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第1話 司とユリナのスローライフ

 山のように積みあがった書類に目を通しながら司は大きくため息をつく。

 これからの予定、城で使う備品、それをどこで購入するかの指定、使用人たちの給与の詳細などなどなど・・・

 本当ならこのような雑用はバトラーのオオに任せるべきなのだが、彼は尋常ならざるほどに無能なのだ。スケジュール管理を任せればダブルブッキングは当たり前、金銭の管理を任せれば当然の権利と言わんばかりに横領、若い使用人の娘に手を出し断られれば無断でクビにしようとする。せめて身なりは整えて立っているだけでもいいのだが、常に白いシャツは出ており髪の手入れもしない、40代の太った男は城の中を女のケツを追うように徘徊している。

「クソ、執事って何でもできる優秀な人間じゃねぇのかよ」

 まだ慣れないこの世界の文字に苦戦しながら、いらいらとため息をつく。オオから仕事を取り上げなければ、仕事が数倍にも増えて帰ってくるのだ、これは仕事を減らしているのだと自分を言い聞かす。

 ただこの無能に多大な給与を渡さなければいけないことに関しては、どうにも腹が立つ。どうにかこのクソったれを棒で死ぬまで殴り続けたい欲求がわいてくるが、それができないのだ。

 社交界と同じだ。

 謀略を尽くし、他者を蹴落とし生き残った猛者たちがこの城に集まっている。とある貴族のご令嬢、豪商の息子や娘たちばかりが集められた。

 その猛者たちが、使用人としては全くの役立たずなのは致し方がない。

 本末転倒、それは社交界でもよくあることだ。うまく立ち回り権限や領地を増やしていくも当人のそれを担うだけの能力がなく、大災害を引き起こすのだ。

「ツカサ、時間よ」

 ノックと共に入ってきたは妻のユリナだった。羽ペンを置き、伸びをして立ち上がった。彼女の手からコートを受け取りながらキスをする。

「やれやれ、久しぶりにまともな食事ができそうだ」

 力ない言葉で彼女に呟いた。

 これからウリュサという町に行かなければいけない。

 未だに魔族の隠れ集落が点々としている中で唯一、文明のある町と道が繋がっているモリオウ領で一番発展している町。正直気が重いがこの町を発展させなければこの領地では何もできない。

 ユリナは意を酌み、キスを返しながらコートを着せてくれる。

「妬ましいわ。わたくしだってたまには人間が食べる食事がしたいものだわ」

「そうだろ?」

 できる事なら彼女を連れて行きたい。

 彼女は生まれながらの政治家、小難しい話は全て彼女に任せておけば問題はない。だが、彼女にはこの城でしなければいけない仕事がある。

 ユリナは司が座っていた椅子に腰かけ、ペンを取る。

「助かりますわ、ほとんど仕事を終えていますわね」

「大丈夫さ、使用人がまた沢山問題を起こしてくれるよ」

「ふふふ、泣きたわいね」

 普通以上に仕事が多いうえに問題を起こす面々がそろっているのだ、城からいなくなるわけにはいかない。女が男の仕事に手を出していけない、必ず大きなミスをするという暗黙のルールがあるが、現代日本の高校生だった司はそんなこと気にしない。それに、幼い頃から厳しい教育を受けているユリナからすれば鼻で笑うルールでもある。

「町で何かおいしいものを買ってくるよ」

「まぁ! あなたと結婚してよかったと思ったわ!」

 二人は長くキスをして、指を絡め合い後ろ髪を引かれながら別れた。


 旅支度をして城から出ようとしたところで、オオとばったりと出会った。

「ご主人様、どこかにお出かけで?」

 言うまでもないが、執事がスケジュールを把握していないのは問題だ。もちろん、彼にそんなことを望んでなどいない。

「しばらくウリュサに行ってくる」

「ウリュサ?」

「町の名前だよ。オオ、くれぐれも何もしないでくれよ。何かあればユリナに報告すること。メイドに手を出さない、君の権限でクビにするのもダメだ。いいな」

 年下に侮辱されたと思ったのだろう、太った男は本当に顔を真っ赤にしながら押し黙ってしまった。

 もちろん司は侮辱したわけじゃない。この城で暮らし始め半年、すでに3回メイドに手を出し、10回以上拒否したメイドを勝手にクビにしようとした前例がある。心の底から心配しての言葉だ。

「オオ、誤解だよ。僕は君に期待しているんだ。ここはまさに世界の端、見捨てられた場所だ。だけど今ウリュサ近くに屋敷を建てる計画がある。そこの管理を君に任せようと思っているんだ。それまで我慢してくれ」

 すらすらと心にもない言葉を連ねると、「ここは世界の端」で顔が青くなり、「屋敷を建てる」という話で希望に輝き、「君に任せる」それに自慢げに変わった。年上の部下の機嫌取りはどうにか成功したようだ。

 改め期待していると伝え城から出た。

 城を出ると、予想と反して若い御者が馬車を用意し前に立っていた。

「名前は?」

「え、アルバートです」

 彼は声を掛けられるとは思っていなかったらしく、ひどく恐縮しながら答えた。

「見ない顔だね。前の御者、ジム爺さんはどうしたんだ?」

「そ、その、持病が悪化したので、その、孫の自分が代わりを務めます!」

 はッ持病?

 こちらに馬車を回せと何度も命令しても動かさず「馬車が使いたいなら自分の足で歩いてきな」と言い放ったニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべていた老人だ。

「馬車は君が綺麗にしたのか?」

「は、はい! 埃をかぶっていたので、急いで綺麗にしました!」

 年は十代後半、高校生ぐらいの少年の肩に手を置いた。

「自信を持っていい。間違いなく君がここで一番優秀だ」

 そう声を掛けて馬車に乗った。


 コメントを書いてくださった本当にありがとうございます。実は変なところ見てて「コメント付かないなぁ」なんて思ってました。

 実のところ、対人恐怖症ならぬコメント恐怖症で、コメントを読もうとすると震えて駄目なんです。直そうと思ってはいたのですが、どうも、こうにも。今後もコメントを読まないと思います。ご迷惑をおかけします。ごめんなさい。

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