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第43話 続白薔薇の国


 セェラに花園を案内してもらっていると、眼下に見える街が賑わっていることに気が付いた。

 彼女は少し気もそそろというように今日は年に一度の祭りが開催中なんだそうだ。

「へぇ、だったら僕たちも見に行きましょうか」

「夜には帰らないといけないですから、馬車で向かうとしても・・・」

「大丈夫よ。ね、ツカサ」

 司はユリナとセェラの腰を抱く。

 きょとんとするセェラは、すぐに顔を赤くするが、またすぐ後に青く青ざめる。

 司はピュンと空を飛び、数秒後には町の入り口に降り立っていた。

「便利ですわよね」

「おかげでスケジュールは毎日びっしりだよ」

 腰が抜けてしまったセェラだったが、街に入ると元気を取り戻した。

「おひぃさん! また城を抜け出してきたのかい!」

「ちがうよ! お客様を案内してんの!」

「あらセェラちゃん! 家で食べていく!?」

「ごめん、おばさん! 今日はお客様を案内しなきゃいけないの!

「セェラ姉ちゃん! 一緒にお祭り行こう!」

「今日はダメ! あ、積み木祭りの準備手伝いに行くって言っといて!」

 それほど大きな集落ぐらいの町ではあるが、それにしてもひっきりなしにセェラは話しかけられている。それはまるで国民の子、彼女の天真爛漫さはこういう場所で育ったのだろう。

「それにしても、素敵な街ね」

「うん」

 一部だけとはいえ石畳が敷かれ、二階建ての建物もよく並んでいる。とても山奥にある町とは思えない。

「お金があればできるってもんじゃない。街を作る場所、建造物などの知識、それを加工できる文化力、とんでもないところだよ」

「ええ」

 遠くから聞こえてくる祭囃子だろう、それを聞きながら司とユリナはむぅと考え込む。

 司は考える。

 文明は川の近くから始まる。豊かな土地からは偉大な国が生まれる。このビカ国はただの商人の停留所が発展してできただけの国じゃない。

 なにか、別のエネルギーがここにはある。

「あなた、気が付いて?」

「どれのことかな?」

 司は苦笑してしまう。

「セェラが着ているドレス。とても素敵だと思っていたのだけど、ここの民族衣装なの?」

 ユリナの目についたのは衣類のようだ。

 山の上は冷えるのだろう、男女ともに重ね着をしている。

青やらオレンジの衣類が重なっているだけで、とてもきらびやかに見えた。それに襟や裾は特に刺繍がしっかりとされており、服装の耐久度も上げているのだろう。

「セェラ、ここの仕立て屋はずいぶん立つのね」

「仕立て屋ですか? そんな立派なもんじゃないですよぉ。冬になったら雪が降って家から出られなくなるから、女たちは集まって服を作るんです。綺麗な刺繍ができることが、嫁入りの必須スキルなんですよ!」

「そ、そうなのね」

 ユリナは興奮し始めてしまった。

 これはきっと、また面倒なことになりそうだと司は思った。

「あ、お面売ってます! お面を買わないと!」

 木で作られたお面がずらり、売られていた。

 目元だけ隠せる、少し小さいお面だ。よく見ると中央に近づくと仮面をつけている人たちが増えてきた。

 仮面を購入し、それを付けながら司は考える。

「仮面が必要だということは、身分を隠す必要があるってことだよな」

 こんな山奥で身分を隠す必要などあるのだろうか?

 その疑問は、祭りの中心部に来てすべてわった。

 仮面をつけたエルフが歌っていた。

 仮面をつけたドワーフが踊っていた。

 ヒッピーのような派手な服を着た子供の姿をしたリングという種族も仮面をつけて歌い踊っている。手のリサイズの白いひげのお爺さんの姿をしたノームも踊っている。下半身が山羊のサテュロスも仮面をつけ笛を吹き、海ではなく湖に住む美しいハーピィも仮面をつけ空を舞っていた。

 二足歩行のゴリラも仮面をつけて踊っており、半透明で骸骨が透けて見える亡霊の姿もある。周辺を飛び回っている妖精の顔にも葉っぱなどで作られた仮面が付いていた。

 仮面の意味をなしていない。

 だけど、仮面をつけている以上ここに集まった彼らは等しく平等ということになる。

「ユリナ、すべての謎は解けたよ」

「わたくしもです」

 これだけの種族が集まっている場所には、知恵、知識、文化、そんなものが積み重なって当たり前だ。

 新しい謎としては、何故この場所にこんなに集まっているのかだ。

 広場は剥き出しの土だが、これに謎が?

 それとも中央にあるまん丸の巨石が何かの秘密があるのだろうか?

「それじゃ、行きましょユリナ様!」

「え? ええ、それじゃあなた」

「あ、うん! 日が沈む前にはここに集合だよ!」

 祭りは男と女が明確に別れていた。

 男たちは、がに股で不思議なステップを踏んで左右に揺れている。女性たちは足を高く蹴り上げている。

「兄弟! こっちだ兄弟!」

「さぁ一緒に踊りましょう!」

 どういう祭りなんだろうと考えていると、テンションの高いエルフとドワーフに誘われ、素直に彼らの元へと向かった。

 背の低いドワーフは司の腰に手を回し、ノッポのエルフは司の肩に手を回し、音楽に合わせて踊り始めた。

「うわぁっととと」

 多少は踊りの練習をしているとはいえ独特なダンス、すぐに足がもつれてしまい、司たち3人はそろってその場に転がってしまった。

 周囲から一斉に笑いが上がった。

 一緒にこけたドワーフやエルフも、子供のように笑っている。

 気が付くと、司も釣られて笑っていた。

「ダイジョウブ、レンシュウシヨウ!」

 二足歩行のゴリラが歯茎を剥き出しに笑いかけ、司を中心にゆっくりと踊りを習っていく。中にはタップダンスのように華麗な足さばきを見せる人や、くるくると回る人もいるが、大体はがに股ステップで左右に揺れるだけの簡単な踊りだった。

「よぉし、兄弟! 前に行くぞ!」

「これは戦いですよ! ちゃんとついてきてください!」

 一緒に転がったエルフとドワーフと組みなおし、前へと向かっていく。

 女性たちと向き合った。

 サテュロスとリングの笛が鳴り響く。

 女性たちはスカートを捲し上げながら並んで蹴飛ばしていく。

 男たちはあのステップで左右に蹴りを避け合いながら近づく。

 男女は顔を近づけ、再び離れて踊り始める。

 踊りながら、ああ、なるほどと思った。

 これは求愛のダンス。男たちは女性に迫り、女たちはスカートを見せびらかしながら蹴飛ばすのだ。それを避けきり・・・

 周囲から歓声が上がった。

 一人の男性が伸び切った足を捕まえ、抱き合っていた。そして二人は、ダンスの輪から外れていく。

「ぐぬぬ! 負けていられんぞ兄弟!」

「ですね! 今年こそ相手を捕まえて見せますよ!」

 左右の兄弟は息まきながら女性人たちに迫る。しかし相手もさること、すらりと伸びた足を見せつけながら下がっていく。

「おい! 前に出すぎだぜ!」

「下がれよ! 次だつぎ!」

 後ろからの男たちにせっつかれ、仕方なく後ろに下がった。

 3人そろって大きくため息をついた。

 左右の兄弟は成果が出なかったことに、司は妻が足を出して男を誘惑しているのだと思うと気が気ではなく、だ。

「ええい、酒でも飲んで気を紛らわせるぞ!」

「そうですね。おごりますよ、兄弟」

「いやいや兄弟、僕におごらせてくれ」

 司は自分の胸元に手を入れる。

「あれ?」

 財布を取り出して目を丸くする。

「どういうことだろう? リングがこんなにたくさんいるのに財布がある」

 それどころか、身に覚えのない木の輪っかが沢山ポケットから出てきた。

どういう事だろうと首を傾げていると、隣のドワーフの兄弟が渋い顔をしている。

「どういうことじゃ、ワシの財布がない」

 司は酒の出店から木のジョッキを手に戻ってきて、ドワーフの兄弟に渡した。

「忘れたのかい、兄弟。有り金すべて酒と食べ物に支払ったんだ」

「なるほど、そうですね兄弟」

 エルフの兄弟もパンに挟まった肉を買ってきてドワーフに渡した。

「ああ、なるほど。だったらほら! この燻製肉を買ったのを忘れたんだな!」

「ははは! そういう事なら俺も!」

「しょうがないなぁ、ほら、これも買っただろ?」

 ノリがいいのか、周りの男たちもどんどんドワーフに酒や食べ物が集まってくる。

「フン、ワシはこんなに金を持っとらんかったわい!」

 周囲に集まった人たちは声を上げて笑った。




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