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第40話 ゲーム開始


 フェチネア・マーロ。

 名家の令嬢として世紀末風の護衛をつけ、主人公に難癖をつけてくる。攻略対象の男性を横取りしようといつもちょっかいをかけてくる悪役令嬢。実は彼女は陰で操っていた本当の悪がいるのだが・・・

 リアルフェチネアは、なんというか、シルベスター・スタローンのような顔をしていて、なんかひどくショックだ。

「やれやれ、君のように暇人が羨ましいよ」

「うるせぇ! 見習い騎士のくせに生意気だ!」

 リアル世紀末風は、思ったより綺麗な顔をしたガタイのいい男の子だった。やっぱりあの劇画タッチは現実では表現できなかったか。

 護衛はナイフを取り出すと、細い腕で少年に切りかかった。

「自分を戒めるために見習いって言っているだけで、正式な訓練は受けているんだよ」

 ゲームでは美しい剣を抜き勇ましくナイフを切り落としたが、こちらではそんなことをするまでもなく、手刀でナイフを落とされ、しかも足払いでひっくり返った。

「くっ、庶民のくせに調子に乗らない事ね! 行くわよ!」

「お待ちくださいお嬢様!」

 背を向けフェチネアは逃げていき、その護衛少年もナイフを拾って後を追っていった。

 不機嫌そうな表情を浮かべていたが、こちらを向くと小さく微笑んだ。

「怪我はありませんか?」

「は、はい」

 アラン・スノーは、ゲームなんかよりずっと美少年だ。

「騎士らしく振舞えたかな」

「も、もちろんです」

 上村豊子は、その愛らしさにクラっとしてしまう。


 学園に作られた美しい薔薇園、その端に立派で大きな温室がある(ゲーム内では小さな温室と表記されていたが)。

 その中に迷い込むと、幻想的な景色が広がっていた。

 中には見たことのない植物が溢れ、緑の香りに叩きつけられた。背の高い植物たちの葉に隠れ、半透明の妖精たちがこちらを見てはくすくすと笑っている。

「きゃ!」

 分かっていたはずなのに、妖精が服の中に入ってきて思わず驚いて声を上げてしまう。

「気を付けて、彼女たちはイタズラ好きだから」

 銀のジョウロを持って現れたのは、背の高い、とても優しそうな男子生徒だ。

「ごめんなさい、勝手に入ってしまって」

 彼は微笑むと、小さく首を振った。

「学生は誰でも入っていいんだよ。だけど、あまり騒がしいと、怒る人がいるけどね」

 植物の陰から、手のひらサイズの白いお髭のお爺さんが沢山出てきて、胸を張って怒っているフリをしている。

 ゲームでは丸い目と、棒のような口だったけれど、リアルお爺さんもなかなか愛嬌があっていいなと、微笑んでしまう。

「あたしは紙村豊子です。その、お一人で植物のお手入れをしているのですか?」

「僕はナノ・ナイスマンといいます」

 そう言って、植物に水をかける。

「僕の魔法は植物を育てるだけだから」

 どこか寂しそうな彼の顔は、声を掛けずにはいられない気持ちにさせられた。


 ホットシータウンは賑わっていた。

 吟遊詩人たちは歌を歌い、踊り子は踊っていた。あちらこちらに焼き魚、焼き貝の出店が出ていてい香ばしい匂いに包まれ、沢山の馬車が行き来していた。

 紙村豊子は、目的の人物を探していると、あっけなくその人は見つかった。

「ごめんなさい、同じ学校の人ですよね! 道に迷っちゃって!」

 全くのウソだ。

 このゲームの2では、この町のマップが表示されて攻略対象に会いに行かなければいけないので、隅々まで知っているといっていい。

「学生がこんなところにうろちょろしてていいのかよ」

 赤髪の少年はぶっきら棒に言って、無視して立ち去ろうとする男子学生。

 豊子の心にぐさりとナイフが刺さる。

 ゲームでは「あら、かわいい。強がっちゃって、ツンデレなのかしら?」なんてニマニマしていたが、リアルでこれをやられると結構キツいところがある。

 だ、だめよ、ゲーム通りにやらないと!


「ま、待ってよ!」

 ゲーム通りしばらく後ろをついて行くと、彼は仕方ないなと話しかけてくれるようになった。

 ロッソ・センネル。


 復讐のために学園にやってきた少年だ。

この町は自分の領地を、母を貶めた人物が作った町で、何とかマイナス面を探していたのだが、主人公が空気を読まず賑やかでいい街だと褒めてしまうのだ。

「すごいわね! 道は広いし、なんだかとても賑やかでわくわくしてくるわね!」

「・・・まぁ、ね」

 実際、ゲームで見ていた街並みよりずっと賑やかで、自然と褒めてしまう。そして、彼もわかりやすく不機嫌になっていく。

「うわぁ、いい匂い! ねぇねぇ! 焼き魚買ってみましょよ!」

 手を握って引っ張ると、ロッソは分かりやすく顔を真っ赤にした。

「淑女はもっと慎みを・・・」

 司からお小遣いとして渡されたお金を使い、焼き魚にかぶりつく。

 変な形の魚だったが、パクリとかぶりつくと、白身と熱々の油が口の中に溢れ、危うく気絶しそうになった。

「すごくおいしい・・・ほら、ほらほら! こっち、かぶりついてないところ! 食べてみてよ!」

 魚を渡され、ロッソはため息をつく。

「君は・・・僕を狂わせる」

 そう言いながら魚にかぶりついた。


 校舎の一角で、シスターと男子学生が話している。

「ジーク、イジメられてない?」

「大丈夫だよ、姉さん」

「本当に? 魔法使いばかりなんでしょ? しかもあの失礼男が作った学校ですもの、何かあったらすぐにお姉ちゃんに言うのよ!」

「わかってるよ」

 人目を忍んでいるようだが、しっかりと周囲の学生たちにも聞こえており、周りからクスクスと笑いが上がる。

 微笑ましき姉弟の会話なのだが、これはリアルでやられるとおちょくられるわなぁ。

 だが、これをおちょくってはいけないのだ。

「ジーク、先生が呼んでるよ? また授業サボったんでしょ」

「まぁ! お友達!」

 豊子は頭を下げる。

「豊子です。ジークのクラスメイトです」

「まぁまぁ! 可愛らしい女の子ね!」

 シスターは深々と頭を下げた。

「ジークの姉のアンナです。ホットシータウンの教会で修道女をしております」

 サボり気味のジークを先生が呼びに来いと言った時から今日かもしれない! と思っていたが、やっぱり今日だった!

 アンナは、後は若い二人に任せて、なんて言いながら帰っていった。

 年頃の男の子は家族に構われると拗ねてしまうらしいが、ジークの場合は違う。そう、ゲーム内では複雑な家庭環境で、姉を守らなければいけないと使命感を持っている。アンナを貶すような内容を口にしたら絶対にダメなのだ!

「優しそうなお姉さんね。あたし一人っ子だから、羨ましいわ」

 微笑みながらそう口にする。

 本当は上にBL本に飽き足らず、とうとう自分で書き始めた手遅れの姉がいるが、選択肢のセリフがこうだったのだから従順に、それに従うことにした。

「弟離れできない、少し困った姉だよ」

「え?」

 あれ?

 優しくて自慢の姉なんだ的な、返事が返ってくるはずなのに。

「オレは生れるべきじゃ・・・いや、そんな甘えたこと言ってる場合じゃないか」

 あれれれ!?

 ジークの心の闇がわかる名言のはずなのに!?


 ぽやーっとホットシータウンに一人遊びに来てぼんやりと歩いていると、吟遊詩人の詩を聞きながら焼き貝を食べている知人がいた。

「あ、オッサン。こんなところで何してんの?」

 森往司は微笑みながら貝の入った袋を持ち上げる。

「出張帰りは自分の街をぶらぶらするのが大好きなんだ。いいだろ?」

「ふーん」

 何となく隣に座ると、彼は貝の入った袋を渡してくれた。見たことのない紫色の身の貝だったが、肉厚で塩が利いていてとても美味しい。

「時間あるなら、デートいいっすか?」

「もちろん、喜んで」

 そのまま二人は町を歩きながら、たわいもない話をしながら進んだ。

 困ったことはない? 友達出来た? 力になれる事なら力になるよ。なんて、最初は年の離れた兄のような気持だったが、どちらかというと父親と話しているような気持になってきた。

「実は、多少ゲームと違うところもあって、ちょっとどうしたらいいか迷ってて」

「へぇ、進行に問題が?」

「どうなんだろ? そういうところも含めて、かな?」

 3階建ての建物の前に立ち止まる。

「オッサン、ここのメイド喫茶店で話聞いてくれませんか?」

「・・・よく知ってるね、ここのメイド喫茶」

「そりゃ、ゲーム内に出てきますし」

 彼の笑顔は、少し引き攣って見えた。



手直ししてないから、今回はちょっと変かも

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