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第19話 ヒーロー


 子供の好奇心は押さえられないもので、恐れ忌み嫌う海を前にすぐに遊び始めた。

 そして・・・

「ジョブ、しばらくドム爺さんと話をしててくれるか?」

「あ?」

 ジョブが見つけた話せる魚は、元は人間の漁師だったらしい。ここよりもずっと西の海からやって来たらしく、生まれて死ぬまでずっと魚を取り続け、気づくと魚になっていたらしい。

 その知識量はさすがで、食べられる魚の分別方法や美味しい食べ方、毒の魚も食べられる方法なども色々と話してくれている。

「精霊が騒いでるな、敵か?」

「片づけてくる」

 司は空を飛び、海辺へと向かった。

 海辺の空には、無数の化け物が埋め尽くしていた。男子は石を手に、女子を守っていた。

「あっち行けよ!」

 投げた石は明後日の方向に飛んでいき、手が羽の女の姿をした化け物はキィーキィー! と笑う。

 司はその石をキャッチし、その化け物に投げつけた。

「ギィ!?」

 その化け物は脳震盪を起こしたらしくそのまま地面に落ち、絶命した。

「お父さん!」

 誰かが司にそう言った。

 司は頷き、剣を抜いて見渡す。

「ジョージが! ジョージが海に!」

「・・・おい! お前らの中で喋れる奴はいるか!」

 人の形をしていたので司は声を上げる。

「ココ、ハ、ワレワレ、ノ、リョウイキ、ダ」

 一人の化け物が片言の言葉を話してきた。

「了解した! 後で話し合おう! 今はジョージを助けに行かにゃならん! もしここで子供たちを傷つけて見ろ!」

 派手な魔法を空に向かって投げつける。

「貴様ら種族皆殺しだ!」

 そう言って地面に剣を突き刺し、そのまま海へと飛び込んだ。

 空を飛ぶノリで海の中も突き進んでいく。周囲を空気の層で囲んでいるので呼吸もでき、寒さも感じない。これができなければ空も飛べない。

 だが、世界は一瞬で太陽の光の届かない暗闇が支配してしまう。

「『攻守自在』、発動」

 広範囲、仲間の攻撃力と防御力が上がる。

 仲間は誰か? それはもちろん、白いマントをつけている少年だ。

 白いマントにかけられた呪いのおかげで大体の場所が分かる。次に魔法の範囲に入ればピンポイントで場所を特定できる。

「呪い返ししたのは、ジョージだな」

 彼らに渡したマントや紐には、呪いがかかっている。別に脱げなくなるとか不運が続くと言った付与はない。むしろすでに呪われているということで、他者からの呪いが掛からない。無理やり呪いを解いてしまうと、呪い返しで司に返ってくる。そのおかげで危機をすぐさま知ることができるという仕組みだ。

毒薬転じて薬になるじゃないが、低コストで十分な役割を果たしてくれる。

「見つけた!」

 ジョージがいるであろう場所に、ヘリから落とされるフレアのように光の魔法を無数に投げ、深海を昼間のような明るさにする。

 すでに意識のないジョージを抱えているのは、半身魚、半身若い娘の化け物が数匹。

「『汝は英雄』発動! ジョージ!」

 意識もなくたらふく海水を飲み、もはや死んでいると言っていいほどに弱った体を一瞬にして強靭なものに変える。延命処置だ。

 半身魚の化け物は突然の光に驚き、ジョージを置いて散っていく。司はジョージを抱きかかえ、自身の周りに包まれた空気の層に入れる。すると少年はすぐに咳き込み、腕の中で暴れ始めた。

「う、うわぁ! うわぁ!!!!」

「落ち着け、僕だ」

 それでも暴れる少年に、耳元でささやく。

「お父さんだ」

「・・・お父さん」

 ジョージを抱え、浮上する。

 ゆっくりと光が迫り、空へと飛んだ。

「うわぁ!」

 ジョージの嬉しそうな声を聴きながら、周囲を見渡した。

 浜辺では、突き刺した剣を引き抜き少年が襲い掛かろうとする鳥の化け物に威嚇していた。

 その少年の前に、司は降り立つ。

「約束を破ったな?」

 司の拳は、鳥の化け物を空高く舞い上げた。

「マ、テ!」

 話せる化け物が慌てて声を上げた。

「ソイツラ、コロス、イイ! ハナス! テキ! ナラナイ! ミカタ!」

「ここにいる子供たちの数だけ殺す。囲んでいる連中だけでは足りない」

 腰に差しているナイフを抜き、一閃。囲んでいた化け物の首が転がり落ちる。鳥の化け物たちは悲鳴のような奇声を上げ始めた。

「殺そうとした。殺したのと同じ。あと2匹だ。僕はおかしなことを言っているか?」

「イヤ、シンヨウデキル。アトフタリ、サシダセ」

 何かしら序列でもあるのか、生贄はすぐに決まり鳥の足で頭と体を掴み二匹の化け物が差し出された。

 司は苦しまぬよう首を落として殺した。

「リクノ、シハイシャ、ハナシガシタイ」

「話がしたい割には過激な挨拶だな」

 海から若い娘が次々と顔を出してくる。その目には怒りと、野性的な飢えに似たものを感じた。

「サカナニ、ヒッパラレタ。ワレワレハ、ウエテイル。オトコガイル」

「あの魚も、君たちも、同じってこと?」

「ソウダ。ハンショク、オス、クロイヤツ、ワレワレ、タベル」

「いいことしようよ、おにいさん!」

 若い娘の声が海から聞こえてくる。

「いいこと! うみのなかにいらっしゃい! たのしみましょう!」

 司は大きくため息をついた。

 異種族コミュニケーションについてあれこれ考えないといけなさそうだ。

 と、頭を抱えていると子供たちが司を取り囲んだ。怯える様に、服の裾に掴んでいる。

「お父さん」

「お父さん」

 子供たちは口々に司をお父さんと呼び始めた。司は英雄スマイルを浮かべ子供たちの頭をなでながら、ヤバい、マジで変な宗教じみてきたと震えあがった。


 



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