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司は駆け寄り、剣を振るった。
それは虚空で何かに衝突し、止まってしまう。
彼が手を振るうと、どういう仕組みか司の体は軽々と宙を舞っていた。
地面に叩きつけられると、突然と全身から血が噴き出た。
「痛ってぇ・・・」
内部に衝撃があったようで、何度も咳き込む。
司は寒気がし、慌てて無様に転がりながら視線を避ける。
すると、周辺から何かが弾ける音が聞こえてくる。
「すごいね、もう僕の手品を見破ったの?」
見破ったわけじゃない。
だが、視線を追えばその先に何かがある、そのぐらいの推理で避けているだけだ。
それならば・・・
司は再び駆け寄り、視線を外しながら剣を振るう。
当然見えない壁に阻まれるが、それでも何度も剣を振り下ろした。
「無様すぎて、見てはいられないよ」
彼の姿は腰に帯びた日本刀を抜き、横に薙いだ。
これを待っていた。
切りつけるのなら、バリアもなくなる、はず!
彼の剣を避け、間髪入れず首筋を叩き切る!
柔らかな感触はあったが、皮一枚切れていない。
慌てて後方にジャンプすると同時に、光の爆発が起きた。
地面に叩きつけられながら、できるだけダメージを減らす。
「恐ろしいな、迷わず殺そうとするなんてね」
やはりダメか。
どうこうできる差ではない。
オリンピック選手が新幹線相手にスピード勝負しているようなものだ。
と、間髪入れず巨大な槍が振ってきた。
「うおおおおおおおおおお!!!」
巨大な黒い影は、彼の元へと振り下ろされる。
「無駄だよ」
巨大な槍は、やはり虚空で止まり、その巨体は大きく弾き飛ばされた!
「わお! ゴイルが弾き飛ばされた!」
後ろから声を掛けてきた少女に、苦笑する。
「紙村豊子、ここは戦場だから下がっていてくれないかな」
「うわ、オッサンのショタ化? 誰得なわけ?」
紙村豊子。
異世界に飛ばされ、乙女ゲーのシナリオ通りハーレムエンドを達成し現世への扉を作るきっかけとなった少女だ。
彼女の後方には、アラン・スノー。
ナノ・ナイスマン。
ジーク。
ロッソ・センネルの姿もあった。
「どうします、あの化け物・・・いえ、神というべきか」
アラン・スノーはこの世界のシャツにパンツ姿、しかし異世界より持ってきたのだろう剣を握っていた。
「まさか聖なる導き手が、あれほど禍々しいものとは」
ナノ・ナイスマンも同じような恰好だが、豊子を抱きながら後ろに下がらせる。
「妄執だ、くだらないものに執着し続けている」
ロッソ・センネルが呟く。
「まぁ、気持ちはわかるがな」
ジークが答えた。
「すごいね、すごいすごい。どんどん出てくるじゃないか! この世界にどれだけ人を呼んだんだ!?」
彼はおかしそうに笑った。
ゴイルは地面に叩きつけられながらも、再び槍を振るった。
しかし、彼はまるでピクリとも動かない。
「正直なことを言うと、お手上げだよ」
司はアランを下がらせる。
「彼女を守れ。勝てる可能性は、ない」
司は、彼に向かってゆっくりと進んでいく。
もう全身が痛いが、殺されようとしているのだ、たいした問題じゃない。
「ゴイル!」
「おう!」
黒騎士ゴイルと挟むように攻撃を仕掛ける。
もうバリアなど必要ないとひらりと、彼は避けようとした。
だが、司の剣も、ゴイルの槍も振るうたびに当てられていく。
「ああ、ムカつくな!」
発光すると、司とゴイルは弾き飛ばされた。
爆発に巻き込まれたかのような熱と、トラックにはねられたかのような衝撃を受けながら、地面を転がる。
弱点、というほどではないが、やはり戦い慣れていない。
今までチート能力を使い、碌に修練もせず力でねじ伏せてきたのだろう。
自分も同じようなものだが、それにしてもひどい。
とはいえ、やはり差が大きすぎる。
どれも必殺の一撃で、こちらは切り傷すらつけられない。
「もういい、飽きてきたよ」
今までの閃光とは違う、光の物質というような、そうしたものが司たちを貫いた。




