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第15話 魔族の特徴

 レディ教育を行い始めて数日、ロラを抱っこし始め妙な違和感に気が付いた。

 腕や背中、腰や体温など何か違う。

 嫌悪を抑え込むためにも、この知的好奇心に身をゆだね違いを探した。

「骨格、肉の付き方、特に背中なんてまるで違うわ」

 人体の勉強をしているわけじゃない、結婚する前はまるで知らなかったが、その後は、それなりに詳しくなった。

 確かにこの体つきでは人間の服では窮屈だろう。特注で作り替えた方がいい。

「よく考えると、魔族はどのような種族なのか知らないわ」

 ロラがとても賢いことは気が付いた。動き回りたいという衝動を抑え込み、自分が今何をしなければいけないか理解し、学び取ろうとする意志を感じることができた。

 しかし、魔族という種族の特徴をあまりに知らなすぎることに気づかされた。

「そうね、今日は町に行ってみましょうか」

 外に出られると聞くとロラは嬉しそうに頷いた。体を動かせるのは嬉しいだろう、あれほど筋肉が発達していれば、動きたくもなるはずだ。

 町というと、ウリュサではなく、建築中の町のことだ。そこにはゴイルを含め、多くの魔族が働いている。ロラからすればウリュサの町よりもずっとこちらの方が自然に立ち寄れる場所なのだ。

 この城で唯一まともに働いてくれるアルバートに馬車を出させ、町へと向かった。現場にたどり着くと、魔族たちの輪ができており、二人の男が壮絶な殴り合いをしていたのだ。

「な、なにをしているのですか、二人は」

「これはモリオウ伯爵夫人! どうなさったのですか!?」

 驚いて近づいてきたのは総責任者であるグレンタだ。相変わらず日に焼け赤い肌をした青年は生き生きとした活力にあふれている。

「それより彼らは何をしているのですか!?」

「ああ、彼女たちは一人の男性を巡って争ってるんですよ」

「・・・彼女?」

 確かに長い髪を縛っているように見えるが、周囲魔族たちと体格はまるで変わらない。それに凄惨な殴り合いは、殺し合いをしているようにすら見える。

「彼らの女性は情熱的ですからね! しょっちゅう男性の奪い合いが行われるのですよ!」

 グレンタは笑いながら答えた。

 人間なら頭が弾け飛んでいそうな拳を顎に食らい、とうとう一人の女性が大地にたれた。両者とも顔を腫らせ、だらだらと血を流し地面に血の池ができている。立っている女性が拳を上げると、1人の魔族が立ち上がり力強い抱擁をした。取り囲む魔族たちは手を叩いて二人の男女を祝福している。

 ユリナの目からは、男同士が抱き合っているようにしか見えない。

「彼らは物事を決める時は殴り合って決めるんですよ! 基本的に強いことが正義! ボクたちからすると恐ろしくなっちゃいますけど、彼らからするとほほえましいシーンなんですね」

 傍らのロラの目も輝き、ぶんぶんと殴るフリをしている。レディとしてどうかと思ったが、魔族からすれば強さは美しさなのかもしれない。

「ロラ、少し遊んでくる?」

「いいの!?」

「ええ」

 そう言うと、ぴゅーんと魔族たちの子供の輪の中に入っていった。

「おっと、それで何かご用でしょうか?」

 現場を見て回り、自主的に学んでいこうと思っていたのだが、もっと効率的なもっと効率的な方法を思いついた。

「グレンタ、あなたは魔族に詳しいですよね」

「ははは! そりゃ一緒に働いていますからね! 勝手に詳しくもなりますよ!」

「魔族について学びたいの、お願いできるかしら?」

 もちろんいいですとも! 彼はあっけらかんと答えると、それはそれは楽しそうに町の進捗と魔族の紹介をし始めた。

 広大な敷地は平らになっており、あちらこちらで大量の石が積み上げられているのが見えた。魔族は人間なら5、6人で持ち上げなければいけないような大岩を片手で持ち上げ積み上げている。

「意外に思われるかもしれませんが、彼らは基本的に物静かで思慮深い種族なんですよ」

 積み上げられていた岩が崩れ、魔族が潰された。人間なら潰されたら死んでしまいそうな岩だったが、魔族は普通に起き上がった。

「まぁ、多少大雑把なところはありますけどねぇ」

 よく見れば魔族のグループは必ず人間の指示を受けている。尋常ならざるパワーはあるようだが、細かな作業は人間の指示がないとできないようだ。

「よくも悪くも極端なんですよ。彼らは約束を重んじる人たちでね、約束をたがえると命を差し出そうとするんですよ。だからかなぁ、できるのにできないとか言うんですよね。彼らの意を酌むのは難しいんですよ!」

 そんなことを話していると、見覚えのある、顔を晴らした女性が大きな荷物を抱えて移動しているのを見つけた。

「彼女は・・・確かか先ほど殴り合っていた魔族に思えるのですが?」

「ああ、そうなんじゃないんですか?」

 さもありなんと言わんばかりの態度に驚いた。人間なら一ヵ月は保養、下手をすれば命を落とすかもしれないほどの大怪我を負っていた。しかし先ほどよりも確かに軽傷になっているように見える。

「エリート族は傷の直りが速いんですよ! 頭が割れて人間なら死んでるような怪我も一日もあれば完治ですよ!」

「エリート族?」

 グレンタは驚いてユリナに顔を向けた。

「知らないんですか? 彼らは変態するんですよ」

「ヘンタイ???」

 そんな常識的なことも知らないんですか!? そんな表情をされながら説明を受けた。

 幼少期はロラのように角の生えた幼子のような姿。

 中間期は、12、3歳ぐらいから蝙蝠のような羽に尻尾が生えるらしい。それから思春期から成長していくと大きく体型が変わる。

 エリート族。名の通り戦士としてのエリートで、ただでさえ大きな体格が更に大きくなる。魔力も飛躍的に伸び、自然回復力も尋常じゃなくなる。羽と尻尾は失われ、空は飛べなくなってしまう。立派な角が生えるのが特徴的。

 呪術師。魔力に特化した戦士。恐ろしいほどの魔力を得ており、癒しの魔法は死者すらも蘇らせるという。羽で空を飛び、戦況を読み解く知力も持っている。捻じれた角が特徴。

 他にも走ることに特化した平べったい角をしたランナー、空を飛ぶことに特化した小さいが無数の角が生えているシュレッダー、不死に特化した白い角が生えているムゲンなど、心の在り方で肉体は変化するらしい。

「いやぁボクはエリート族しか見たことないですけどね! ここって戦争の最前線だったでしょ! だからエリートばかりが集まっていたらしいんですわ! 彼らの村には数人呪術師はいるそうですけどね!」

 そう言ってグレンタはユリナの耳元でささやく。

「それにしてもロラちゃん、彼女はどんな子なんですか?」

「え?」

 ユリナは言葉を詰まらせる。ロラが魔王の子であることは伏せている。この事実を知っているのは、ゴイル一派とツカサとユリナだけだ。魔王の子を匿っていると知られれば、それこそ大きな問題が起きてしまう。

 グレンタは自分の頭をツンツンとつつく。

「彼らはね、角を見ると大体わかるんです。大きくて立派な角を持ってる子は、力も知恵もあるんです。見てくださいよ、子供とは思えない角!」

 ロラは周囲のエリートに負けないほどの角があり、重たそうで可愛そうに思えるぐらいだ。しかし他の子供たちは指先ぐらいの大きさで、髪に隠れて見えないような子さえもいる。

「あの子は大物になりますよ! 彼らのことを知らずにロラちゃんを見つけるなんて、さすがはモリオウ夫人!」

 おべんちゃらではない、裏表のない全くの称賛にユリナは少し戸惑ってしまう。


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