第12話 続・ギルド長ログエル
「話が違う!」
ウリュサの職人ギルド長ログエルはいつも怒ってるなと思いながら、司はいつものように「誤解ですよ」と言い訳をした。
「何が誤解なものか! 排除したかのように見せかけ職人を引き抜くなど卑劣なことをしやがって! 新しい街を開拓する職人はすでに集めている! 大損害だ!!」
知らんがな、と心の中で突っ込みながらも顔は笑顔で受け答えをした。
「ああ、よかった! 職人は集めてくれていたのですか!」
想定外の反応にログエルはたじろぐ。
「誤解があるようですが、引き抜いたなんて勘違いですよ。知っての通り労働者の9割が魔族です。当然トラブルが起きれば、人間の職人は・・・」
悲し気に首を振る。
司の言わんとしていることが理解できたのか、ログエルは顔を青ざめる。
「僕が傍にいれば職人を助けることもできますが、そういつも現場にいるわけには行けませんから、実験です。だいたい十数人の職人だけで街ができるわけないじゃないですか」
「そ、それは、そうだが・・・」
司は苦悩の表情を浮かべ、疲れたようにソファーに寄りかかり頭痛を押さえるように頭に手を置いた。
「未だに死人が出ていないことが不思議なぐらいです」
「だ、だが情報では問題なく街づくりは続いていると聞いているぞ!」
ふーん、そちらもスパイごっこですか? と思いながら心の中で笑う。
しかし顔では苦悩するように頭を振る。
「実際はトラブルばかりですよ。彼らはよくやっている。命がかかっているのが分かるんでしょうね。まるで魔族の奴隷のように低姿勢で接し、毎日狂ったように働いています」
ちなみに現場監督のグレンタは本当に低姿勢で魔族に接し、毎日狂ったように働いている。少し違うことと言えば、いつも楽しそうに笑っていることぐらいか。
「わかるでしょ? 少しでも機嫌を損ねるようなことを言えば」
首を掻っ切るジェスチャーをするとログエルは青ざめながら生唾を飲んだ。
「しかし安心しました。いつ何があってもおかしくない。しかしログエルさんはすでに職人を用意してくれているなんて、すぐにでも交代しましょう! いつ頃街に来てくれますか!?」
明日にでもすぐに来てくれという圧に、ログエルはたじろぐ。
「そうだ、ログエルさんも来てください! あなたが来てくれればきっと何もかもうまくいく! きっと街づくりは一気に加速しますよ! そうだ、それがいい!」
「い、いや、ははは、いやいや、すぐと言っても、すぐというわけにはいかんのですわ」
慌てて止めるログエルに、しょんぼりと「そうなのですか?」と司は呟く。
「新しい職人たちも大量に来ましたからな、彼らの意見も聞かねばなりません」
司は落胆し、心労が絶えないとういう風にため息をつく。
「本当なら魔族を使わないという選択肢がベストなんですか、知っての通り経済が切迫している。国からの援助金なんて、監視塔と一つ作れば空っぽです。それなのに監視塔10棟に砦は6つ、それを支える街を作らないといけないなんて、魔族と戦っていた時の方がずっと良かった」
「どこもそうだ」
とうとうログエルは司を慰め始めた。
感謝するように顔を上げた。
「本当にログエルさんには頼りっぱなしだ。このウリュサからの税でどうにかこうにかやっていますけど、この街の発展だけが僕の希望ですよ」
「こればかりは、議長のおかげですよ」
「議長からも、ログエルさんの働きが大きいと聞いています」
いやいや、自分などと言っているが、ログエルはまんざらでもない表情だ。
ユリナ曰く、街を発展させたいなら凄腕の職人ではなく、政治家だと言っていた。事実グィン・ナラール領からどんどん人が流れている。人を呼び込む才能、トラブルを起こさない才能に関してログエルの右に出る者はない。
「せかすようで申し訳ないのですが、屋敷はまだでしょうか?」
「町の郊外に建てているいる屋敷ですか? そう簡単にゃ家は建ちませんよ」
改めて疲れたように振舞う。
「早く都会のウリュサ近くに引っ越したいんです。背には魔族の大陸と海、前を向けば痩せ細った土地に、今は魔族が街を建造中です。とても妻を住まわせておける環境ではないんです」
「うぅむ、確かに。伯爵はまだ子供もいないのでしょう? 確かに、なにが起きても不思議じゃない」
一刻も早く屋敷を作ってもらいたい理由がある。
街が、想定よりも早くできそうなのだ。
普通に考えて5年から6年はかかるであろう工事を、魔族に頑張ってもらって3年ぐらいでどうにかならないかと思っていた。
ところがだ、半年ぐらいで街ができると、わけのわからんことを言っているのだ。
魔族は、手足の生えた身軽な重機。その重機が毎日100人単位で働くパワーを舐めていた。現場で働くグレンタや職人たちも魔族の有用性を素早く理解し、効率よく、最大限活用している姿を見ると感心してしまう。
「半年以内にできるでしょうか?」
「半年以内!? そう、だなぁ」
「多少多めに支払ってもかまいません」
ログエルがいつもの、カモを見るような視線を向けてきた。
悔しいが、ここは素直にカモになろう。町ができる前に、何とかして奴らをその屋敷に押しやらなければいけない。
役に立たないどころか、害悪の使用人ども。
素晴らしい町ができてしまうと、絶対に城から離れたがらないだろう。早く辺境から抜け出したい、そう思っている間にその屋敷に押しやらねば!
町が、ああ町が恐ろしい勢いでできてしまう!
「そう気を落とさず。どうだ、食事にでも一緒に行きませんかな? 前と違いいい料理店が沢山出来ましたからな!」
城に使用人が居座るという恐怖をくみ取ったのか、まったくもって渡りに船、是非ともとお願いした。
「ええ、しばらくはここにいるつもりです。演劇に食事、娯楽という娯楽を楽しむつもりです。僕にだって休みは必要でしょう!」
「もちろんですとも! 人生の楽しみ方をお教えいたしましょう!」
ログエルは司の首に腕を回し、上機嫌で部屋を出た。
大急ぎでオープニングスタッフをかき集めなればいけない。演劇に食事、娯楽という娯楽を街に集めるつもりだ。そう、今まさに働きどころなのだ。




