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第32話 約束


 状況はすぐに動き始めた。

 浜辺を占拠した獣人たちは、5人から20人ぐらいのチームで行動し始める。食料が無くなり、人間の町を襲いに出たのだろう。

 当然だがレッドドラゴン騎士団は獣人たちの行動を監視していた。闇夜に隠れ、などということもせず胸を張って堂々と行動している獣人たちを逃すことなどできるはずもなく、逐次各個撃破されていった。

 次にレッドドラゴン騎士団が動く

 遠距離から海岸に向かい、弓矢の雨を降らせたのだ。その丈夫な毛皮や皮膚で跳ね返すものもいたが、多くの獣人は射抜かれていく。

 強靭な肉体を持つ獣人ではあるが、戦争となればなすすべもなく殺されていく。所詮小さな集落での小競り合い程度しか経験したことのない獣人に、戦争で負ける要素など何もない。

 毎日決まった時間に弓矢を射て、怒りに震える獣人たちの少数グループが押し寄せ各個撃破されていく。そのような日々が数日過ぎ、獣人たちはとうとう全軍が前進し始めた。

 全軍、というのも語弊がある。浜辺を占拠していた獣人たちが前進を始めた、ということだ。まだ半数は未だに海の船に留まっている状況だ。

 それでもまだレッドドラゴン騎士団よりも倍近い数であったが、整列しその前進を少数で受け止めた。

 獣人たちの進軍を押し止める事ができるとわかると、後方に控えていた軍が左右に分かれ挟み込んだ。

 通常の戦争ならば、挟まれないようにブロックする兵が出るものだが、何の抵抗もなく挟み込む陣が完成した。

 正面で戦っていたと思えば、脇からも攻撃され大混乱、もはや烏合の衆を騎士団が虐殺し続けるだけに時間はかからなかった。

 もはや無意味と、唯一の逃亡先である浜辺に後退し始める獣人たち。

 その一匹ですら逃すまいと殺戮を繰り返すレッドドラゴン騎士団。

 レッドドラゴン騎士団の進軍が停止する。

 獣人たちはこれを見越してのことなのか、小さな砦が建築されていた。そこで獣人たちが船に乗り脱出するまでの時間を稼いでいた。

 砦を指揮していたのが、獣人軍のボスであったダークアイ。身勝手に動く獣人の大軍は指揮しきれなかったが、少数ならば彼女の力を発揮し、レッドドラゴン騎士団を撃退する。

戦術としてはもはや無意味な追撃戦、騎士団のやる気も相成り多くの獣人軍を海に逃がすことを成功させ、砦は陥落する。

 ダークアイは砦の陥落と共に拿捕され、その場で処刑された。

 首を切られ、槍の先掲げられ浜辺は完全にレッドドラゴン騎士団が占拠することとなる。

 船で漂う獣人たちは、自分たちの島へと帰っていった。

 戦いはわずかに一ヵ月、レッドドラゴン騎士団の勝利で終わった。


 白い砂浜が、赤く染まっていた。

 吐き気がするような匂いに包まれ、多くの獣人の死体が転がり赤い波に洗われていた。騎士の死体はなく、すべて獣人たちの死体ばかりだ。

 司は生き残りの獣人たちの集団へと近づく。

 大半が子供や女、そして戦いで傷ついた獣人たちだ。司が近づくと、人の姿に虎耳をした筋骨隆々の戦士が前へと出てきた。

「・・・俺はダークアイの代わりにッ!」

 司は、男の喉を掴んだ。

 その握力に虎の男は爪を立て司の細い腕に掴みかかるが、傷一つつかない。

「がはっ!」

「なぜ約束を破った」

 太い首が、容易く潰されていく。

 力の前に死を覚悟したのか、男は目を剥きながら司に顔を向ける。

「ダークアイ、のっ、言葉っ! 導いたっ、のはっ、私、だっ、と! 残しっ! てっ! 逃げることはっ! できない!!」

 血の泡を吹き始めた虎の男。その様子を見ていた犬耳の戦士が引きはがそうとするが、司は微動だにしない。

 司は、不気味なほど静かな声で囁いた。

「世の中は不思議なものでね、手持ちの札から、何故か最悪のカードを出すんだ奴ばかりなんだ。どう考えても今、ここで、そこで、こんなことをしちゃいけないってことをする連中ばかりなんだ。しかもただの自滅なのに、何故かこちらを恨んでくる。不思議だよね」

 虎の男は痙攣しながら、手足に力が無くなっていく。

「聞いてる?」

 犬耳の男に向かって虎男を投げつけた。

 がはっ!

 はっ!

 はっ!

 虎男は涙を流しながら息を吐きだした。

「ダークアイはね、無難なカードが出せる、ちゃんとした人だった。わかるかな? それができる人間ってのはさ、本当に貴重なんだ」

 司は蹴飛ばすと、虎男は砂浜を弾き飛ばされるように転がっていく。

「君にできるのかな? 最善の手を打てるようになれ、なんて言わないよ。無難でいいんだ、無難で。すごい! こんな手があったなんて! 君って天才だね! なんて期待していない。無難でいいの、無難で」

 傷ついた獣人の戦士たちは虎男を守るように前を塞いでくる。

 だが、虎男は男たちを押しのけて前に出た。

「こうも言っていた! あの人は、お人好しだと! 命をかければ、命をかけただけ必ず答えてくれると!」

 それはまるで命よりも大切な使命であるかのように、決死な表情で伝えてくる。

 司は再び喉を掴むと、男を砂浜に叩きつけた。

「生きてこそだと思わないか? 勝てないからってゲームを投げ出せば、そこで終わりだ。無様でも、惨めでも、残酷でも無残でも耐えて耐えて、そうすれば思いもよらない奇跡も起きるってもんじゃないか?」

 戦いはどうしても止められなかった。

 ならば、止めなければいい。

戦い奴がいるのなら、存分に戦わせればいいと。

 戦いたい奴は戦い、死ぬ。

 その次だ。

 司は食糧支援を約束した。逃げ出してきた島へと戻り、魔族たちと戦う町を改め作るようにと進言した。町ができたなら、司は最大限の支援を約束した。司の領地にいる魔族の半数を援軍として付けることを約束した。ハーピィに人魚の援軍を約束した。魔族の島に人間と繋がりのある町ができることはプラスになる。だからこそ最大限の援軍を約束した。

 その町のボスは、ダークアイであることが条件であると司ははっきりと忠告した。

 このような地で死ぬなと、まだやることがあると、バカな考えは捨てろと。

「彼女は僕との約束を破った」

「約束は、守られる!」

 肺が潰されのたうち回っていた虎の男は、絞り出すように叫んだ。

「俺が、彼女の、代わりになる!」

 砂を思いっきり自分の顔に浴びせ、濡れた顔を隠す。

「俺がダークアイの代わりだ! 俺の名はダークアイ! 今日から俺の名はダークアイだ!!」

 司は、虎の男に手を差し伸べた。

「約束を守れ、ダークアイ。その約束は、決して容易ではないことを肝に銘じろ」

 ダークアイは、司の手を力強く握り返した。


土日は休みます。


用事があるので、もしかすると月曜日も書けてないかもしれません。

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