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第16話 白い衣の子供たち

 馬車が次々と子供たちを下ろしていく。

 彼らは戦争で両親を失い行き場を失い路上で暮らしていた、ストリートチルドレンというやつだ。聖なる導き手教に恩を売るために大量に引き取ることになったのだが、数百人と聞いていたのに確実に千人を超える数じゃないかと苦笑する。

『あー・・・あー・・・よし。奥の方まで聞こえるかな?』

 この日のために用意した朝礼台に上り、城でも使っている銅の筒に話しかける。周囲に置かれた無数のメガホンから声が出ているはずだ。

『ようこそ、モリオウ領へ。僕は森往司、この地の領主だ。君たちを預かることになった。路地裏よりはいい寝床に、盗むよりはスリリングのない食卓、質素だがちゃんとした衣類も支給するつもりだ』

 司は子供たちを見渡した。

 赤子を抱いた少女、どう見ても15歳より年齢の高い男、犯罪者だろう手上に足枷がされたグループなど、普通の子供たちが並んでいるわけじゃない。

 魔王軍との戦いで何度か軍隊を指揮したことがある。その経験から子供数百人程度どうにかなると思っていたのだが、甘い考えだったかもしれない。

『君たちには働いてもらう。今新しい街を建築中だ。いずれはそこで暮らし、そこで働いてもらいたい。そのための職業訓練だ。働いた上前ははねるが、君たちの生活水準を高めることに使う。そこは諦めてくれ』

 青いコートを着た大人たちが、立ち尽くす子供たちに白いマントに革のリストバンド、腰巻用の紐を渡していく。

 青いコートの彼らは、指導員だ。聖なる導き手教の信者、貴族の教育係の家系だが就職できなかった者、引退した冒険者などなど、いろいろな人員が集められている。

 生真面目に社交界に行っている司は、人を集めるのは得意な方だ。

『それには戸籍管理の一環だ。詳しい話はあとでゆっくりさせてもらうとして・・・』

 ここで気の利いたことの一つや二つ言ったら決まるんだが、どんなに言葉を選んでも怪しいカルト宗教の言い分にしかならず、これはもう、いつも通りが一番だと居直った。

『孤児院とは名ばかり、強制労働をさせられていた。親を殺したであろう魔族と同じように働かされ、尊厳を踏みにじられた。地獄のような施設だった。今でも悪夢で目が覚めることがある。この苦しみは誰にも理解できない』

 小さく息を吐く。

『そう言っておけばいい。羨ましいなんて思われるより、憐れんでもらった方がいい。変に嫉妬され、心当たりのない恨みなど買う必要はない』

 思いもよらない内容だったのだろう、子供たちは好奇心の視線が向けられ始めた。

『ここは僕の土地だ。できれば住民には裕福になってもらいたいし、僕は立派な領主様と思われたい。何かおかしなことを言っている?』

 おちゃらけてみせ、いつもの調子で話し始める。

『僕は君たちが哀れだとは思わない。何故なら君たちは努力次第で貴族になれる。何故なら君たちは努力次第で億万長者にもなれる。何故なら君たちは、沢山の家族に恵まれることができる。君たちは希望に満ちた明日を手に入れることができる。僕は君たちの自立にできるだけ協力するつもりだ。この何もない石と砂が広がる大地で、君たちが望む幸運を掴んで欲しい』

 そう言って筒を下ろし、朝礼台から降りた。すぐに慌ただしく青いコートの指導員がこれから暮らす建物へ案内し始めた。

「よぉ、感動的な話じゃねぇか、え?」

「そうだろ?」

 迎えてくれたのは精霊騎士団長ジョブ・ロイズと、若くして騎士団に所属されたアラン・スノーだった。

 精霊騎士団は孤児の受け入れの相談役として随分助けられている。軍隊を基礎に組織化したのだが、青いコートの指導員たちに指導したのが精霊騎士団の団員になる。問題は次から次へと起きるだろうが、指導員たちにも相談役ができたことはよかったかもしれない。

「一言よろしいですか」

 アラン・スノーはピシっと背筋を伸ばして話をしてきた。

「もちろん、気づいたことがあったら言ってくれ。枠組みができる前だから、今なら何でも変えられるよ」

「そ、そうですか」

 生意気だ生意気だと言われ続けてここまで積極的に意見を訊ねられたことがないのだろう、アランは少し緊張した表情に変わった。

「素晴らしい話ではあったのですが、それでも彼らはここから逃げ出すと思います」

 断言するアランに、ジョブも同意するように頷いた。

「まぁよぉ、そういうもんだ。犯罪者だとしても一人で生きてきた連中だ、いきなり組織の一員になるなんてもんは納得いかなんだろうよ」

「そうですね、半分、とまでは言いませんが2割ほど、200人ぐらいは逃げ出す可能性があります」

 司は子供だ、大人だと区別はない。ちゃんとした幼子もいるし、どうしようもない大人も沢山知っている。

 アランの言葉を真剣に聞き、小さく頷く。

「2割と言わず、半分ぐらいは逃げ出してもらってもかまわないんだけどね」

 司の返答に、アランとジョブは驚いたようだ。

「驚く事でもないでしょう。地産地消を推進してるけど、まだ時間はかかる。。それまでは食料を購入しないといけない。もう卒倒しそうなほどの金額だよ。食費が浮くのは願ったりだよ」

 相当意外だったらしく、彼らは絶句している。

「その、逃げ出した子供たちは、山賊や盗賊になります。できる限り脱走は止めた方がいい。今後返って面倒なことになります」

「面倒なことはないさ。逃げ出せば惨めな結末が待っている。あんな風にはなりたくない、手に入れた自由をこんな風に失いたくないって思ってもらえるのなら無駄じゃないよ」

「見せしめ、ですか・・・」

 少年は怒りの目を向けてきたが、司は平然と受け止めた。

「崖から落ちそうで、助けを求める声が沢山あるとする。できるだけ多く助けるにはどうすればいい? 差し出した手に捕まる子を助け、払う子は見殺しにするしかない。いちいち払う子に手間をかけていたら、救えるはずだった子が救えなくなる。何かおかしなこと言ってる?」

「だがよぉ、相手はガキだ。一つや二つ、間違いを犯すもんだ。それを救ってやるのが大人の役割なんじゃねぇのか? え?」

「もちろん、できるだけのことはするつもりさ。裏切者は必ず殺す、なんて言ってないよ。だけど、救われようとしない人物は世の中に沢山いる。それを教えてくれたのはジョブ・ロイズ、あなたのはずだ」

 渋い表情でジョブは革袋から酒を飲む。

「結婚して多少は丸くなったと思ったが、やっぱりお前はクッソったれだ」

 司は心外だな、そういう表情で肩をすくめた。



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