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第42話 白薔薇の国


 それは獣人と騎士団の戦いが終わってすぐの頃。

 友人を失い気落ちしていた司に、ユリナは仕事を片付け外回りについて行くと言い始めた。彼女の実家からやってきた使用人たちは非常に優秀で、優秀だった。今までの仕事が8割がた完璧にこなすもので、ユリナも少し時間に余裕があったのだ。

 司とユリナは馬車に揺られながら、仕事の話に花を咲かせていた。

 傍から見ればワーカホリックのように見えるかもしれないが、彼らからすると甘い蜜のような囁きなのだからしょうがない。

 馬車は気づけばごつごつとした岩山に囲まれた土地へと入っていく。

 ビカ国は大国と大国を隔てる山脈にある国で、緩衝国。元は商人たちの休憩町で、二つの大国の思惑で独立させられた小さな国だ。

平地が少なく、主な産業が牧畜。のどかな場所ではあるが、今も商人たちの休憩所として機能しており、そこそこ裕福と聞いている。

 とはいえ、馬車の外を見れば鬱蒼とした森にごつごつとした岩場。幾度となく馬車は跳ね上がり、何度か休憩しなければいけないほどに悪路。とんでもない秘境へと向かわなければいけないのは間違いない。

 ビカ国は山の上にあり、更に頂上に彼らの城が作られていた。

 司は馬車から降り、予想外の景色に少し呆然とする。

 ぱっと見、小さな屋敷が岩の隙間に作られているように見える。だが・・・

「・・・」

 ユリナも馬車から降り、神妙な面持ちで周辺を見渡した。

「幻想的なガーデン。まるで、おとぎの世界に迷い込んだようだわ」

 なるほど、女性目線ではそっちに目が行くのかと感心する。

「周囲の岩、スリットが見える。屋敷は小さく見えるけど、これは立派な堅城だよ」

「変なところに気が付くのですね」

 二人は微笑みながら花々に溢れた道を進み、扉に近づく。

 扉は開いており、カラフルな民族衣装を着た女性が二人を出迎えた。

「ツカサ様! ユリナ様! ようこそいらっしゃいました!」

 社交界に咲く二輪の花、白薔薇のセェラは、名に相応しい花が咲いたように美しい笑みを浮かべた。

 そう、ここはセェラの国なのだ。

 司とユリナはうやうやしく一礼をして、招待してくださったことに感謝した。思わぬことに、セェラは慌てて礼をし返した。

 すると、後ろからガタイのいい男が前に出てきた。

「ようこそツカサ伯爵! このような辺境へよく来てくださいました!」

 体格がいいので若く見えるが、黒い髭を整えた薄毛の男が、この国の王であることに気が付き、司とユリナは頷き、その場に跪く。

「おお、顔をお上げください! あなた方が跪くことなどありましょうか!」

「なにをおっしゃいますか。この地において、あなたこそが最も貴ぶべき存在です」

「はっはっはっ! 顔をお上げください! あまり度が過ぎると嫌味になってしまいますぞ!」

 二人は立ち上がると、ビカの国王ゼイダは友人を迎える様に暖かく二人と悪手を交わして城の中へと導いた。

「長旅でお疲れでしょう! しばらく部屋休んで、夜からパーティーを開きましょう! 妻も楽しみにしているのですよ!」

「素晴らしいお庭ですわ。少し見て回ってもよろしいでしょうか?」

「もちろんですよ! はっはっはっ! 私の自慢の花園でしてね! セェラ! 後で案内をしなさい!」

「はい、お父様!」

 若く美しいメイドに付き従われ、司たちは数日泊まる部屋へと向かった。

 妻と同じ部屋にしてほしいと言うと彼女は驚き、何度も一緒でいいのか尋ねてきた。不思議に思いながらも、同室にしてもらう。

 部屋の中に入り、やはり小さく息をつく。

 王都でも再現が難しいだろう、立派な部屋だったのだ。

「旦那様、別々の部屋でなくてよろしいのですか?」

 ユリナがおかしそうに尋ねてきた。

 意味が分からず肩をすくめて見せると、彼女は本当におかしそうに笑った。

「変なところで疎いのね。彼女はお貴族様がお楽しみになられるために用意された子よ」

 ふかふかのベッドに腰掛ける彼女の横に、司も腰掛ける。

「僕がそんな風に見えるのかな」

「あら、礼儀の一環よ。わたくしたちの城にも何人か雇ってるわよ」

 初耳で司は目を丸くする。

「うちは変化したハーピィに人魚で、それはそれは熱烈な歓迎をするって有名なのよ」

「し、知らなかった」

 そう言われれば、やけに甲斐甲斐しく身の回りを整頓するメイドさんがいた。若いのに仕事熱心だなぁぐらいにしか思っていなかったが、もしかすると、そういう意味だったのかもしれない。

「ある程度は貴族のたしなみですよ、旦那様。こう見えても理解あるほうですわよ、わたくしは」

「妙に浮気させようとするけど、僕はそんなに器用じゃないんだよ」

 惚れた腫れたは、正直あまり興味がない。

 一人で手いっぱいだ。

「それにしても、ビカ国。侮れませんね」

「だね」

 ゼイダ王は嫌味になると言っていたが、実際ギリギリな線だ。

 独立した国家とはいえ、ビカ国は帝国にとって植民地に近い。いや、隣国が攻めて来たら狼煙を上げろ、その程度の期待しかしていない。

 身分としては、一国の王であるゼイダの方が上なのかもしれないが、実質上、帝国伯爵の司の方が権力はある。

 要するに、メンツか礼儀か、どちらを優先するかという話になる。

「礼儀は大切です。ほんと、礼儀は大切なの」

 ユリナはしみじみと言って来たので、とにかく礼儀を優先することになった。

「壁紙、わたくしたちの紙より綺麗なのではありませんか?」

「そうだね。発色も、僕たちより綺麗だ」

「ふかふかですわね。この布、すべすべで温かい」

「ベッドの彫刻を見て見なよ、城の中に人が彫られてる。人間の技とは思えないね」

 この国にはある目的で来たのだが・・・これは、別のタスクを増やさないといけないだろう。

 ユリナは司の頬に触れた。

「旦那様、苦手だとかなんだとか、そんなこと言ってる場合じゃありませんよ」

「やっぱりそう思う?」

 部屋がノックされ、元気よくセェラが入ってきた。

「庭の案内、僕もいいかな?」

「もちろんですよ!」

 彼女は快く応じてくれた。

 

 




デレステで担当のイベント、2000位に入りたいので遅くなります。

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