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第23話 ホットシータウン


 四車線の道を、司は眺めた。

 まだ建物は少なく、平地が広がっている。魔族の体の大きさを基準に作った町は、人間が利用するとなると狭苦しさはないだろう。

「本当に、できちゃったなぁ」

 感慨深い、というほど時間は経っていないかもしれない。

 それでも成し遂げた、そんな想いに満たされる。

 西には軍の物資置き場、東には住宅街。

 北には漁村と貴族専用の宿を作り、南には商業地区になる予定だ。

 そして中央には、教会、銀行、役所、大浴場に闘技場がすでに作られている。

 町の規模からしては大きい建物にしている。それでも2、300人ぐらい入れる程度の施設なのだが、さっぱりしている現状ではひどく立派に見える。

 できればまだ何もない街をのんびりと歩いて回りたかったが、残念だがそう暇じゃない。その足で向かったのは、闘技場。

 広場には戦士の像が並び、その日が来れば立派なタペストリーが駆けられる予定の円形状の建物。

 魔族と魔族の迫力の戦い! 演劇や音楽会、色々なイベント会場としても頑張ってもらう予定はあるが、ホットシータウンの目玉として盛り上がってもらわない溶けない施設。

「お風呂は、時間をかけないといけないな」

 いずれは大浴場も注目してもらいたいが、解決できない問題が沢山ある。

 水がない。国民性で肌を見せたがらない。水拭きが基本の彼らは熱された水に浸かることに嫌悪感がある。などなど、作ったはいいが問題がどんどん出てくる。

「本当に、問題はどんどん湧いて出てくるもんだよな」

 関係者専用通路を進んでいると、戦う戦士たちの声が聞こえてきた。

 街づくりに対しては従順だった魔族だが、こと戦いに関しては抵抗した。彼らは戦いを神聖なものと感じており、見世物として戦うことを嫌っていた。

 まぁまぁそいう言わず、と前回はなだめてきたのだが、どうにか今日中には納得してもらいたい。最悪プロジェクトを白紙にすることも考えないとかない。

「とうぅ!」

 鍛えられた黒い肢体が宙を舞い、倒れているマスクをしている魔族に叩きつけられた。

 すかさず関節を決め抑え込みに入り、ジャッジが飛び込んできて地面を叩きカウントをし始める。

 カンカンカン! と金がなる。

 勝利した魔族は両腕を上げ、まだ客の入っていない客席にアピールを始めた。

 そう、プロレスだ。

「おお、ちゃんと練習していたんだな!」

 司は魔族たちに声をかけと、全身から汗を流しながら魔族たちが集まってくる。

「あれほど嫌がっていたのに、様になっていて驚いたよ!」

 魔族たちは笑みを浮かべ、頷いた。

「我々が間違っていた。これほど闘志の満ちる戦いはない」

「神に捧げる舞闘があるが、それを更に高めた行為だ。満ち溢れぬわけがないのだ!」

 彼らの目は輝いていた。

 最初は棍棒を持ち凄惨な殴り合いだった。血や肉が飛び散り、人間だと死んでいるような大怪我をしてリングに倒れる。

 いや、それはそれで人気は出るだろう。それはそれで楽しいだろう。だが、それでも、さすがに、ね?

「よかった、レスラーになってもらえるんだね」

「もちろん! ただの殴り合いでは味わぬ高揚感!」

「真の戦いよりも、戦いとして優れている。是非我々にやらせてくれ」

 よかったと安堵していると、太鼓とリュートのテンションの上げる激しい音楽が会場に響き渡る。

 司は目を輝かせ、姉妹を探した。

「どうよ」

 司の世界で言うなら、ヒッピーのような恰好をした女性が手を広げて近づいてきた。その後ろから髪がボサボサで地味な服装をした女性がブツブツ言いながら後を追う。

「パッケ&ポー! パッケ! 不満を言った返事がこれか!? 君は天才だな!」

「表現者として侮辱されそのままでいられるかい!」

 姉であるパッケは高らかに言い放った。

「キャプテン・ホワイト率いる正義の軍団ジャスティス。ダーク・ファーザー率いる悪の軍団ダークソード。彼らの戦いは熾烈を極めていたが、そこに第三の勢力ゴッドマン率いるグレートパワー。ゴッドマンはキャプテン・ホワイト、ダーク・ファーザーを倒し力により支配しようとする。ジャスティ、そしてダークソードからグレートパワーに鞍替えする者も増える中、戦いにより芽生えた友情はキャプテン・ホワイト、ダーク・ファザータッグによりゴッドマンたちと戦うこととなる」

「ポー、だいぶ煮詰まってるね」

 妹であるポーは目を輝かせながら小さく頷いた。

「演劇とは違う物語づくり。面白い」

 パッケ、ポー姉妹はウリュサの町でホットシータウンのオープニングスタッフを探していた時に見つけた、実力がずば抜けていたが若く後援者がおらず酒場で二人演劇じみダンスをしていたところを、司が声を掛けた。

 プロレスの本質を見抜き、演出を次々と発想してくれた。

 キャプテン・ホワイト率いるジャスティスは細マッチョのハンサム揃い。空中殺法を基本に戦う華やかな軍団。

 ダーク・ファーザー率いるダークソードはゴリマッチョ、厳つい男揃い。攻撃を食らっても跳ね返すタフさが売りだ。

 明確に分けて魔族に説明しているのもこの姉妹の発想だったりする。

「プロレスのテーマソングはいいが、キャプテン・ホワイトのテーマソング、ダーク・ファーザーのテーマソングはどうなってるんだ?」

「ダーク・ファーザーの注文が多くてね!」

「当たり前だ! もっと邪悪な! 地の底を震わせる恐怖の存在を表現してもらわんとな!」

 黒いマスク、美しい髭を蓄えた見事な体格の魔族は筋肉を震わせながら叫ぶ。

「対となる俺のテーマソングは荘厳な、ゴブリン、お前たちの教会とやらで歌われる歌のような美しいものであるべきだ」

 白いパンツに体に白いラインを塗った彫刻のように美しい体をした魔族は微笑みながら言って来た。

「はっはっはっ! どちらも専門外だがこのパッケに任せな!」

 他の魔族たちも次々と姉妹たちに話しかけ始めた。

「ポーよ、俺はダークソードに入りたいんだ」

「それを言ったら俺はジャスティスが良かった。客からブーイングされる立場なのだろう?」

「そういう葛藤を見せるのがシーズン・ワンなのよ。そうね、こんなひ弱な団体は抜けてやる! って言ってマスクを剥いでダークソード入りするステージを作るわ。そっちは逆に邪悪なダークソードには居られないと苦戦するジャスティスに手を貸すステージを作るわね」

 大人しそうに見える少女は筋骨隆々の魔族に恐れることなく話しかけた。

「何か思いつくことがあるならどんどん言って」

 だったらと、司も考えを口にしてみる。

「グレートパワーに寝返るステージでは、お前たちだけは寝返らずに残るってのはどうだ?」

「熱い展開ね! そうしましょう!」

「ならば俺は更なるパワーを求めるキャラクターにしたい! キャプテン・ホワイトよ! 俺はお前が強いから従っていただけだ!」

「なら俺はこう返そう! いいだろう! ならば強さによってお前の友情を取り返そう!」

 自然と集まった者たちは笑いが上がっていた。

 問題は次々と出てくるものだが、こんなに楽しいのなら悪くないと思ってしまった。


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