第26話 魔法学園
司は建築中の白いお城のような校舎を眺めながら、今は亡き友人を思い出す。
滝山君はいつもみんなが集まれば自分の考えを口にしていた。
「裏に何か大きな存在がある気がするんだ」
大半は真面目に聞いていなかった。
当然、司も真面目に聞いていなかった。いつだって問題が出てくれば滝山君が解決してくれるからだ。リーダーのバカヒロアキよりよっぽど信頼されていた。
「本当の敵を見誤ったらいけない。ゲームじゃないんだ、セーブ&ロードはできない。もっと考えて行動するべきなんだ」
彼の言葉が、今になってずっしりと肩に圧し掛かってくる。
あの遺跡で見た映像、乙女ゲームのオープニングムービーはこれから起きるだろう未来が流れていた。
「あれはファンタジーらしく預言? それとも元の世界に戻り乙女ゲーを作って、この世界に来たのはいいが遺跡と呼ばれるほどの過去だったとか・・・」
司はいらいらしながら頭を掻きむしる。
「バカげた想像すら思いつけない!」
いつだって色々な可能性を考えてくれていた滝山君、バカだったがいつだって能天気なまでに仲間を引っ張ってくれた浩章、綺麗事だと分かっていながら殺しをしなかった飯塚君。役立たずばかりが生き残って、生きていなければいけない人たちばかりが死んだ。
「・・・・・・」
だからこそ、言い訳しないといけない。
僕は頑張ったんだ。
だけど駄目だったんだ。
また会えた時、そう言えるように。
「もう時間だ」
司はいち早く作られたドーム状の会場へと向かった。
階段状に段々と後ろに行くほど高くなり、段ごとに扇状に机が並べられている。
そう、大学の教室のような作りを模範したのだ。学校の校舎など、司は記憶を元にガンガンパクっている。
「ユリナ、ああユリナ」
シックな黒いドレスに、髪を上げた彼女はまるで女教師風でよく似合っていた。思わず彼女の腰を抱き寄せてしまう。
「ダメよ、旦那様」
「長く君を抱いていないんだ、どうやって君に愛を伝えればいい?」
「もう知ってるわ」
そう言って離れると舞台裏から、教壇へと向かっていった。
彼女は凛とした姿で、集められた魔術師や学者、奇術師に対して怖気づくことなく話し始めた。
学園長のユリナです。
集まって頂いたことを感謝します。
この学園では、唯一魔法を研究できる施設として作られました。
そして、身分など関係なく学問を学べる場として用意されました。
自分は研究のために来たのであって教育者になど興味はない、そう思われる方も多いと思います。しかしどうでしょう? 研究は一人で続けられるものでしょうか? 材料集め、加工、準備をするだけで人生の半分は使ってしまうのではありませんか?
ならば誰かに手伝ってもらう。誰を使うのですか? 友人? 冒険者? それとも私兵? 彼らに一から教えるのですか? 文字を、計算を、歴史を、どれほどの時間がかかるのでしょうか? そして何より、信用できるのでしょうか?
学生とは、つまり新たなる研究者を生み出すということです。
この学校で魔法使いになったところで、他に就職する場所はないのですから有力な協力者になってくれるとは思いませんか?
残念ながら、我らが帝国は学問を学ぶ場が少ない。その中で我が校は多くの学生を集める予定です。考えてください、これは紛れもなくチャンスだということを。
周りを見てください、これから続く帝国の歴史の中に名を遺すであろう偉人が今ここに集められている。そして、この場で学園長であるということを、わたくしは誇りに思っております。
若く美しい女性のはきはきとした口調に、自然と会場から拍手が沸き上がった。
さすが我が妻、世界一美しいな・・・
司は感嘆しながら舞台裏に帰ってくるユリナを迎え、次に司が教壇に向かう。
「ようこそ、我が領地へ。領主の森往司です。僕はあなた方を心より歓迎し、できる限りあなた方を守ろうと思っております」
魔法学園なので当然、魔法使いが多い。
そして、この国では魔法使いは差別され、弾圧されている。そんな彼らを守ると、ここでははっきりと言っておかなければいけない。
「これからの話をしましょう」
司は集まった人々の顔を見ながら話しかける。
「先の戦争で多くの人が死にました。先の戦争で、多くの価値観が失われました。否が応でも、我々は変化しなければ生き残れません。その過渡期に僕は何ができるか考えました。それが、学校です」
彼らの表情には、やはり理解の色は浮かんでいない。
「時代は移り行く。大きな戦争が起き、復興し、そして僕が新しい概念を植え付けてやろうと躍起になっている」
司はお茶らけたように笑う。
「これから先、僕は沢山の学校を作る予定です。魔法関係なくね。そして、数多の学校の基準となるのが、この学園です。故に、僕も、そしてあなた方も模範的な行動を心掛けてもらいたい」
一拍置き、更に続ける。
「僕は君たちを歓迎し、君たちを守ることを約束した。そのことを感謝し、互いに幸福な日々を送れることを願っている」
お前ら研究場を用意してやったんだ、変なことしてみろ、ただじゃ済ませねぇからな。という脅しがちゃんと伝わったらしく、彼らは押し黙った。
司も舞台裏に返ってくると、ユリナが彼を出迎えてくれた。
彼女は手を伸ばし、司の胸に触れた。
「あなったって、本当に世界一セクシーよね」
「そうかな?」
ひねくれ者の似たもの夫婦は仲良く笑いあった。




