! まだまだですな!」

 ゼイダ王は、それは見事なステップを見せてくれた。

 さすがはビカ生まれビカ育ちのビカっ子、その姿は実に様になっている。

「まだまだ子供ですな、国王!」

「俺もまだ若いもんには負けんよ!」

 もう耐えきれない! そんな風に貴族たちもステップを踏み始めた。

もともと滅茶苦茶な音楽でも踊れるようなダンスなので帝国から呼び寄せたのだろう音楽家の曲でも難なく踊ることができる。

「どうです、兄弟? 今日はもう無礼講ということで」

「ははは! あなたがよろしければ!」

 本当なら男女ペアになりダンススペースに行かなければいけない所を、男たちはぞろぞろと向かい、楽し気にダンスステップを始めた。

 それを見た女たちも負けじと集団でスペースに向かい、蹴り上げダンスを始める。

 音楽も気が付くと優雅な曲からテンポのいい曲に変わっており、更にはふわふわと要請が舞い上がり始めた。


 輪の外で女王は渋い表情を浮かべてはいたが、その隣でユリナは怒りを沈めているようだった。

 司と目が合うと、おかしそうに笑っているように見えた。


  ※※※


 王女のセェラは今日のことを思い出し、くすくすと笑いながらベッドに横たわる。

 今日は楽しかった。

 ツカサ様はお話で聞いた英雄なんかよりずっとずっと素敵で、その奥さんのユリナ様も本当に心が広くお美しい方だった。


 セェラも馬鹿じゃない。

 ツカサ様が本当は自分に対して苦手意識を持っていることぐらい感じ取れていた。無理を成されているんじゃないかと心配していた。


 だけど、そんなギスギスした感じを、こんな楽しい時間に変えてしまうなんて!

 きっとツカサ様こそ輪の神様に違いない。

 ビカ国に伝わっている、誰もが平等、公平でみんな友達にしてしまう神様。

 その化身に違いない!


 興奮してはいるが踊りっぱなし、体が疲れを訴えうとうととし始めた頃、ドアがノックされた。

 意識が急に覚醒し、ドアを開けるとそこには・・・


 ツカサとユリナが隣り合って立っていた。


「夜分に申し訳ありません。お時間はよろしいでしょうか?」

「は、はい。あの、どうなさいました?」

 ツカサは意地悪そうな笑みを浮かべる。

「実は、ビカ国に来たのは遊びに来たわけではないのです。本来の目的を果たそうと思うのです」

 セェラは意味が分からず気のない返事を返す。

「どうです? 一緒に城を抜け出してはくれませんか?」

「え!?」

 思わぬ誘いに目がすっかりと覚めてしまった。





・・・ちょっとずつでもニーズに合わせる努力をしていかないと

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