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第41話 些細な違い(後)


 異世界学園リュミエール! ようこそ!

 異世界に転移してきた主人公が、魔法学園リュミエールに通うことになり、色々な悩みを持つ男子たちと交流を持つ恋愛シミュレーションゲームだ。

 しょっぱい絵、素人声優、悲しいオープニングとプレイヤーの心を折ってくるゲームなのだが、その感想はすぐに払拭される。普通に、物語として面白い。

 新人だったらしいが、その物語すべてを女性作家が異常なバイタリティで書き上げた作品で、一人の攻略者に小説一冊分の愛情を注いで書かれていた。

 物語のキーになるのが、学園長ユリナだ。

 彼女が学園を作った理由は、自分の夫を見つけ出すためだった。

 幼い頃から帝国を乗っ取る野心を持っており、皇帝ユリウスを打倒するための準備を進めていた。そしてこの学園で、地位、名誉、才能のある男たちを選抜しようとしていたのだ。

 ところが目を付けた学生たちを、なんの取りえもない主人公に奪われていく。それが許せないユリナはフェチネア・マーロという自分によく懐いていた女学生を使い、蹴落とそうとするのだ。

 各物語でユリナは、国家反逆罪で捕まったり処刑されたりするらしい。

「皇帝がユリオスではなく、ユリウス。そして、ユリナの夫探し、ねぇ」

 彼女が話してくれた内容を整理しながら、何か、変な感じがした。

 何か引っかかる。

「もともと低予算で作られててね、1年ちょっとで2が出る恐ろしいスピードだったんだけど、その時もその作家が全部書き上げてさ、更に評価が上がったんだよね。だけどさ、新人作家だったから契約に不備があったらしくてほぼほぼ原稿料貰ってなかったらしいの。それでゲーム会社とトラブルになっちゃって、そんな時に3が発表されちゃって作家が変わるって騒然としたんだ」

 豊子の話を適当に聞き流しながら、はたりと気が付いた。

 あれ? もしかして僕が関わった事ばかり違いが起きてない?

「ところが3でもその作家が全部手掛けることが決定したの! ゲーム会社が全面的に折れて原稿料を出して、更に1と2での上乗せ金まで支払いがされたらしいの。ゲーム会社社長曰く「先生のおかげで私たちのブランドが知られることになりましたし、物語は色あせることはありませんから今後も売り上げを伸ばしていくことは間違いありません。みなさん買ってくださいね(笑)。ここで変に金儲けに走ってみなさんの信頼を失う方がずっと損ですしね(笑)」なんてゲーム雑誌のインタビューを受けてて、これであたしらの好感度爆上ってわけ」

 何かしらに操られているということは非常に不愉快だ。だが、それで家に帰れるって言うなら話は別、大いに操られていた方がいい。

「それは確かに、応援しないとね」

「買い支えなきゃって、使命感だよね!」

 顔を真っ赤にしながら語ってくる豊子の顔をぼんやりと眺めながら、どうしたものかと考える。

「それで、大丈夫?」

 ハーブの香りを楽しみながら、のんびりと尋ねた。

「ゲームとは違って、現実の王子様たちと仲良くなるってのは、やっぱり違う感じ?」

 彼女は変な声を出しながら、しどろもどろになっていく。

 想像力。

 オタクの高校入学したての女の子が、ゲームと同じだって言ったって現実に存在する男性と仲良くならないといけないわけだ。

 なかなかのストレスなんじゃないかな?

 彼女の舌を滑らかにしているのは、そんな理由だからだと思えたのだ。

「僕も初めて人を殺した時は、ああ、やっちゃったわぁって思ったもんだよ」

「人とか、殺しちゃったんだ」

「戦争だって起こしたよ。僕は血の海の上に立ってる」

 さすがに、最初に殺した出来事はよく覚えている。

 山賊が、綺麗な身なりをした自分たちを誘拐しようとしたのだ。殺すことに躊躇う仲間たちの中で、最初に司が力を使い襲い掛かる男たちを殺した。

 今でも覚えている。

 殺した時の高揚感、言いようもない満足。

 生きた血は命を蘇らせる力を感じさせ、まるで女の子に抱きしめられたかのような柔らかさで、とても生命力に溢れていた。

 冷静になり、死体の中に立っていた時こう思った。

 もう、人間じゃないんだ、と。

「漫画みたいにサバサバした気分で人は殺せないね」

「・・・ん」

 彼女は少しお茶を眺めて、冷めたお茶を口にする。

「いいのかな」

 下手に口を出さず、彼女が話し出すのを待った。

「アランきゅんはさ、すぐキレて怖い。ナノさんはさ、植物に優しい背の高いお兄ちゃんじゃなくってさ、何かに怯えて植物に依存してる感じ」

「うん」

 彼女は、止まっていたエンジンがまたかかり始めた。

「ジーくんはさ、妙に物分かりが良くなっちゃってるし。ロッそんは、ただただ怖い子。イメージが違うっていうさ、なんていうか、生きてんだよね」

「うん」

 人は生きてる。

 当たり前のようで、驚くべき真実。

「あたしは知ってんだよね、言って欲しい言葉をさ。あの人たちを救える行動をさ。なんかさ、卑怯じゃん」

「うん」

 そして助けを求める視線を向けてきた。

「いいのかな?」

「・・・」

 結構マジな感じの相談だったので、ちょっと焦ってしまう。

 あれやこれや考え、司は諦めたように首を振って両手を上げた。

「いいじゃん、卑怯。僕、卑怯なこと大好き」

 彼女はきょとんとして、そして笑い出した。

「あー、なんかそんな感じの人でしたね」

「正々堂々として救われないぐらいなら、卑怯卑劣でいいから救ってくれって思う性質なもんでね」

 でも、ま、あまりお勧めはできないのも正直な話。

「変に敵視されるんだよね。どういうわけか救った人たちにすら嫌われるっていう、なんだか何のために人助けしてるのかわからなくなるんだ。だからさ、「卑怯いいよ、どんどん卑怯者になろう!」とは言えないんだよね」

「ん~」

 豊子は、思ったよりも困った表情じゃなかった。

 むしろ、どういうわけか晴れやかな表情になっていた。

「卑怯者って言われる覚悟がないと、人は救えないってことですかね」

「・・・年の割に悟ってるね」

「ふっふ~ん、オタク舐めないでもらいたいですね。こう見えて、沢山の恋愛模様を読んできたし、何度も世界救ってるんですから」

 思わず司も笑ってしまった。

「なるほど、頼もしい」

「ん、そうだよね。あたし、頼もしくないと」

 彼女は何度も頷いた。

「気負わないと、頑張んないと、なんか、わかる気すんですわ。あたしも、たぶんそっち側の人間なんですよ。貧乏くじ引くような、みんなが笑ってるのを後ろで見てる側の人間なんです。ただ・・・」

 そして大きくため息をついた。

「踏み切れないもんですね」

「ある意味、自分が悪党だって自覚しちゃうところあるからね」

 清らかな言葉で人々は感涙し、あなた様に従いますわぁ~なんて力は持ってない。

「あれやこれや考えて、人を操って、当人でさえ理解できな心を読み解き、支配する。正義のミカタじゃないよね」

 豊子は、小さく頷いた。

 なるほど、こっち側か。

「でもね、知った事じゃないよ。ユリナは僕の嫁だ。この町は僕の町だし、僕はここでユリナとのんびりスローライフを楽しんでる。僕もユリナも毎日が楽しいよ」

 陽だまりの中、猫だまりを作る獣人たちを見るのも面白い。

 それを愛おしげに見る客もまた面白い。

「まずはね、自分を支配しないと」

 自分を知って、自分を操り、自分でさえ理解できない心を読み解く。

 そして、自分を幸福へと導かないと。

「君に足りないのは、思慮の浅さ。卑怯だからって遠慮して、本当なら考え付くこともフタしちゃってる。日本人の悪いところだよ」

「・・・うん」

 彼女は顔を上げて、こちらをじっと見た。

「あたし、怒られないかな!」

「怒られればいいじゃん」

「嫌われないかな!」

「嫌われるよ」

 出鼻をどんどんくじかれるも、彼女は拳を突き上げた。

「ならばよし!」

 ちょっと涙目だったが。





うう、モチベーションが回復しない。

少しペースが遅くなりそうです。

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